シーズン途中にアルバルク東京に加入したジェフ・エアーズだが、来日から3カ月たらずですっかり環境にフィットしている。その秘訣は、彼がもともと日本のアニメの大ファンで日本文化に接してきたことにあった。かつてアスレティックトレーナーとしてエアーズとともにスパーズで働いたDice(山口大輔)と、MLBやNBAのマネジメントを経てアルバルク東京のマーケティング部門の一員として試合演出を担当するMorris(森岡浩志)による独占インタビューの最終章、食事や日常生活も「すべてが最高」と語るジェフに日本での暮らしを聞くとともに、『彼にとってバスケットボールとは?』という命題に迫る。
ココイチ、ハイチュウ、日々の暮らしすべてがクールだ
Dice ちょっとトピックが変わるけど、Jeffにとって日本はどう? スパーズ時代、遠征の飛行機でアニメをよく見ていた印象が強いんだけど?
Jeff ハハハ、そうそう!
Dice 『NARUTO』とか『るろうに剣心』とか、たくさんの作品の話をしてくれたよね。僕は日本人でありながら全く付いていけなくて、もう少し日本のアニメについて勉強すべきだと考えさせられた(笑)。実際に日本に住んだ感想はどう?
Jeff 率直に言って大好きだよ。
Dice セオン・エディ選手から『ココイチ』に頻繁に通っていると聞いたよ(笑)。
Jeff マイスポットだ(笑)。昨夜も行ったよ。週に3、4回は行ってる。好きすぎて怖いくらいだ! 本当に何度も行ってしまう。何度も何度も! 多分今夜も行くだろうな。
Morris そんなに!?(笑)
Dice ヤバイね! そんなにカレーばっかり食べて体重は大丈夫?
Jeff 体重は増えている。
Dice あららら……。
Morris それって大丈夫?
Jeff 最初はちょっと心配だったけど、逆に良かったよ。以前の体重はちょっと軽すぎて今がちょうど良いくらい。ココイチのない日常なんて考えられなくなってきたくらいだ。ココイチに限らず、日本の食事は最高だ。ラーメンも大好きでしょっちゅう食べてる。焼肉も大好き。この前はモリスとしゃぶしゃぶを食べに行った。うまかったなあ。寿司も大好きで、妻と一緒によく食べるんだ。で、ココイチはやっぱりマイスポットだね(笑)。
Dice そこまで好きならスポンサーになってもらいなよ(笑)。
Jeff みんなそう言うよ。タトゥーを入れろとまで言われる(笑)。あとはハイチュウのタトゥーも入れたほうがいいかも。
Dice ハイチュウも好きなんだ!?
Jeff 大量の箱買いをしてるぐらい好きだね!
Dice すごいな! ナオミちゃん(長女)もハイチュウ食べたことあるの?
Jeff いや、まだだ。お菓子ばかり食べる子供にはなってほしくないから、ハイチュウはあげてない。絶対にナオミも好きだろうけど、でもまだだ。食べ物の話ばかりしてるけど、日本の文化すべてが最高に好きだよ。アニメも見るし、日本文化と言えばサムライだろ? 他も含めて、日本文化に触れて学ぶのを楽しんでいるよ。
Dice アニメを通してでも日本の文化に親しんでいたことは、日本でプレーする上でもプラスになったんじゃないかと思うんだけど、どうかな?
Jeff 日本人の礼儀正しさについては何となく知っていたから、A東京に加わるにあたって「誰かのポジションを奪ってやろう」とか「自分が一番」みたいなメンタリティーは全くなかった。僕から何か偉そうなことを言うんじゃなくて、まず彼らから僕に聞きたいことがあれば答える、っていう感じでチームに入っていったんだ。それで、みんなが僕を受け入れてくれたと感じたところからは好き放題やらせてもらっている(笑)。
東京の普通のライフスタイルを日々楽しんでいる
Dice 本当に良い感じで馴染めていて良かったよ。
Jeff 本当に大好きな場所だ。天気も最高だしね。みんなすごくフレンドリーだし、行くところ行くところ、僕がやりやすい環境を作ってくれる。
Dice 見た目で君を怖がってるとかじゃなくて?
