佐藤公威

「終わった瞬間にブザーが心の糸をほぐしてくれた」

試合終了のブザーが鳴ると、佐藤公威は抱え込んだボールを離して両腕を突き上げた。次の瞬間には立っていられず、手で顔を覆って膝からコートへと崩れ落ちる。アウェーの熊本まで駆け付けたブースターの真ん前で突っ伏し、しばらくは立ち上がれなかった。

「いろんなスポーツのハイライトを見てたりして、ああなる方たちがいるじゃないですか。自分はならないと思っていたんですけど、やっぱり本当にすべてを懸けてやってきて、終わった瞬間にブザーが心の糸をほぐしてくれたというか、ほどいてくれたというのがあって、そうなっちゃったんですけど、良かったです」

2017年の夏、島根スサノオマジックがB1昇格を果たした時に、B1の戦いを知るベテランとしてチームを引っ張り、トップカテゴリーに定着させるためのキーマンとして獲得されたのが佐藤だった。しかし、17-18シーズンの島根はB1で歯が立たずにあっさりと降格。もともと、誰よりも責任感の強い男である。自分の役割を果たせなかった、という忸怩たる思いを抱えた1年だった。

ラスト11秒からファウルゲームを仕掛ける相手のプレスを避けて回したボールが、最後に佐藤の手に収まった。どういう思いで最後の瞬間を迎えたのか、佐藤は「覚えてないですね」と笑う。

「ただ、なんか面白いですね。自分たちがB1から落ちてしまって、その責任じゃないですけどB1に戻らなきゃいけない使命があって、そのすべての思いがパスになってこっちに来たのかなって。そういうのもあって感情的になってしまったんだと思います」

佐藤公威

B1への再挑戦の前に「何も気にせずゆっくり寝たい」

同じ責任を背負っていたのが鈴木裕紀ヘッドコーチだ。彼もまた、昇格を決めたチームの指揮を託されたが1年で降格させてしまい、尋常ならざる思いで今シーズンの戦いに臨んでいたのは想像に難くない。佐藤は言う。「選手以上に毎日悩んで、いろんなことを考えられたと思います。僕はユキさんのことも少しは知っていますが、なかなか寝れない人なので、たくさんしんどい思いをしてきたと思うし、去年の悔しさを知っている監督だから本当に勝てて良かった。それが報われて本当に良かったと思います」

シーズンを通して活躍できたわけではなく、自身のパフォーマンスには満足していないという佐藤だが、「選手はみんな毎日毎日本当に練習していたので、その結果が得られたと思います」と激闘のシーズンを振り返る。

それと同時に、意識は早くも島根で最初に託された任務、チームをB1に定着させることへと向いていた。「今日この時点ではうれしい思いしかないんですけど、これから本当の戦いが待っています。B1の恐ろしさは身に染みて経験しているので。これからどうしなきゃいけないのか、しっかり考えて。今はまだちょっと考えられないですけど、数日してしっかり考えたいです」

では、この数日はB1の試練を意識することなく無邪気に喜べるのだろうか。「ゆっくり寝たいです。何も気にしないでゆっくり寝たいですね」と佐藤は言った。B1復帰を決めたにせよ、彼にとってはスタート地点に戻っただけ。本当の責任はこれから果たしていかなければいけないが、少しだけ肩の荷を下ろすことができる。佐藤の長い長いシーズンが、ようやく幕を閉じた。