「アウェーはアウェーで違った楽しみ方がある」
ブレックスアリーナはBリーグの中でも『アウェー度』の高さが屈指の会場だ。しかし、小野龍猛はこんなことを口にする。「アウェーは『してやった感』が出る。ホームが嫌いという訳じゃないし、お客さんも入ってくれるのでやりやすいんですけど、アウェーはアウェーで違った楽しみ方がある」
千葉ジェッツはB1最多観客動員を誇るチームで、彼がその声援に後押しされてプレーすることが嫌いなはずはない。ただし小野は相手ブースターの色に染まり、ブーイングに包まれた中でプレーするという環境の中で勝利をすることに喜びを見いだすのだという。
「黙らした感がすごい好きなんです」。彼らしいどや顔で、小野は喜びを語る。29日のリンク栃木ブレックス戦は、そんな彼にとっては最高の舞台だった。
栃木にとっては勝てば東地区制覇が決まるという大一番。アリーナは立ち見も含めて4000人近い観客で埋まった。しかしそんな大観衆を『黙らせた』のが、千葉と小野が第4クォーターに見せたプレーだった。
第3クォーターを終えた時点で57-58と1点ビハインド。千葉は石井講祐のファウルトラブルもあり、小野をシューティングガードに置くビッグラインアップで勝負どころの10分間に入っていた。小野と荒尾岳、マイケル・パーカー、タイラー・ストーンの4名は相手のガードにも付ける足を持つ『動ける2メートル級』の選手たち。彼らがスイッチ、ローテーションで付く相手を柔軟に変える作戦がハマって、千葉は難敵を突き放すことに成功した。
最終的には84-77の快勝で、今季7戦目の栃木戦を終えている。
「ストレスしかない」というミスマッチへの『慣れ』
小野は「僕の役割はまずチームをまとめること。そしてオフェンスだったりディフェンスだったりチームの足りない部分を自分が補うこと」と自らの役割を説明する。彼はB1でもトップクラスの3ポイントシューターだが、単なるシューターではない。
チームメイトの西村文男は29日の第4クォーターについてこう振り返っていた。「オフェンスは単純にウチのアドバンテージがあるところで攻めようと思った。例えを出せば小野のポストアップができて、そこで良いオフェンスができた。あそこは今シーズンを通して止められていない」
小野が197cm100kgという体格でゴールを背にして時間を作り、相手をシールし、ボールを動かす。この試合もそういった『起点』の動きが秀逸だった。彼はこう胸を張る。「最後は僕のポストプレーがいい形で決まって、パスをさばけた。タイラー(ストーン)や(西村)文男のシュートも入るし、特に文男はここ3試合4試合調子が良いから、安心してパスを出せる。(富樫)勇樹や石井(講祐)も含めて千葉は3ポイントの入る連中ばかりで、僕もポストアップからのパスは得意。そこが生きてよかった」
守備面では彼よりかなり小さい、すばしっこい相手のマークに付く場面が増えていた。小野は苦笑を浮かべつつ、「ストレスしかないです!」と言う。「でも富樫(勇樹)と付くことはないですし、アイツを見ていれば速く感じない。チームメートに良いポイントガードを見ているし、いかにうまくスイッチできるかは慣れている」
小野は「嫌ですよ」と強調していたが、日頃のトレーニングで富樫や西村とマッチアップする経験を積んだことが『慣れ』につながった。
ジェッツを盛り立てる『俺様プレー』と『俺様コメント』
ただしこの試合、千葉が66-65とリードした第4クォーターの残り3分55秒に、小野は痛恨のミスを犯している。彼は3ポイントシュートをフリーで打てる体勢だったが、ストーンにパスを出して、須田侑太郎のスティールを喫してしまったのだ。これが栃木の速攻、ロシターの得点につながった。小野はこう振り返る。
「前半はあまり打っていなかったので、自分の中でタイミングを取り辛い部分があって、消極的になってしまった。自分が情けないという気持ちでした。なぜ打たないんだ。いつもなら打っているだろう……という感じですね」
しかし小野はこう続ける。「反省して決め返してやりました。次は絶対打って決めると自分の中で決めていたので。それがいい形で4点プレーになった。結果オーライって感じですね」
直後のポゼッションで小野は3ポイントシュートを成功し、相手のファウルから得たプラス1ショットも成功。そこは結果的に千葉が70-67とリードを得る、試合の山場になった。
小野は『龍猛』という名の通り、いつもコメントが強気で勇ましい。同時に決して嫌みがなく、どことなく育ちの良さも漂っているのだが、彼らしい俺様プレーと俺様コメントがこの日も冴えていた。
B1のレギュラーシーズンは5月7日に全試合が終了し、13日からはチャンピオンシップが始まる。栃木が三地区間2位、千葉がワイルドカード上位という今の順位のままなら、クォーターファイナルは両チームがブレックスアリーナで再戦することになる。もちろん千葉にとっては2位以上に浮上して船橋アリーナで開催することが最善だが……。今の千葉ジェッツと小野キャプテンなら『究極アウェー』の逆境も苦にしないだろう。