Jeff 違うよ!(笑) まあ、僕みたいな外国人を見たことがないような年配の人はびっくりする時もあるかもしれない。でも、たいていの場合は僕みたいな外国人を見て喜んでくれている。時々英語を話せる人もいて、足のサイズを聞いてきたり、僕がプロバスケットボール選手でトヨタのチームでプレーしているよと言うと喜んでくれたり。そういう経験も本当にクールだよ。
Morris 日本での生活で困ることはない?
Jeff 唯一大変なのは全部がすごく小さいことかな。食事に行っても一皿一皿が小さいし、いっつもどこかに頭をぶつけるしさ。頭のぶつけすぎで何度か気絶するかと思った(笑)。身体を屈めてもぶつかっちゃうくらいだから、大変だよ。
Dice スクワットの良い練習になるじゃないか。
Jeff 確かにね(笑)。でもそれ以外は問題なしだ。自転車に乗ってあちこち行くよ。
Morris 自転車で? Jeffにフィットする自転車なんて日本にあるの?!
Jeff フィットしているかと言われると疑問だけど、乗れてはいるよ(笑)。
Morris 可愛らしい絵が思い浮かぶな。
Jeff だろうね(笑)。自転車で中心街まで行くこともあるし、電車もよく乗る。パスモを片手に六本木、新宿……って感じだ。この前、妻の兄が遊びに来た時もそんな感じで「すっかり日本に馴染んだな」って驚かれたよ。
Morris (練習場のある)府中での暮らしはどう?
Jeff 東京の中心部に行くと外国人がたくさんいて、日本に住んでいるって気分にはならない。東京の本当のライフスタイルがどんなものなのかなかなか見えてこないと思うんだ。でも僕が住んでいるエリアは郊外で、外国人をほとんど見かけない。日本人ばかりで英語を話す人もそれほど多くない。でもそれが楽しいんだ。僕が住んでいる家の目の前にはパン屋があって、朝起きてそこでいくつか買って、ドーナツショップに行ってドーナツ買って……。そんな東京の普通のライフスタイルを日々楽しんでいるよ。
Morris 日本に来るにあたって心配だったことはある?
Jeff 本当はこっちでの生活がどうなるか、不安は少しだった。中国での経験があまり良いものではなかったからね。チームが僕に対して求めてくることもそうだし、その他の面でもプロフェッショナリズムを感じられなかった。お金を支払ってくれないことまであった。日本での経験とは真逆の経験をしたよ。A東京では途中からチームに参加したにもかかわらず、心地良い環境が用意されていた。シーズン初めからずっとこのチームにいるような気分だ。自分がNBAにいたからゴマをすられているわけではない。チームメート、チームスタッフに限らずみんな親切で素晴らしい人ばかりだなんだ。
バスケをしている時は穏やかで、ピースを感じている
Dice Morris、君から何か質問したいことある?
Morris これだけは聞いておきたいことがある。「なんでバスケットボールをプレーしているの?」ってことだ。このスポーツを選び、続けている理由を聞きたい。
Jeff そうだね。結婚して、子供が生まれてと、時が経つにつれて理由は変わっていると思うんだ。今はやっぱり家族を養うというのが第一。そして歳を取った時に働いてばかりにはなりたくないと思っている。それと、子供たちにできるだけ良い生活を送らせてあげたい。世界中を旅して違う文化に触れる機会を与えたい。僕は大学に入るまでカリフォルニアにある小さな街から出たことのない人間だったから。大学に入ってからは西海岸エリアを見ることができた。そしてNBAに入ってアメリカ中を。そして今は日本でバスケットボールをしている。信じられないね。
Morris 最初にバスケットボールを選んだ理由は?
