文=大島和人 写真=B.LEAGUE

SR渋谷のペースだった試合を藤井の踏ん張りが変える

60試合の長丁場だったB1のレギュラーシーズンも残すところ2試合。川崎ブレイブサンダースは48勝10敗で第32節のサンロッカーズ渋谷戦を迎えていた。あと1勝で3地区18チームの最高勝率が確定するという状況もあり、とどろきアリーナには3784人の観客が詰めかけた。

外国籍選手のオン・ザ・コート数は川崎が「2-1-1-2」で、渋谷は「1-2-1-2」。第1クォーターは渋谷がインサイド勝負でロバート・サクレにボールを集めた。サクレは10分間で9本の2ポイントシュートを放って11得点。チームも21得点を挙げる。しかし川崎は辻の3本を筆頭に6本の3ポイントシュートを放ち、そのうち5本を成功させる。効率良く得点を挙げた川崎が、25-21で第1クォーターをリードした。

第2クォーターに入ると渋谷はアイラ・ブラウンに代え、3ポイントシュートを強みとするアールティ・グインを起用。第1クォーターに2本だった3ポイントシュートの試投数は8本となり、外からのシュートを増やした。

川崎もオフィシャルタイムアウト明けにニック・ファジーカスの連続得点などで39-31までリードを伸ばすが、渋谷もそこから7得点のランでお返し。ブラウンもフリースローこそ決まらなかったものの2つのバスケット・カウントを決めてチームを勢い付ける。38-39から38-41と再び差が開いた残り54秒には、アキ・チェンバースが第2クォーター2本目の3ポイントシュート、さらに残り36秒には速攻から広瀬健太が決め、43-41と逆転して前半を終える。

渋谷は第3クォーターに入っても勢いを維持。第2クォーター終盤から18得点のビッグランを見せて、56-41まで一気に川崎を突き放した。渋谷は相手のパスにチャレンジしてスティールを量産し、サクレとブラウンのブロックも光った。川崎はこの10分間でターンオーバーが6つと自滅気味だった。

第3クォーターの渋谷は広瀬が7得点、サクレも6得点を挙げる活躍。残り1分18秒には広瀬のキックアウトから大塚裕土が3ポイントシュートを決めて、試合は63-46と17点差まで開いた。しかし川崎も残り1分から藤井祐眞の3ポイント、野本建吾のジャンプショットと立て続けに決めて12点差まで詰めて最終クォーターに望みをつなぐ。

残り45秒に野本が決めた場面も、起点は藤井のスティール。辻直人が「藤井があきらめずにすごく頑張ってくれた。藤井のおかげでみんなが集中し直してできた」と振り返るように、チームを引き締めるプレーだった。

ファジーカスとサクレが繰り広げた『NBA級』の攻防

主砲のニック・ファジーカスが第3クォーターを終えた時点で13得点。2ポイントシュートが「14分の4」という彼らしくないスタッツになっていた。彼をマークしていたのは15-16シーズンまでNBAレイカースでプレーしていたサクレ。ファジーカスも「間違いなくサクレはとてもいいディフェンダー」と認める難敵だった。

ただ彼は余裕を失っていなかった。ファジーカスはこう説明する。「あまりシュートが入っていなかったが、そういう時もフラストレーションを溜めないようにしている。何本か落としてもそのうち打てば入るという自信がある。我慢すれば絶対に流れが良くなると信じている」

ファジーカスなりに打開策も見つけていた。「サクレは他の選手のヘルプにあまり寄らないで、ピック&ロールをやる時もずっと自分についていた。やりにくい部分もあるが、逆に味方がノーマークになる」

川崎は藤井や栗原貴宏の3ポイントシュート、第3クォーターはほぼ休んでいたライアン・スパングラーの活発なアタックで追い上げる。渋谷は残り5分過ぎから立て続けにタイムアウトを取るが、川崎に傾く流れを変えられない。

篠山と辻、さらに藤井を起用する3ガードが決め手に

川崎は第4クォーター残り3分28秒のタイムアウトを63-70と7点ビハインドで迎えた。ここで川崎の北卓也ヘッドコーチは、流れを変える妙手を打つ。スモールフォワードの栗原貴宏に変えてポイントガードの藤井を起用し、篠山竜青、辻と並ぶ3ガードのラインアップに切り替えたのだ。指揮官はこう説明する。

「どの試合か忘れたんですけれど、今までも1回やっていました。渋谷は2番3番の選手も含めて大きいし、アウトサイドもリバウンドに飛び込んでくるので、3ガードにする予定はなかった。ただ終盤の展開を見ていて、渋谷は足に来ているなと思った。3ガードにしてウチが足を使ってディフェンスをすればいいと閃いた。そうしたら上手く行った」

川崎はガード陣が先頭に切ってオールコートで激しくプレスを掛け、ボールを奪うと藤井や篠山が活発なドライブを仕掛ける。それでも残り1分40秒で6点差は残っていたが、ファジーカスが勝負どころで2本の重要なシュートを決めた。いずれも藤井のドライブから、外に開いたファジーカスがフローターを沈める形だった。

ファジーカスはこう説明する。「サクレがピック&ロールのときにずっと食い付いていたので、ウチのガードがそれを生かして点を決めていた。何回か上手くアタックした後、サクレがヘルプに寄ったので、今度は自分のスペースが空いてシュートを打てた」

ファジーカスの強みは210cmの長身とシュートの上手さ。そして何より相手の動きを見て最善の選択ができるクレバーさだ。川崎はファジーカスが残り9秒から沈めた2ポイントシュートで76-76の同点に追い付き、試合をオーバータイムに持ち込んだ。

延長では川崎が圧倒、チャンピオンシップ第1シードに

渋谷はサクレ、広瀬、チェンバースとスタートの5名のうち3人を30分以上引っ張っていた。北ヘッドコーチも説明するように「足に来ていた」部分はあったのだろう。オーバータイムに入ると勢いの差は歴然。川崎は最後の5分間で10得点を決めるファジーカスの活躍もあり、93-86で勝利を飾っている。ファジーカスは最終的に27得点でサクレと並び、この試合のポイントリーダーに。リバウンドは大量20本と、チームの半分以上を一人で確保した。

川崎は1試合を残して3地区、18チーム全体の1位を決めて、チャンピオンシップの第1シードも得ることになった。チャンピオンシップ初戦で対戦する「ワイルドカード2位枠」は渋谷が濃厚。つまり両チームは6日のシーズン最終戦を終えると、1週間後に再戦する可能性が高い。そんな巡り合わせを想定しても、17点差からの逆転勝利は弾みをつけるものになる。

北ヘッドコーチはこう述べる。「最大17点離れても、ウチはまだまだ追いつくという感覚を持つきっかけになったと思う。逆に渋谷さんにはそれだけを離しても、脅威を感じるようなインパクトを与えられた勝利だったと思う」

渋谷との『4連戦』について、辻直人はジョーク交じりにこんなことも口にしていた。「やりにくいというか、もうお腹いっぱいというか……。チャンピオンシプの1回戦でもし当たったら、オールジャパンも含めて合計11回。終わった後、一緒に打ち上げに行ってもいいくらい(笑)。それくらい仲は深めていると思います」