伊佐勉

今オフ、伊佐勉は京都ハンナリーズの新たなヘッドコーチに就任した。リーグ全体として日本人ヘッドコーチの数が減っていく中、琉球ゴールデンキングス、サンロッカーズ渋谷、昨シーズンまで2年間指揮を執った福井ブローウィンズに続き4チーム目の指揮を執る。新天地にかける意気込みを聞いた。

「やりたいバスケットがどこまで合うのか見極めないと」

──まず、京都からオファーが届いた時の率直な気持ちを教えてください。

昨シーズンまでヘッドコーチを務めていた福井をB1に上げることができなかったのはとても残念でした。福井でB3、B2を経験できたのは私のコーチングキャリアにとってすごく大きかったです。ただ、B1でもう一度勝負をしたいという思いが強くあったので、京都から声がかかった時はすごくうれしかったです。

──Bリーグでは近年、ヘッドコーチでなくアシスタントに新たな役割を見出す日本人コーチが増えています。伊佐コーチはB1と共にヘッドコーチであることにも強いこだわりがありますか。

福井に行く際にも、アシスタントやアソシエイトコーチでのお話をいくつかいただいていました。福井は新規チームかつ、今まで経験したことのないB3というカテゴリーで、新たな挑戦に対するやり甲斐はありました。一方で、自分がどういう仕事をしたいかと考えた時に、やっぱりヘッドコーチへの思いが強いということにも気づきました。

ただこれはヘッドコーチという役職に強いこだわりがあるというより、この年齢(56歳)でアシスタントをやるのはちょっと難しいかも、ということによるのかもしれません。外国籍のヘッドコーチの下ならちょっとは考えられますが、日本人ヘッドコーチの下でアシスタントをできる年齢ではないなと。この年齢だとまわりもちょっと迷惑だろうと自分でも思います(笑)。

──欧米などでは自分より経験豊富なヘッドコーチ経験者をアシスタントにおくことは一般的ですが、日本では珍しいケースですね。

日本人の年齢による先輩後輩文化も影響しているのかと思います。年下のヘッドコーチにとっては、僕のような60近いアシスタントコーチがいることのデメリットはあるだろうと感じます。いずれはBリーグもアメリカのように若いヘッドコーチのもとに経験ある年上のアシスタントが2〜3人いる状況になっていくかもしれませんが、現時点ではまだそういう段階ではないと思います。

京都ハンナリーズ

ローテーションは10人前後を想定

──今シーズンの京都は、エースの岡田侑大選手が移籍したものの外国籍の3人を含め主力の多くが残留しています。どのようなスタイルを展開していきたいですか。

これまでSR渋谷や福井でもやってきた、アップテンポなオフェンスとフルコートでプレッシャーをかけるディフェンスを展開していきたい考えです。まずは僕がやりたいバスケットが今のメンバーにどこまで合うのか、見極めないといけない。その中でチームに合った戦術を入れるというようなアジャストは必要になってきますが、今は基本的に自分のやりたい方向でいけると感じています。

日本人、外国籍ともにベテランも多いですが、彼らが僕の求めるプレー強度に達していないとはまったく感じていないです。年齢は数字でしかないという考えです。僕の好きなスタイルは、チーム全員でボールをシェアして攻めること。昨シーズンに平均15得点を挙げていた岡田選手が抜けた分は、みんなでより良いシュートを1本でも多く作ることで埋めたいです。

──伊佐コーチのバスケットといえば、選手を頻繁に変え、多くの選手を使うスタイルで知られていますが、そこは継続していきたいと。

チーム全員で戦いたいという気持ちは変わっていなくて、タイムシェアで全員を出したいです。ただ、長い時間出ていたほうがパフォーマンスの良い選手もいるので、その辺はアジャストしないといけません。とはいえ30分以上出場して僕が求めるインテンシティを保てるとは思えないので、10人くらいでのローテーションが必要になってくると思います。

──前からプレッシャーをかける守備のスタイルにおいて、まずカギとなるのは最前線から当たるガード陣だと思います。新戦力の小川麻斗選手は福岡第一高で1試合を通して走るバスケットをやっていましたし、コーチのやりたいバスケとの親和性が高い印象があります。小川選手と、彼とともにポイントガードを担う澁田怜音選手という2人のガードへの期待を聞かせてください。

若いガード2人はそれぞれ持ち味が違い、ゲームコントロールに関してはもっと伸びていくと思います。まずは彼らの良いところを引き出していくことを大切にしていきたいです。小川選手に関していうと、彼が昨シーズンまでプレーした千葉ジェッツさんと僕のやりたいスタイルは大きく違うので、すぐに適応するのは大変だと思いますが、福岡第一で走り回っていた感覚を取り戻してもらって、うまくアジャストさせてあげたいです。冗談で「全然、走れていない時は井手口先生(福岡第一高の井手口孝コーチ)にちょっと電話するぞ」と話しています(笑)。

──同じく新戦力の渡辺竜之佑選手は、琉球、SR渋谷、福井に続き京都でも一緒に戦うことになりました。自分のやりたいバスケットの一番の理解者として頼りにしていますか。

そうですね。僕がどういったことをやりたいかは彼が一番分かってくれているはずです。例えば僕が怒ったりしている時、彼から他の選手たちに何がいけなかったのかをいろいろと噛み砕いて伝えてくれることも期待しています。また、彼は僕のやりたいバスケットをいろいろな角度から体現してくれる選手で、言い方は悪いですけどすごく使い勝手が良いので、いつも自分のチームに来てもらっています。

──伊佐コーチにとって京都は、琉球ゴールデンキングスで指揮をとっていたbjリーグ時代にはプレーオフなど大一番で激突するライバルチームでした。今、そんな京都のヘッドコーチをするめぐり合わせについてはどう思いますか。

かつてのライバルチームということはまったく気にならなかったですが、ちょっと変な感じもあります(笑)。bjでやり合っていた相手のベンチに自分が座って、京都出身の桶さん(桶谷大ヘッドコーチ)が沖縄でキングスを率いている。そこは面白い構図なのかもしれません。ただ今は京都を皆さんにより応援してもらえるチームにしていくことだけを意識しています。