Jeff 子供の頃の僕にとってバスケットボールは逃げ場所だったんだ。僕はすごく気性の荒い子供でね。
Dice 今でも試合中はそんな感じだろう?(笑)
Jeff 確かにそうだけど、今はある程度は感情をコントロールできているつもりだよ(笑)。実際のところ、僕はあまり良い家庭環境で育ったわけじゃない。父親にはたくさんの連れ子がいて、母親はあまり家にいないような状況だった。いろいろな問題が身の回りにあって、バスケットボールが自分の感情やフラストレーションを解放できる唯一の場所だったんだ。体育館に行ってドリブルしたりシュート打ったり、ただ床に座ってバスケットボールの音を聞いているだけでもセラピーを受けているかのように落ち着くことができた。
Morris そういう意味での『逃げ場所』ってわけか。
Jeff それは今も同じだ。身体に痛みがあったり体調がズタボロだったりで家に帰りたいと思うこともあるけどやっぱりバスケットボールが大好きなんだ。こんなに楽しいものはない。僕にとってすごく安全な場所なんだ。フロアに立っていると自分らしくいられる。悪い感情を解放し、フレッシュな状態で家に帰れる。イライラしたり怒りを感じていた時はいつもバスケットボールをしに行っていた。すると身体も気持ちも落ち着いた。いうならバスケットボールが僕にとっての『禅』みたいなものなんだ。
Dice ある意味、バスケットボールに救われた面もあるということだね。
Jeff 試合ではフィジカルにプレーするし、感情も表に出すから、クレイジーになってるように見えるかもしれないけど、そんな時の僕の内面はすごく穏やかで、ピースを感じている。もしバスケットボールがなかったら今頃どうなっていたか……。ギャングになったり薬物を売っていたりとバカなことをしていたかもしれない。僕みたいにチャンスを得られず、そういう『闇の世界』に引き込まれていった人たちを僕は知っている。
Dice 悪い誘惑もあったと?
Jeff 中高生の頃、僕はバスケットボールにすべてを捧げたんだ。楽しそうな誘惑はたくさんあったけど、大学に進学するためにバスケットボールに集中した。アリゾナ州立大学でも一緒だ。僕らの大学はパーティーしまくる大学として結構有名なんだけど、バスケットボールと勉学に集中したおかげで3年で卒業して、NBAのドラフトで選ばれる結果となったんだ。僕がやり続けたかったバスケットボールを仕事としてやれるようになったんだ。
Dice 僕らがただバスケットボールが好きだ、というのとは違うんだね。
Jeff そうかもしれないね。僕はバスケットボールを選んだ。すごく背が高い人間には2種類いる。「バスケットボールを選んだ」人間と「バスケットボールが選んだ」人間で、僕は前者だ。後者は「ハート」がないからなかなか上手くなれない。ものすごい才能があるかもしれない、でも本当にバスケットボールがうまくなるためには才能だけではどうしようもないことがたくさんある。もちろんバスケットボールに限った話ではない。Dice、Morris、2人とも分かるよね。君たちのようなキャリアを持つには何よりもハートが必要なんだ。良いキャリアを送るためには『強い信念』、『あきらめない気持ち』、『犠牲』が必要になってくる。簡単なことではない。そうじゃなきゃ誰もがプロアスリートになれて大金持ちになっている。スペシャルな人間とそうでない人間を分けるのはどれだけ強い気持ちであきらめずに目標に向かっていけるかということなんだ。夢を叶えるために何を犠牲にするかということが大切なんだ。
家族のために、でもバスケットボールは優先する
Dice なるほどね、君を支えているものが分かった気がするよ。
