「1on1やアウトサイドシュートが自分の持ち味」

3月2日、群馬クレインサンダーズはオープンハウスリーナ太田で仙台89ERSと対戦した。前日の第1戦は競った時間帯も長かったが、要所を抑えた群馬が勝利。第2戦は第2クォーター終盤に点差を広げ、後半も磐石の試合運びで95-73と快勝を収めた。

この週末に注目の的となったのは、特別指定選手として群馬に加わった十返翔里だ。八王子学園八王子のエースとして活躍し、高校バスケ最後となったウインターカップ準々決勝の福岡大学附属大濠戦でも34得点を記録するなど、世代トップの得点能力を見せている。当初は練習生として加入したが、直前に今節限りの特別指定選手登録が発表された。リリースの翌日、十返は満面の笑みを浮かべ試合に臨む意気込みを話した。

「契約は素直にうれしかったです。自分が目指していたプロの世界でやれるのは貴重な経験になるので、後は頑張るしかありません。1on1やアウトサイドシュートが自分の持ち味です。もし出られたら応援してくれている皆さんに恩返しできるようなプレーをしたいです」

迎えた今節、日本代表帰りの細川一輝がコンディション調整で欠場となり、ロスターに名を連ねた十返は、第1戦の第2クォーター残り1分にBリーグデビューを飾る。結果的にボールタッチのないまま短い出場時間を終えたが、「緊張を越して変な感じでした。歓声がすごくて、この舞台に立てるうれしさの反面、プロの厳しさも感じました。あの大歓声の中でコートに立てたことは一生の財産です」と語った。

「今後のステップアップに繋がる1カ月半になった」

第2戦、最終クォーターの残り3分半から出場した十返がコートに立った時点で、群馬は22点のセーフティリードを築いていた。

「先輩たちが点差を広げてくれて、自分が出ることができました。チームに迷惑ばかりかけていて、何か恩返しできることがないか考えた時に、目に見える得点で恩返しできたのはホッとしています」と振り返った通り、コートに立つだけで圧倒された前日から一変して、短い時間でも自分の能力すべてを発揮すべく躍動した。左ウイングでボールを持つと脇目も振らず1on1を仕掛け、シュートモーションでのファウルを引き出してフリースローを獲得した。

「菅原暉さんがボールを持たせてくれました。ファウルドローンは高校時代から自分の武器でもあったので、思うようにファウルをもらえたのは良かったです。フリースローは1本目が入ってホッとしすぎたのか、2本目を外してしまいましたが、Bリーグ初得点ができて良かったです」

見せ場はそれだけに留まらない。先ほど1on1を仕掛けたのと同じ位置でボールを持つと、迷いなく3ポイントシュートを放った。ボールがリングを通過すると、この日一番の大歓声が沸き上がった。「1本目の3ポイントシュートは思ったような形で打てずに落としてしまいましたが、ファンの皆さんが歓声が背中を押してくれました。成功した2本目はファンの皆さんのおかげでもあるので感謝しています」

自分の持ち味である1on1とアウトサイドシュートで得点を決め、チームを盛り上げ、特別指定選手としてプレーできるわずかな機会できっちり結果を残した十返は、次のように振り返る。「このチームはただのプロではなく、優勝を目指しています。そのチームの一員になれたことは誇りです。この経験を無駄にしてはいけない思いがあります。プロの厳しさも痛感できて、今後のステップアップに繋がる1カ月半でした」

それと同時に今後に繋がる課題もたくさん見つかった。「これまでは自分の好きなようにプレーさせてもらっていました。群馬はチームプレーを重視するので、まだ迷いが出ます。オフェンスだけでは壁にぶつかるので、ディフェンスもハードにできるプレーヤーになりたいです」

「比江島選手が自分の目指すべき姿」

聞けば、群馬の加入は八王子学園八王子の先輩である木村圭吾(福井ブローウィンズ)を追いかけてのものだったと言う。加入前には、昨シーズンに群馬でプレーした木村からアドバイスをもらっていた。十返が背負う12番は、木村が群馬で付けていた番号だ。「圭吾さんは高校時代も12番を付けて活躍していました。縁起の良い数字で高校ではエースナンバーのようになっています」

名前にちなんで8番を付けている八村阿蓮からは「十返なのに10番にしないの?」とツッコまれたようだ。「そのアドバイスを聞いて『あ、そうだな』と思いました。18年間、気が付かなかったです(笑)。これからはもしかしたら10番をつけるかもしれないです」

このエピソードのように初々しさも残り、周りを笑顔にする力もありながら、バスケットボールには真摯に向き合っている。目指すプレーヤー像を問うと、比江島慎との答えが返ってきた。「比江島選手は自分の目指すべき姿だと思います。あとはプレースタイルに関係なく、どのチームからも必要とされる選手になりたいです」

同学年の瀬川琉久(千葉ジェッツ)は一足早くBリーグデビューを果たしている。さらに渡邉伶音(アルティーリ千葉)は日本代表に呼ばれ大きく名を上げている。彼ら同期の活躍も十返には刺激となっている。「琉久はビッグクラブで活躍していて、見るたびに成長しているので距離を感じていました。ただ今日、自分が得点できて少しでも差を縮められたと思います。伶音は日本のバスケで重要になっていく選手です。彼とは大学が一緒で長い付き合いになるので、切磋琢磨して自分もステップアップしていきます」

多くの人の支えがありBリーグデビューを果たしたが、ここからがスタートだ。この日の試合を見ただけでも『持っている選手』であることは疑いようがない十返が、いずれは世代を代表するスコアラーから日本を代表するスコアラーに成長してくれるだろう。