「新たな出発に準備万端で、待ちきれない気分でいる」

マイク・ブラウンはコーチ業を愛している。選手たちを率いて過密スケジュールの中で勝ったり負けたりしながらチームをブラッシュアップし、プレーオフを目指す仕事が楽しくてたまらないタイプだ。その彼は昨年末にキングスのヘッドコーチを解任された。

若いキングスをプレーオフ進出チームへと成長させたところで、フロントがベテランのビッグネームを獲得してチームのバランスが崩れた。それに対して生え抜きのディアロン・フォックスが不満を漏らすと、変化をアピールするために指揮官更迭を選択。ブラウンにとっては不条理としか言いようのない解任劇だったが、オフになるとニックスからオファーが届いた。今度はプレーオフ進出を目指すのではなく、プレーオフでどれだけ勝てるかが問われる成熟したチームであり、彼のキャリアとしてはステップアップとなる。

シーズン始動の会見でブラウンは「オフの間も選手たちとはかなりの頻度でコミュニケーションを取ってきた。みんな新たな出発に準備万端で、待ちきれない気分でいる」と語る。その表情からは、チームの誰よりも彼自身が待ちきれない様子が伝わってくる。

トム・シボドーも粘り強くチームを育て上げたところで解任の憂き目を見ており、これもまた不条理と言える。ただ、新たな方向性を得ることでチームにはこれまでとは違う成長があると期待されており、ブラウンはその期待に応えるつもりだ。そのメッセージはシンプルで、シボドーのチームで課題だった点を彼らしい手法で解消することだ。

「確実に言えることはオフェンスで速いペースでプレーすること。フルコートだけでなくハーフコートでも速いペースを保つ。具体的に何から始めるか? 簡単だよ。選手たちに『もっと速く走れ!』と言う(笑)。大事なのは素早くコーナーにポジションを取ること。このチームはオールラウンドにプレーできる選手が揃っているから、コーナーに走るのは1番から4番の誰でもいい。センターはリムランか、最後に空いたスポットを埋めることになる。コーナーに素早く移動できればディフェンスを広げられる。ドライブでペイントに侵入し、シュートを打つのもキックアウトするのも、ドミノ倒しのように簡単に行く。このやり方を選手たちが受け入れてくれれば、当然そうなると思っているが、我々のプロセスは良いスタートを切れるはずだ」

そして、メンバーを固定した前体制とは違い、層の厚さを生かす。「キングスでは9人か10人の選手を使っていた。ケガ人が出た時期には2ウェイ契約のキーオン・エリスを先発に据えたこともある。勝利に貢献できる選手にはできる限りチャンスを与えたい。我々の選手層は厚い。全員がシーズンを通してどこかで活躍の機会を得られることを願う」

『ブランソンと仲間たち』だったニックスに大きな変化

絶対的なエースであるジェイレン・ブランソンの起用法も変わる。シボドーはブランソンが「もう無理だ」と言うまで彼をオフェンスの中心に据え続けたし、ブランソンがその言葉を発することはなかった。だが、ブラウンは彼のプレータイムと役割をコントロールするつもりだ。

「全員がイージーショットを打てるようなバスケをしたい。今のバスケで最も簡単なシュートの一つがペイントタッチからパスアウトしての3ポイントシュートだ。私は彼にもその機会を与えたい。彼に簡単なキャッチ&シュートの機会をどう与えるかは重要なポイントになる。試合の終盤はどうしても彼がボールを手にして仕掛けることになる。そう考えれば試合全体では彼の負担を軽減させたい」

キングスのヘッドコーチになる前のブラウンは、ウォリアーズのアシスタントコーチだった。リーグ最強のシュート力を持つステフィン・カリーをどのように活用するか、それを突き詰めたチームのメカニズムをブラウンは知っている。

ブラウンの発言を聞いたカール・アンソニー・タウンズは「現時点で僕たちがどんなバスケをやるかは分からないけど、彼がそう言ったのならステフ・カリーのプレーをイメージすればいいんだろう。スペースでパスを受けやすくして、シュートチャンスを与える。センターはスクリーンを掛けてドライブやシュートを助ける。そういうプレーを作っていくんだ」と語る。

ブランソン自身も「今までにもやってきたことだ」と、指揮官のアイデアを受け入れる。「僕はこれまで様々な役割を担い、それをどうこなせば最高の結果を出せるのかを見極めてプレーしてきた。今回も同じようにやるつもりだ」

シボドー体制では『ブランソンと仲間たち』だったニックスの印象はかなり変わることになるだろう。ブランソンの役割が減少し、ベンチメンバーも含めた他の選手がより大きな責任を担う。それでいてクラッチタイムになれば、ブランソンが試合を支配する。ブラウンはそんなバスケの構築にモチベーション高く取り組もうとしている。

ブラウンは言う。「ニックスの選手たちは受け身ではなく自分から率先して何かをやろうとする。そして努力家だ。そして、ベテランではあるが学ぶことに貪欲だ。このようなグループを率いることができてうれしいよ」