Jeff 僕が妻に出会った頃、これだけは先に言っておかなくちゃいけないと思って伝えたことがある。「君のことは大好きだけど、僕にとって一番に優先しなくちゃいけないのはバスケットボールだ。理解してくれる?」って。それでどんな反応が返ってくるか分からなかったけど、本当に大事なことだったから。「えっ? 私が一番じゃないの? そんなのあり得ない!」なんて言ってくるんじゃないかという不安はあった。それでも「もちろん。そんなの気にしないから大丈夫。あなたをできるだけサポートするから」って彼女は言ってくれた。本当に驚いたよ。でも、僕にとってはそうじゃなきゃダメだったから。
Dice そんな君も今は2人の子供を持つ父親だ。
Jeff そう、子供を持つとまた話は変わってくる。僕が子供の頃、父親はほとんど僕に構ってくれなかったからああはなりたくない。だから今、子供たちをアメリカにおいて自分が日本にいるのは辛くもある。それでも子供たちはまだ4歳と3歳ですごく幼い。10歳になって父親がいないよりはマシかなと思ってる。この前、娘が日本に来てくれていた時は最高だったよ。彼女も大喜びだった。
Dice それでも、バスケットボールは優先しなきゃならない。
Jeff そう、今できることをやり尽くそうと僕は思っている。働けるだけ働いて、プレーできなくなった時には子供たちとたくさん時間を共有したい。学校の送り迎えをして、授業参観に参加して、息子の部活や娘のバレエの発表会を見に行って……何でもやるんだ。「ごめん、今日の試合は見にいけないんだ。仕事が忙しくて」なんて言いたくない。そんなの辛くてたまらない。
Dice 子供たちは寂しがっていない?
Jeff 今は子供たちも僕の状況を分かってくれているみたいなんだ。4歳の娘は僕が『仕事をしている』と理解している。この前も電話で「ダディ、今トウキョウでバスケットボールの仕事をしているの?」って言うから「そうだよプリンセス。東京でバスケットボールの仕事をしているんだよ」と話した。そしたら妻が「この前ナオミが友達にお父さんがどこにいるかを聞かれて『ダディは仕事で忙しいの。トウキョウでバスケットボールの仕事をしているわ』って言っていたのよ」って。僕がこっちで仕事を頑張っているんだと分かってくれているんだ。クールだよね。ナオミはまだ幼いし、僕はまだまだやれる。頑張ればまだまだ僕のキャリアは可能性があるんだ。まだ30歳になったばかり。もうしばらくはバスケットボールができる。あと5年しても娘は9歳だ。もう少しやっていける猶予はある。
Dice もちろんだ。本当に良いインタビューだったよ。ありがとう。
Jeff 本当だよ。楽しいインタビューだった。ただ質問リストを読んで順番に答えるような内容じゃない、会話できるインタビューは最高だね。
Dice 後は僕がきちんと日本語に訳すことができるか。
Jeff 頼むよ! 僕が言わなかったことを勝手に付け足したりしないでくれよ!(笑)
Dice さて、Jeffは今からセオンとピザを食べに行くんだろ?
Morris カレーじゃないの?
Jeff カレーは今夜だ。ココイチのランチタイムは13時に終わるからね。
Dice 本当に詳しいな。そして今夜も行くのか(笑)。
Jeff もちろん。何を食べるかももう決めてある。ココイチのプロだからね。だから昼は恵比寿のめちゃくちゃうまいピザ屋さんに行って、その後は六本木で髪を切るんだ。伸ばしっぱなしだと汚らしくなっちゃうからね。
Dice よし、本当にここでお開きだ。プレーオフではグッドラックを願っているよ。残りの日本での生活を楽しんで。NBAにも戻ることを祈ってる。でも、その後はまた日本に帰って来てくれ。
Jeff もちろんそうできるようにと考えてるよ。僕の家族も日本が大好きみたいだしね。
[独占インタビュー]ジェフ・エアーズ(アルバルク東京)
チャンピオンリングを持つ男が語るBリーグと日本人選手
vol.1 僕が日本のバスケットボールにもたらすもの
vol.2 バスケットボールはエンタテインメントだ
vol.3 愛しくてクールな『トーキョー・ライフスタイル』