司令塔とビッグマンのツーメンゲーム偏重からの脱却
男子日本代表は『FIBAワールドカップ2027アジア地区予選』Window1で、チャイニーズ・タイペイとのホーム&アウェーを2連勝で終えた。これで韓国、中国と同組の1次ラウンドグループBにおいて、2次ラウンド進出条件となる上位3チーム入りに大きく前進した。
最新のFIBAランキングで22位の日本に対し、チャイニーズ・タイペイは67位と大きな開きがあるとはいえ、今夏の『FIBAアジアカップ2025』で日本を上回る8強入り。ランキングほどの実力差がないことは明らかな相手に対し、過酷なアジア予選を勝ち抜くために連勝が必要な中で、しっかりと勝ちきったのは見事だった。
Window1とアジアカップとの一番の違いはなんといっても渡邊雄太の存在だ。ゲーム1では20得点5リバウンド5アシスト、ゲーム2では14得点9リバウンド4ブロックと活躍。また、スタッツに出ない部分でも彼がいることのプラス効果は特にディフェンス面で大きく、ショットブロッカーとして相手にプレッシャーを与えた。そしてゲーム1の終了後、トム・ホーバスヘッドコーチが、「相手がどんどん仕掛けてカオスを作りたい時、そこであせってプレーしない彼のような選手がいるとすごく助かります」と語ったように、どんな状況でも冷静沈着な渡邊は代表の屋台骨として欠かせないことを改めて示した。
チーム全体としても、アジアカップの反省を生かしたアジャストメントは素晴らしかった。東京五輪後に発足したホーバス体制では、いろいろな選手を招集した末、『FIBAワールドカップ2023』とパリ五輪では河村勇輝とジョシュ・ホーキンソンによるツーメンゲームを主体とするオフェンスに行き着いた。日本で最もアドバンテージを取れる2人の力を最大限に活用するこの選択は、格上相手の番狂せを起こす戦略としては理にかなっていた。この戦略が機能したからこそワールドカップ2023でアジア1位となり、パリ五輪でもフランス相手に『世紀の番狂せ』まであと一歩まで迫った。
だが、この戦略が効果的なのは、あくまで河村とホーキンソンが揃い踏みしてフル稼働できるという前提条件があってこそ。ホーバスは、河村がいないアジアカップでも同じスタイルを貫いたものの、河村という唯一無二の個性を持った逸材の役割をこなせる選手はおらず、うまく機能しなかった。その結果、アジアカップの日本は、ハンドラーが相手ディフェンスを突破できない中でもゴール下に大きなスペースを作るため、ウイングの選手は固定砲台としてコーナーにとどまり続け、ボールの動きが停滞。外からタフショットを打たされ、さらにウイングが敵陣の深いコーナーにいることで、相手にロングリバウンドを取られて一気に速攻をくらうケースが増える悪循環に陥っていた。
アジアカップの反省を踏まえホーバスは、Window1では強化合宿の段階からペイントアタックに加え、ボールを停滞させないことを重視する方針を打ち出していた。ペイントアタック強化については、ポイントガードに代表常連の富樫勇樹、さらにここ数年代表から遠ざかっていた齋藤拓実、安藤誓哉と打開力に優れたベテランを招集。また、ドライブに定評のある西田優大にセカンドハンドラーとして積極性に仕掛ける役割を与えた。
ホーバスは、「アジアカップのオフェンスと今のオフェンスは、ベースの動きは一緒です」と語ったが、ボールの停滞を避けるためセンターのホーキンソンを主な中継役とするハンドオフが増えるなど、5人全員がボールによくからんでいた。また、アジアカップのようにウイングをコーナー固定させる動きはなく、相手に的を絞らせにくくなっていた。
今回のWindowは準備期間が短かったこともあり、戦術自体もアジアカップに比べてシンプルになり、個人の判断に委ねられる割合が増えたこともプラス効果をもたらした。富樫は今回のオフェンスについて「初期のトムさんの形に戻っている感じで、僕個人としてはやりやすさはあります」、安藤は「トムさんから『もっと自分のフィーリングを信じてやって良いよ』というメッセージを送られていると受け取っています」と語っていた。そして、経験豊富なベテランたちが戦術に縛られるのではなく、ディフェンスの動きを見て臨機応変にプレーすることがより良い相乗効果をもたらしていた。
プレーメーカーとしての活躍が光ったホーキンソン
このオフェンススタイルの変更によって、新たな持ち味を発揮したのがホーキンソンだ。ハンドラーとのピックプレーからのシュートを打ち、ゴール下でのフィジカルプレーが多かったホーキンソンだが、今回はハンドオフの中継役となりアウトサイドでボールを持つ機会が大幅に増えた。
