桶谷大

「シンプルに言うと、本当にいろいろな人と一緒に仕事ができる」

2月3日、日本バスケットボール協会(JBA)はトム・ホーバスに代わる新しい男子日本代表ヘッドコーチとして桶谷大の就任を発表した。桶谷ヘッドコーチは、琉球ゴールキングスのヘッドコーチとの兼業となる。

桶谷ヘッドコーチといえば昨シーズンまで琉球を4年連続でBリーグファイナルに導いており、今Bリーグで最も実績を残している指揮官だ。琉球はリーグ屈指のタレント力を持っているが、千葉ジェッツの富樫勇樹、宇都宮ブレックスの比江島慎のように日本代表の中心を担うトップ選手は不在で、さらに言えば代表でローテーション入りしている選手もいない。そして昨シーズンは今村佳太という中心選手が移籍した中、ルーキーの脇真大を主力へと育てあげて天皇杯優勝、リーグファイナル進出と、特定のスターパワーに頼らないチーム作りに定評がある。

一方でホーバスのようなカリスマ性を発揮したり、尖った戦略を駆使するタイプではない。あくまで1人の指揮官という括りで見た場合、ホーバスに比べるとインパクトに欠けている部分は否めない。だが、伊藤拓摩強化委員長兼男子代表ダイレクターの下、JBAが主体となって強化方針を策定し、各部門のエキスパートの知を集結して戦うチーム作りを進めていくやり方において、桶谷ヘッドコーチは打ってつけの人材だ。

現在の琉球の指揮ぶりを見ても、佐々宜央アソシエイトコーチ、アンソニー・マクヘンリーと穂坂健祐の両アシスタントコーチにも大きな裁量を与えるなど、スタッフ陣の意見を積極的に採用する柔軟性を持っている。伊藤強化委員長も桶谷ヘッドコーチの魅力をこう語る。「シンプルに言うと、本当にいろいろな人と一緒に仕事ができる。その人たちの力を最大限に引き出してチームを作り上げ、勝っているところです」

島田慎二会長も桶谷ヘッドコーチの周囲の力を集結させるリーダーシップへの信頼を強調する。「ヘッドコーチ一人で勝てるわけではなく、優秀な参謀などいかにハイレベルなメンバーを集めていけるかが大事になります。このスタッフ陣を生かすためには、ヘッドコーチのリーダーシップ、マネジメントスキルが非常に大きいポイントだと判断しています」

また、選手たちの積極性、チャレンジする姿勢を尊重し、多くの選手にチャンスを与えるのも桶谷ヘッドコーチの大きな特徴で、メンバーが固定化しつつあった今の代表に新たな刺激、選手起用の可能性をもたらすことが期待できる。

桶谷大

個に依存しない新たな方針の基盤を作る担い手として適任

兼任であることで代表に専念できないことへのデメリットを指摘する声もあるが、今のFIBAのフォーマットにおいて、ワールドカップ予選の大半はBリーグの選手たちで戦うことになるのは避けられない。だからこそ、Bリーグを熟知している指揮官が兼任するメリットの方が、デメリットより大きいと、伊藤強化委員長は考えている。また、Bリーグの競技レベルが大きく上がっていく中で、勝つために必要なコーチのレベルも上がっていると続ける。

「どれだけ自国リーグの選手のことを知っているかは大切です。例えばNBAのすごく有名なコーチが日本に来てヘッドコーチをしたからといって、すぐに勝たせるチームを作れるかと言ったら、そこはなかなか難しいと思います。何故ならば、まずは日本のバスケットカルチャー、日本の選手たちを知るところから始めなければいけないからです。ただ、代表のチーム作りに関してはやっぱりスピード感も必要です。そしてBリーグのレベルも上がり、コーチのレベルも上がっている。そういった部分もあって今回の決断に至ったと思います」

そして、『最高のチームを作るためには最高の一体感』を作り出すことを根幹とする新しい日本代表の指針は、桶谷ヘッドコーチが貫いてきた信念と一致する。彼は選手たちに規律、献身性などチームが一つになることを何よりも重視し、エース格の選手であったとしても、自分勝手なプレーをした選手を叱責することも厭わない。

この指揮官のブレない信念を表現する言葉を紹介したい。これは今シーズン開幕節で横浜ビー・コルセアーズに連敗を喫した後のコメントだ。「僕ができることは人が成長したり、チームが強くなるための環境作りです。結局、昨日はチームでなく個々がやりたいバスケをやってしまっていました。最終的には自分のためにプレーするものですが、その前に『チームのために』が大前提としてないとダメです。僕がコーチとして怒らないといけないことに、Lazy(怠慢)、Selfish(わがまま)、Careless(不注意)とあります」

ホーバスは傑出した実績を残したスターコーチだ。しかし、今のJBAはこれから継続的な成長を続けていくため、1人の個に依存しない体制を選んだ。この新たな方針の基盤を作る担い手として、桶谷ヘッドコーチは申し分のない能力を持っている。

また、桶谷ヘッドコーチは大野篤史、安齋竜三、藤田弘輝などB1で長年指揮を執っているコーチ陣と深い信頼関係で繋がり、福岡第一の井手口孝コーチとも旧知の仲など幅広い人脈の持ち主だ。文字通り日本一丸となってバスケットボール界の力を集結させられる引力の持ち主である彼は、やはり適任と言えるだろう。