ミッチェル・ロビンソン

不器用だがスマート、自己犠牲を惜しまない『戦士』

ニックスの優勝は1973年以来53年ぶり。1973年は世界的には第4次中東戦争に伴って『オイルショック』が起きた年で、NBAでは翌シーズンからスティールとブロックのスタッツを採用したという意味で『旧時代』を締めくくる年だった。その数年前からディフェンス力で勝負するチームが成功を収めるトレンドがあり、ニックスも堅守で優勝をもぎ取った。

その後のニックスは1990年代に2度のNBAファイナル進出を果たすも、優勝はかなわず。今世紀になって初めてNBAファイナルに進出したニックスは、53年前と同じくディフェンスで勝負するチームだった。

ファイナルMVPは満場一致でエースのジェイレン・ブランソンが受賞した。それでもこの優勝は『チーム全員の力』で勝ち取ったものだ。これまでは選手層が課題だったが、長いシーズンを通して多くの選手を起用して様々な組み合わせを試した成果が、プレーオフを通じて試合ごとに異なるヒーローの誕生に繋がった。そんな中で、サンアントニオまで駆け付けたニックスファンから一際大きな声援を浴びたのがミッチェル・ロビンソンだ。

2018年の2巡目36位指名を受け、ここまで8シーズンをニックス一筋で過ごした28歳のセンター。地元ファンはブランソンやカール・アンソニー・タウンズといったオールスター以上に、ロビンソンに惚れ込んでいる。今のチームで最も在籍が長く、加入1年目の17勝のシーズンから、『三歩進んで二歩下がる』チームと歩みをともにしてきた。下位に沈み、解体を繰り返し、他チームのファンから嘲笑される暗黒期を一緒に耐え抜いたという思いが、ファンの支持に繋がっている。

もう一つはどこまでも泥臭いプレースタイルだ。3ポイントシュートが打てないどころかフリースロー成功率が40%そこそこしかない不器用ぶりだが、前任の指揮官であるトム・シボドーが求めたひたむきな闘争心を出し、リムプロテクトとリバウンドに全力を尽くした。勝つためには自己犠牲が必要だが、優勝争いの最中ならともかく暗黒期のニックスで泥臭いプレーをロビンソンのレベルでやり続けられた選手はいない。

また、キャリア3年目の2020-21シーズンには右手と右足を相次いで骨折する不運に見舞われ、2023年12月に負った足首の骨折は、2シーズンに渡りコンスタントにプレーできない状況に彼を追い込んだ。この間にチームはタウンズを獲得。疲労骨折を繰り返したことで負荷管理が必要なロビンソンは控えを受け入れ、『限られた時間で120%の力を出す』今のスタイルを作り上げている。

第4戦のゲームウィナーとなったOG・アヌノビーのプットバックと同じぐらい、優勝を決めた第5戦の残り26秒、ファウルトラブルのタウンズに代わってコートに立ったロビンソンのオフェンスリバウンドはニックスファンに今後長く語り継がれるはずだ。ジョシュ・ハートのフリースローがリングに嫌われると、ゴール下でビクター・ウェンバニャマとステフォン・キャッスルに挟まれながら強靭な足腰でバランスを保ったロビンソンがボールをつかむ。ワンドリブルをついて押し込むスキルはないし、フリースローをもらっても決められない。それを誰よりも知る彼は、必死で身体を反転させて3ポイントラインの外にいるランドリー・シャメットにパスを繋いだ。多くのニックスファンがこのクラッチリバウンドに歓喜するとともに、優勝を確信したことだろう。

優勝会見での彼は「夢がかなった」とうれしそうに語った。「僕はずっとこのチームにいた。17勝しかできなかった時も、60勝した時もあった。そのすべての旅路の先、2026年にやり遂げた。すべてのバスケットボール選手が感じたいと思っている、素晴らしい気分を味わっているよ。ついに僕たちは、それを手に入れたんだ」

「強いチームが組み上がっていく様子を見てきた感じだ。素晴らしい選手がたくさんここを通り過ぎ、僕はずっとその一員で、今日ここに至った。この喜びをどう表現すればいいか分からない」

レギュラーシーズン19.6分の出場で8.8リバウンド。プレーオフでは13.9分、5.5リバウンドと、タウンズの役割が増す中でミッチェルの活躍の機会は限られたが、そんなことを気にする男ではない。彼のリバウンドの何割かはスタッツに残らない。完全に手中に収められる確信が持てなければ、すぐティップに切り替えて味方に繋ぐからだ。大きなケガをする前は、もっと貪欲にブロックショットを狙ったし、リバウンドも身体能力に任せて強引に取りにいった。しかし今のロビンソンは不器用なままスマートなプレーができるようになった。そして自己犠牲を全く厭わない。そこにファンはしびれる。

クラッチリバウンドを押さえることで優勝をその手でつかんだにもかかわらず、彼は先発のタウンズ、2番手の自分に続く3番手のセンター、アリエル・フクポルティを「2分の出場でリバウンドとブロックを記録した。素晴らしいマインドセットだ」と称賛した。

自分のクラッチリバウンドについて語ったのはその後だ。「正直、あのプレーをいつもやっているんだよ。仲間がシュートを決めることを信じつつ、それでも毎回クラッシュするんだ」

現地6月14日、アメリカではサッカーのワールドカップが行われているが、ABCの看板番組『Good Morning America』はニューヨークのスタジオにニックスを招いた。もっとも、出演したのはスタメンの5人だけだが、ロビンソンは気にしていないだろう。彼は現地18日のパレードに、地元ファンの間では有名な愛車のモンスタートラックで参加するつもりで、今はその準備にかかりきりなはずだ。