「僕はすべてを持っているわけじゃない人たちの代表」

昨シーズン終盤をヤニス・アデトクンボのケガで棒に振ったバックスは、今シーズンも開幕から2勝8敗、チームをどう立て直すかの議論でアデトクンボのトレードが話題になる最悪のスタートを切った。

しかし、その後は持ち直し、クリス・ミドルトンの放出という衝撃の大きいトレードがありながらも、チームは成熟度を増している。この1カ月はアデトクンボが2週間欠場したにもかかわらず9勝2敗と結果を出している。アデトクンボとデイミアン・リラードのコンビが噛み合い、それを周囲がサポートするバスケがようやく形になった。

36勝25敗の東カンファレンス4位。まだ上にはキャバリアーズ、セルティックス、ニックスがいて、その3チームとの直接対決で8戦全敗と分が悪いのは気になるが、今後はまた別の展開になるという自信がチーム周辺に生まれている。ベテランの多いチームだがコンディションは管理できており、接戦を勝ち切る強さが備わってきた。ミドルトンに代わって加入したカイル・クーズマはまだ順応に時間がかかるが、それも伸びしろだ。

そんな好調な雰囲気の中、アデトクンボがキャリア通算得点を2万の大台に乗せた。現地3月5日のマーベリックス戦、第3クォーター途中にNBA史上52人目となる快挙を成し遂げた。

「素晴らしい記録だ」とアデトクンボは自分の積み上げた記録達成を素直に喜ぶ。「ただこの瞬間だけでなく、この立場になるために人生で経験したことすべてが頭に浮かぶよ。14歳でバスケを始めたこと、そのために犠牲にした多くのもの、達成できたこととできなかったこと。たくさんの経験が今という瞬間をさらに素晴らしいものにしてくれる」

「多くの人に僕のことを見てほしい。僕はすべてを持っているわけじゃない人たちの代表だ。ずば抜けた才能はなくても、すべての試合で全力を尽くしている。そこ結果がどうあれ、また次の試合で全力を尽くす。僕より先に2万得点を達成した一人、デイムも同じだよね。このリーグには最高の才能を持つ選手がたくさんいるけど、僕が2万点に到達できたのは謙虚に頑張り続けたから、それしかないと思っている。僕はそういう人たちの代表になりたい」

「自分自身に向き合っていれば3万得点に到達できる」

節目の2万点を達成した後のタイムアウトでは、会場のスクリーンに彼のキャリアを振り返る映像が流された。これを振り返ってアデトクンボは「コーチ(ドック・リバース)がずっと『ヤニス、プレーに集中しろ』と言うから感動できなかった。コーチの長いキャリアの中でも2万点の瞬間を味わうことなんて滅多にないんだから、一緒に見てほしかったよ」とジョークを飛ばした。

そして、この2万点はあくまで通過点だと彼は強調した。「3万得点を狙っていくよ。どうやってやればいいのかは分からないけど、毎日努力を積み重ねていく。でも、僕は間違えない。いろんな人が僕を褒めてくれるのは2万得点したからではなく、3万得点してもそれは同じで、僕がチームの勝利のためにどれだけ一生懸命かを評価するからだ。そのスタイルを僕は貫く。そして同時に、謙虚で健康でありたい。そうやって自分自身に向き合っていれば3万得点に到達できるはずだ」

このところのアデトクンボは、これまでほとんど打たなかったミドルレンジのジャンプシュートを打つようになっている。効率の良いシュートではないが、これが武器になればプレースタイルの幅は広がるし、ずっとゴール下で勝負し続けるより身体的な負担も下がる。「僕はまだ30歳だ。まだまだ多くのことができると思っているよ。自分のやり方をもっと効率良く、効果的にするために、学ぶべきことは多い。そうやって努力をして、次こそはちゃんとトリビュート映像を見よう(笑)」