
「光さんのやりたいことを一番理解しなければいけない」
富士通レッドウェーブは先週、Wリーグ開幕を目前に控える中でメディアデーを実施した。昨シーズンWリーグ連覇、リーグと皇后杯の二冠を達成した中心メンバーが健在の富士通は、今シーズンも優勝候補の筆頭と言える。
だが今オフ、10年に渡ってヘッドコーチを務めていたBTテーブスが退任し、新ヘッドコーチには2017年からアシスタントコーチを務めていた日下光が就任。基本的には継続路線であるが、少なくない変化を伴って新シーズン開幕を迎える。
絶対的な司令塔として女王を率いる町田瑠唯は、これまでテーブスとの二人三脚で富士通を頂点へと引き上げてきた。恩師であり盟友でもあったテーブスと別れ、新たなスタートを切る町田に、日下ヘッドコーチとの関係構築について聞くと、「光さんのやりたいこと、目指しているものを私がチームの中で一番理解しなければいけない立場だと思います」と、自身が率先して新指揮官とコミュニケーションを取っていく必要があると語っている。
「BTとは本当に細かくコミュニケーションを取っていて、お互いが何を考えていて、どういうバスケットボールをしたいのか理解し合えていたと思います。(韓国遠征で開催された)パクシンジャカップの途中から『もっとコミュニケーションを取りましょう』と光さんに声をかけて、練習中や試合前後などに細かい話をより多くするようになりました。光さんは私のことを分かってくれていると思いますし、私も光さんのことをより理解できるようになってきているところです。リーグが始まって試合を経験することで、もっと詰めていけるところはありますし、コミュニケーションは引き続き大事にしていきたいです」
この町田の申し出について、日下ヘッドコーチは貴重な気付きだったと感謝している。「まずは選手の声を尊重してあげたいと、練習から選手たちでハドルを組んで話をさせる時間を多く作りたいと思っています。ただ、パクシンジャカップの時には選手たちに任せる比重が多くなっていて、ルイに『もっと光さんの考えるカラーを出しても良いと思います』と言われました。選手たちの考えを尊重しつつ、よくコミュニケーションを取ることで、僕のやりたいことをうまく出していきたいと考えています」

「目標が難しければ難しいほど楽しめちゃうタイプ」
新シーズンのWリーグは外国籍選手の登録規定が大きく変わった。これまでは通算5年以上日本に在留していることが条件で、実質的には留学生しか契約できなかった。この条項が撤廃されたことで、各チームとも昨シーズンまで海外でプレーしていた外国籍のビッグマンをそろって補強している。一気にゴール下の戦いは激しさを増すが、町田は「始まってみないと分からない感じです」と冷静だ。「新しく加入した外国籍選手がチームの中心になるのか、どういう使われ方をするかで私たちも対応も変えないといけない。高さ、フィジカルがある選手にもいろいろなタイプがいるので、そこにしっかりとアジャストする必要があります」
昨シーズン、富士通は190cmのジョシュア ンフォンノボン テミトペの高さと強さにより、ゴール下でアドバンテージを取れる機会も多かったが、新レギュレーションが導入されたことでどのチームにも190cm級の選手がいる。富士通にとっては強みの一つが減退しそうな状況だが、町田はこれも新たなチャレンジとしかとらえていない。
「他のチームがどういう風に変わっていくのか注目しないといけないです。高さでミスマッチになることが少なくなるので、これからゲームコントロールをするにあたってどういう選択をとるべきか、何がアドバンテージになるのか毎回、考えてやっていくのは面白いと思います。すごく楽しみです」
指揮官は変わったとはいえ、今の富士通は各ポジションにタレントが揃うスキのない陣容だ。その中でも町田は「毎年チャレンジと思っていますが、私的には今年はヘッドコーチも変わったことで、より大きなチャレンジの年になります。チームのベースは今までと変わりませんが、質を上げていかないとリーグ3連覇、2連続の二冠は難しいです」と気を引き締めている。
札幌山の手高を卒業以来富士通一筋の町田は、一昨年に入団13年目で初のリーグ制覇、昨季は二冠を果たし、タイトルにあと一歩で届かずに悔しさを噛み殺していた時期と状況は一変した。だが、それでもチャレンジを強調し、勝利への渇望はずっと変わらない。過去2シーズンの結果で満たされた部分はないのかと尋ねると、町田は「どうなんだろう」と笑顔を見せながら語る。
「優勝チームのプライドはありますが、『昨シーズン優勝しているから今回も勝てる』みたいなメンタルはまったくないです。常にどの相手と戦ってもチャレンジです。そして初優勝の後は連覇、今年は3連覇と目標がより大きくなる。より難しいチャレンジに臨めることが私のモチベーションになりますし、困難な目標になればなるほど私は楽しめちゃうタイプです」
この町田のメンタルをチーム全員で共有している限り、今シーズンも富士通は女王に最も近い位置にいる。