昨年は代表活動を辞退、満を持しての復帰戦で躍動
5月31日に行われた国際強化試合、ベルギーとの第1戦。スタメンに名を連ねた本川紗奈生は試合序盤に誰よりもアグレッシブなプレーで日本代表を引っ張った。仕掛けた時にはもう並び、次の瞬間には抜き去るダイナミックなドライブに、クロスオーバーで変化を付けるのだから、ベルギーとしては止めることができない。16分半のプレータイムで8得点。代表復帰戦を、スタッツ以上に印象に残るプレーで飾った。
本川は2016年のリオ五輪メンバーの一人。吉田亜沙美とのバックコートコンビは日本のトランジションバスケットの核となり、吉田が素早く攻撃をセットし、何とか踏み留まろうとする相手を本川が1on1で切り裂く形は大いに機能した。しかし、リオ五輪では古傷の足底筋膜炎を抱えながらのプレーで、無理をした代償は少なからずあった。2017年はコンディションが整わないまま代表合宿に参加するもメンバーに残れず、2018年には代表活動を辞退した。
こうして今年、本川はリオ五輪の実績があるメンバーとしてではなく、新たな挑戦者として日本代表に戻ってきた。シャンソン化粧品でも苦しい経験が多かったが、ケガと付き合いながらパフォーマンスを出す方法も、年齢に応じて重くなるチームの責任を果たすことも、少しずつ学んできた。
ヘッドコーチのトム・ホーバスは、そんな本川に大きな信頼を寄せる。それはこの試合でスタメンに『抜擢』したことからも明らかだ。「まだウチのオフェンスを100%理解しているわけじゃなく、もうちょっと時間がかかるかもしれない。それでもリオではスピードばかりだったけど、今は頭を使っている。すごく上手になったと思います」と、本川を評価する。
「手応えは半々、まだまだできる自信があります」
その本川は、ベルギーとの初戦でのパフォーマンスを「手応えは半々ぐらい。まだまだできると思っています。まだ代表活動が始まって1カ月半で、これから体力とか技術を積み重ねていけば、まだまだできる自信があります」と、ポジティブな意味で『50点』の自己評価をつけた。
足りないのは一つひとつのプレーの精度だ。「3ポイントシュートをノーマークの場面で落としてはいけないし、ドライブでもファウルされながらでも決めないといけない。ファウルが鳴らなかったとしても決めないといけないと感じました。そういう細かい部分でまだ足りないと感じたところはあります」
それでも、代表から長く遠ざかったことで、かつての実績や自信をリセットしての再出発だったことを考えれば、今は課題よりも収穫に目を向けたい。チャレンジャーの気持ちで日本代表に戻ってから、練習と試合を重ねる中でかつての自信、そして責任感を取り戻しつつある。
「そうですね。やっぱり『自分がやらなきゃいけない』という気持ちがまた芽生えたというか。リオの時は私がやらなきゃいけないと思っていたんですけど、やっぱり3年も空いてしまって、気持ちのどこかに『私にできるのかな』って不安がありました。この合宿と試合を通して、またちょっとずつ自分の気持ちに変化が出てきたように思います。今は『もっともっとやらなきゃ』と思うようになっています」
「痛いは痛いですけど、やっちゃえばもう関係ない」
ゼロスタートからの50点。「まだ50点」かもしれないが、ここから先は伸びしろしかない。指揮官トム・ホーバスも「3ポイントシュートも習っていてドライブもある。ディフェンスも悪くない。これからが楽しみな選手です」と、若手に向けるような期待を本川に寄せている。
そして、ここまでの合宿での成果と試合で見せたパフォーマンスは、明らかに本川を前向きにさせている。「日本代表に最後まで残ること。オリンピックのメンバーに選ばれるというのは前提で、メダル獲得を掲げていますが、もっともっと努力しないと取れないと思っています。それはリオの時にすごく感じたところなので、一つひとつのことを丁寧に、オリンピックまでの時間を意識しながら練習をしていきたいと思っています」
踵の古傷、痛めたひざ。「いろんなところがちょこっと痛いです」と本川は明かすが、周囲の協力も得てケガと付き合う方法も学んできた。さらに『日本代表は自分のプライド。どうしても譲れない場所』との信念を曲げて、去年は無理をしなかった。だからこそ、今年は一気に評価を取り戻し、再びオリンピックのコートに立たなければいけない。
「痛いは痛いですけど、やっちゃえばもう関係ないです」と笑顔を見せ、「日本代表としてやるからには、責任を持ってプレーしたいです」と語る。リオ五輪を知る選手の経験、バスケットに取り組む姿勢は必ずチームにプラスとなる。本川は日本代表の重要な『新戦力』となりそうだ。