マッチアップしたチャイニーズ・タイペイのブランドン・ギルベックは機動力に長けていないため、抜かれるのを警戒して密着マークはやりにくい。そのためプレッシャーの少ない中でボールを持てるホーキンソンは、ゲーム1では8アシストを挙げるなどポイントセンターとして効果的なパスを供給し、司令塔と並ぶ攻撃の起点となっていた。また、巧みなスクリーンによって味方のレイアップを導く動きも目立っていた。
プレーメーカーとしての活躍が光ったホーキンソンは、「チーム全体で3ポイントシュートを打つだけでなく、ペイントアタックをして守備を収縮させることを重視しています。これまでに比べるとピック&ロールを使わずに、カッティングやオフボールでの動きを増やすことで良い感じになっています。また、個人としてはオフェンスでゴール下のプレーが減ることで、ディフェンス面で(相手のピックプレーに対して前に出て防ぐ)ハードショウをしたり、よりエナジーを費やすことができています」と語っている。
この攻め手の変化と共に、ポジティブな驚きとなったのは選手起用だ。これまでホーバスは、直近のBリーグで活躍した選手を合宿に招集しても12名のロスターに入れない、もしくは入れたとしても少ないプレータイムにとどめるなど選手起用の序列を変えない傾向が強かった。それを踏まえ、今回の先発ガードは富樫、富永啓生になるかと思っていたが、久しぶりの代表復帰となった齋藤、さらにアジアカップでは全試合控えかつ15分以下の出場機会に終わっていた西田優大をそろって先発起用。また、同じく久しぶりの復帰となった安藤、原修太もローテーション入りしており、これまでと明らかに起用方法が違っていた。そして彼らがそろって自分の役割をしっかりとこなし勝利に貢献したことも見事だった。
一方で、渡邊とホーキンソンへの依存度が高すぎることは改善が必要だろう。特にゲーム2は序盤にリードを許し選手交代が難しい展開だったとはいえ、ゲーム2でホーキンソンが40分フル出場、渡邊が37分出場と出ずっぱりだった。2人と他の選手の実力差が大きく、替えの効かない存在だとしても、明らかに使いすぎだ。そしてこの起用法が今のBリーグにおけるビッグマンの最強布陣で臨んでの結果なら納得もできるが、実際は違うと言わざるを得ない。

期待したいベテランビッグマンの代表復帰
公輔、譲次の竹内ツインズは、40歳となった今シーズンもホーキンソン、渡邊に次ぐ日本人ビッグマンとして、堅実なプレーを見せているが合宿にも呼ばれなかった。今回のワールドカップ予選を勝ち抜くには、得失点差なども考慮し、すべての試合で1点でも多くリードして勝つことのみを目指すことが求められ、育成面を考慮できる余地はない。だからこそ年齢は関係なくホーキンソン、渡邊を休ませるための繋ぎ役として竹内ツインズを代表に招集すべきではないだろうか。
実際、渡邊、ホーキンソンの控えとして、5〜6分であっても与えられた役割をミスなくこなせる繋ぎ役を、竹内ツインズ以上に安心して任せられる選手はいるだろうか。彼らは長らく代表から離れているが、代表でアシスタントコーチを務める佐々宜央はかつてこのように語っていた。
「2人のサイズで、彼らのバスケットボールIQを超える選手はなかなかいないです。コーチからしたら本当に使いやすい選手たちです。今のレギュレーションではスタッツで飛び抜けることはないかもしれないですが、コーチのやることをしっかりやってくれる。若い選手たちは2人から見習う部分が多いです」
短期間で自らのやるべきことをしっかりと習得する彼らの適応力に不安はない。また、リーグ上位のシーホース三河でローテーション入りしているシェーファー アヴィ幸樹にもチャンスを与えてほしい。
今後への不安点もあるが、連勝でWindow1を終えた日本はやるべきミッションをしっかり遂行した。富樫が「オフェンス、ディフェンスとも自分たちのあるべき形はすごく見えたかと思います」と語ったように内容面も充実していた。ただ、Window2、Window3で戦う韓国、中国相手にはさらなる改善が欠かせない。
富樫は、次の4試合への思いをこう語る。「この2試合はすごく大事でしたけど、次の中国、韓国も勝たないといけない相手だと思います。ランキング的には日本が上ですし、次のステップに行くためにはBリーグのメンバーでも中国、韓国に勝っていけるようにならないといけないです」
富樫の言う通り、日本代表がもう1つ上のレベルに行くためには、Bリーグ勢だけでアジア上位国相手にも結果を残すことが必要だ。そのためにも、これから再開するBリーグでよりレベルの高い試合を行い切磋琢磨することが何よりも求められる。

