勝ち方を知る両チームのベテランが存在感を発揮

NBLプレーオフ、セミファイナル第2戦。後がないトヨタ自動車アルバルク東京が立ち上がりから9-0と先行し、レギュラーシーズン1位の強さを見せ付ける。

だが、昨シーズンのチャンピオンであり、今年1月の天皇杯を制したアイシンシーホース三河は勝ち方を知っていた。桜木ジェイアールがコツコツとインサイドから得点を返し、交代で入った柏木真介がゲームを落ち着かせる。

存在感を示すベテランはアイシン三河のこの2人だけではない。トヨタ東京では、クォーターファイナルからの3試合で25秒しかコートに立っていない正中岳城が、この試合は第1ピリオド残り2分から早々に出場機会を得る。正中はJBL時代の2011-2012シーズンに2冠を勝ち獲った選手だ。

「シーズンを通して出番は少なかったが、常に一生懸命取り組み、練習でも最後まで残って努力してきた選手。どこかのチャンスで使いたいと思っていた。まさしく負けたら終わる、こういう時に力を出してくれる選手であり、そこに対しては信頼がある」

33歳と若い伊藤拓磨ヘッドコーチの期待に応えた正中は、コートに立つや否やいきなり3ポイントシュートを決めて点差を2桁に広げると、第2ピリオドもコートに立ち続け、出だしに再び3ポイントシュートを決めた。

しかし、アイシン三河も負けてはいない。第1戦は無得点に終わった比江島慎がバスケットカウントを決める。エースの復調に誰よりも大きなガッツポーズを見せたのは、鈴木貴美一ヘッドコーチだった。前半の最後には、金丸晃輔が見事に3ポイントシュートを沈める。エースとシューターが目覚めたアイシン三河が、41-43と2点差まで追い上げ、トヨタ東京の尻尾を捕らえた。

勝ち方を知るベテラン、正中と柏木がゲームを引っ張った。

復調した比江島がエースの期待に応える働きを見せる

第3ピリオド開始早々、金丸の3ポイントシュートで44-43と逆転に成功。その後は、どちらも譲らずシーソーゲームが続く。3ポイントシュート攻勢でリードするアイシン三河だったが、田中大貴の2連続得点で50-51と逆転されてしまう。この緊迫した場面で、アイシン三河の橋本竜馬が3つ目のファウルを犯してしまう。交代に動こうとする鈴木ヘッドコーチを制し、コートに残ることを自ら選択した。

「コントロールしなければいけない時間だった。コーチも信じてくれて、もうファウルをするなと目で指示してくれた」

橋本はポイントガードとして、第1戦同様に冷静な判断でチームを牽引。しかし、リードするのはなおもトヨタ東京であり、第3ピリオドが終わって64-57。アイシン三河は7点差を追う。

「本来の調子が最初から出ていたわけではないが、今シーズンも大事な試合でシュートを決め、日本代表でも結果を出してきた。こういう時こそ彼を信じ、彼のシュートに託したところ、最後の場面で決めてくれた」

鈴木ヘッドコーチの期待に応える活躍を見せたのは、エース比江島だった。スティールからの速攻を決め、続けざまの3ポイントシュートで74-76と2点差まで迫る。勢い付くアイシン三河は、ギャビン・エドワーズのフリースローで76-76で同点とする。今度は比江島がファウルをもぎ取る。ここまで確率は良くなかったフリースローをしっかり2本とも決め、76-78と土壇場で逆転した。

残り時間25.8秒、トヨタ東京の攻め。ショットクロック24秒をフルに使って攻めるラストシュートを決める選択肢も考えられた。しかし、トヨタ東京は再び逆転されても追い上げられる時間を残したいと考え、17.5秒で田中が3ポイントシュートライン付近からシュートを放つ。そしてこのタフショットが外れてしまう。

「もう一回攻撃チャンスを得るために自分が早い時間帯でシュートを打った。もっと良いシュートセレクションはあったと思う。でも、自分で決めると思って打った」とは田中の弁。「大貴はチームのエースなので、あの場面で打つのは当たり前。本人は入ると思ってシュートを打ったわけであり、それはしょうがない」と伊藤ヘッドコーチも納得の選択であった。

その後、ファウルゲームで与えられたフリースローを集中して決めたアイシン三河が、84-79で逆転勝利を飾り、ファイナル進出を決めた。

強い意思で最後のシュートを放った田中だが、結果は出なかった。

勝敗を分けたのは「普段どおりのプレーを出せる経験値」

「選手たちは素晴らしい活躍をしてくれた。プレーオフで勝たせてあげられなかったのはヘッドコーチの未熟さや経験のなさが出てしまったから。僕がレベルアップしなければいけないと痛感している」

ヘッドコーチ就任1年目の伊藤は昨シーズン、ファイナルへ進出。しかし、その時もアイシン三河に敗退した。リベンジを目指すトヨタ東京であったが、今シーズンも上回れず、経験の差を埋めることはできなかった。

JBL時代から数えて6度のリーグ制覇の経験を持つ鈴木ヘッドコーチは、逆に経験があることをチームのアドバンテージとしていた。「なるべく特別なことをしない。普段どおり、とにかくレギュラーシーズンを含めて自分たちの良いイメージでプレーオフへ向かうことが実現できた。毎年毎年、プレーオフを戦っているが大変さは変わりない。ただ、試合への準備は多少なりとも経験があるので、いつもどおりのプレーを出せたというのも事実」

レギュラーシーズン4位のアイシン三河が、帳尻を合わせるようにプレーオフで調子を上げ、頂点まであと3勝に迫ってきた。ファイナルの相手は第3戦までもつれこんだリンク栃木ブレックスvs東芝ブレイブサンダース神奈川の勝者。1試合少なく勝ち抜けたアイシン三河は対戦相手をじっくり観察し、ゆっくりコンディションを整えられるアドバンテージをもらって今週末を迎える。