
ティム・ダンカンを継ぐ『チームのための自己犠牲』
ビクター・ウェンバニャマがスパーズと5年2億5200万ドル(約380億円)の契約延長に合意した。来シーズンにオールNBA、MVP、ディフェンシブ・プレーヤー・オブ・ザ・イヤーのいずれかを獲得すればキャップの30%にあたる『スーパーマックス』に条件を引き上げられるが、ウェンバニャマ自身がこの条項を放棄。その『割引額』は約5100万ドル(約77億円)となる。彼は自身のSNSに「僕は何が何でもここに残る」とメッセージを綴った。
将来の『NBAの顔』となるキャリア3年目の若手が、契約面で大きな譲歩をするのは前例がない。それでも、スター選手が収入よりもチームの成功を優先する構図は以前にもスパーズでは見られたものだ。
ティム・ダンカンは2012年と2015年の契約延長で譲歩を受け入れた。2012年はボリス・ディアウ、ダニー・グリーン、パティ・ミルズの残留を可能にし、2014年の優勝に繋がった。2015年にはダンカンのさらなる譲歩により、スパーズはフリーエージェント市場でラマーカス・オルドリッジを獲得し、カワイ・レナードにマックス契約を与えている。
ダンカンはキャリアを通じて約2億4000万ドル(約360億円)を稼いだが、彼が常に収入を最大化していれば3億ドルの大台に乗っていただろう。それでも後にダンカンは「チームが競争力を維持し、さらに強くなるためなら、ある時期に少しばかり収入を減らしたこともある。誰がいくら稼いでいるか、僕は興味がなかった」と振り返っている。
ただ、ダンカンはすでに大金を稼いだベテランになってからの譲歩だったのに対し、ウェンバニャマはまだルーキー契約の途中で、生涯年収の減少幅は桁違いに大きなものとなるし、リスクもある。
それでも、サラリーキャップの縛りがあまりにも強くなり、育成型のチームが成功をつかめる期間が2年か3年しかない今のNBAは『異常事態』にあり、ウェンバニャマは勝つために先手を打ったとも言えるし、スパーズがそれだけの信頼に足る組織であることを彼に示したが故の契約延長とも言える。
今のサラリーキャップのルールは、上位の一握りのスター選手が大きな契約を得て、それ以外の選手が割を食う不均衡さがある。ウェンバニャマが個人の選択でそれを是正することに議論は起きるだろうが、同じ世代の仲間が一緒に成長でき、なおかつ優勝を目指せるスパーズの環境の『価値』を認めたからこその金銭面での大幅譲歩。NBAの常識を覆るウェンバニャマの選択が、スパーズをかつての『常勝チーム』へと引き上げるかもしれない。