
フリースローで得点を繋ぎ、プレッシャーを封じる
ニックスが王手をかけたNBAファイナル第5戦は、お互いにインサイドを封じ込めながら、アウトサイドもチェイスするディフェンスの戦いで始まりました。スパーズは第4戦の後半でスタミナ切れを起こしたこともあり、これまでになくプレータイムをシェアしてインテンシティを保ち、試合を優位に進めていきましたが、最後はまたもニックスの終盤の強さに屈しました。
カール・アンソニー・タウンズとOG・アヌノビーがファウルトラブルとなり、ジェイレン・ブランソン以外はシュートが決まらず、劣勢が続いたニックスにとってターニングポイントとなったのは、第3クォーター残り4分からブランソンがディラン・ハーパーから3つのファウルを奪ったことでした。
前半に最大16点リードを奪いながら5点差に縮められて後半をスタートしたスパーズでしたが、スタミナを温存していたこともあり、第3クォーターに再び点差を広げていきます。ビクター・ウェンバニャマのインサイドやジュリアン・シャンペニーの3ポイントシュート、そして何よりベンチから出るハーパーのドライブアタックで加点し、残り4分の時点で12点リードまで広げます。
勢いに乗るハーパーはディフェンスでもブランソンにマッチアップし、長い腕とフィジカルでプレッシャーを掛けていきますが、ブランソンがこれを逆手に取り始めます。まず、サイドラインのスローインでミッチェル・ロビンソンにボールを渡し、オフボールムーブで少しハーパーを突き放してからハンドオフでボールを受けると、そのまま逆サイドへと流れていきます。
ブランソン自身はリングに向かっていないため、ハーパーは追いかけるよりもリング側へ回り込むべきシーンであり、この動きを見極めたブランソンが少しだけコースを変えることでコンタクトを引き出しました。リードしているスパーズが勢いを緩めなかったのに対し、ビハインドのニックスは落ち着いて状況を見ていました。この直後のスローインでもアヌノビーにパスが出ると、ケルドン・ジョンソンが押してしまい、ニックスのボーナススローとなります。
1分後のオフェンスではハーフライン際で少しファンブルしたブランソンをハーパーが追い込みに行きますが、ブランソンはハーパーから遠い方の手でボールを抱え込み、コンタクトされるのを待ち構えるようにファウルを引き出しました。この時点でスパーズが9-0のランになっており、ニックスはオフェンスの組み立てに苦しんでいましたが、フリースローで得点を繋いでいます。
立て続けのファウルをしたからか、スパーズは30秒ほどハーパーをベンチに下げ一呼吸いれさせるのですが、コートに戻って来るとジョシュ・ハートに3ポイントシュートを決められてしまいます。そこまで自分で積極的に攻めていたブランソンでしたが、この時だけはハーパーのディフェンスを狙うかのように、ハートにボールを渡していきました。
そして次のオフェンスではエンドラインのスローインになると、再びハーパーがマッチアップしてきたことで、またもオフボールでハーパーと距離を作り、ハンドオフでボールを受け取ると、直ぐにジャンプシュートを放ち、遅れてきたハーパーのファウルとなります。ブランソンはパスを受ける前にハーパーの動きを確認しており、避けられないであろうコースに入ってシュートへと踏み切りました。
この3つのファウルドローすべてが、ハーパーが激しく追いかけてくるのを逆手に取ったもので、単にボーナススローで得点を稼いだだけでなく、その後のディフェンスでプレッシャーを掛けにくい状況を作りました。オフェンスを始める段階でプレッシャーが半減した第4クォーター、ブランソンは余裕を持ってドライブアタックできました。
ハーパーは試合を通して25得点とスパーズのオフェンスを牽引しましたが、ブランソンが巧みなファウルドローで試合の流れを切ったことが、ニックスの逆転劇の呼び水となりました。ベテランの巧みな技術が若い勢いを止める。このNBAファイナルの展開を象徴するようなファウルドローでした。