津屋一球

「距離が広がってディープスリーも打てるように」

212日、男子日本代表は約1週間後から始まる『FIBAアジアカップ2025 予選 Window3』のアウェー中国戦、モンゴル戦に向けた強化合宿の取材対応を行った。

今回の合宿は、11月のWindow2を最後に代表引退を示唆した比江島慎以外にも富樫勇樹、渡邊雄太、馬場雄大、ジョシュ・ホーキンソンといった常連メンバーが招集されていない。これまで出番の少なかった選手たちにとっては、評価を高める絶好の機会となる。佐土原遼と共に今回が合宿初招集となる津屋一球にとっても、一気に序列を高める大チャンスだ。

26歳の津屋はサンロッカーズ渋谷での2シーズンを経て、今シーズン開幕前に三遠ネオフェニックスへと加入。特別指定時代の2020-21シーズンから2年間在籍した古巣である三遠に復帰を果たすと、3ポイントシュートとタフなディフェンスで主力の座を勝ち取り、ここまでフル出場で平均6.8得点、2.0リバウンドを記録。特に3ポイントシュートはここまで、1試合平均試投数が4.8本とキャリア最多ながらリーグ3位となる43.3%という高い成功率を記録。3Dとしてハイレベルなプレーを続け、三遠の快進撃に貢献している。

代表初招集を「素直にうれしかったです」と語る津屋は、大きな刺激を受けて合宿を過ごしている。「この場で今、Bリーグのトップレベルの選手たちとバチバチやれているのは僕にとって良い経験になります。すごく楽しくやっています」

ここまで絶好調の3ポイントシュートについては「今まで3ポイントラインの際でしか打っていませんでしたが、距離が広がってディープスリーも打てるようになったりと、それなりに自信を持っています」と語る。そしてトム・ホーバスヘッドコーチとの会話を「『自分のタイミングだと思ったらシュートをどんどん打ってください。逆に打たなかったら怒りますよ』という感じで言われています」と明かしてくれた。

津屋一球

「今回選ばれたことで報われた感じはあります」

昨シーズンはSR渋谷の規律と再現性を重視するバスケットボールに、うまくフィットしきれずに苦しんだ。しかし三遠ではチーム戦術にばっちりハマり、3ポイントシュートは試投数が平均2.5本から4.8本と大きく増加しながら成功率も34.9%から43.3%と向上。キャリアベストと言える活躍を見せている。

「前のチームでもシューターとしてやっていた中、より良い確率を求め細かくプレーするスタイルにフィットしないといけないと必死にやっていました。今もシューターという役割は変わりませんが、より形にとらわれないバスケをやっていて僕としてはやりやすいです。それでアテンプトが増えて確率も上がって、良い方向に向かっていると思います」

このように自身の変化について語る津屋だが、同時に「SR渋谷ではディフェンスが鍛えられて、ルカ(パヴィチェヴィッチ)さんのもとでやれたことで大きな学びがありました」と得たモノも大きかった。SR渋谷の経験があったからこその今の自分があると強調する。

「今はディフェンスを生かした上で、大野(篤史)さんの下で、トムさんと同じように『自分のタイミングが来たら打っていい』と言ってもらえています。この2年間でディフェンス、オフェンスの両方で成長できている。その手応えを感じた上で満足はしたくないですし、まだまだこれからです」

津屋は洛南高、東海大とバスケットボール界のエリート街道を歩んでいきた。東海大4年時の2020年にはキャプテンとしてインカレ優勝も果たしている。だが、当時のチームは同級生に西田優大、1学年下に大倉颯太、佐土原遼、八村阿蓮、3学年下に河村勇輝と実力者たちがおり、脇役となっていた。

プロに入ってからも、ここまで大きなスポットライトを浴びる機会は少なかった。元々、日本代表を目指してプロバスケットボールの世界に入ったが、同世代の選手が次々と招集を受ける中で代表とは無縁の日々を過ごす中であきらめかけたこともあったと言う。

「小学校の先生に『日本代表選手になれ』と言われて、そういう意味では心の中にずっと代表選手になりたいという思いはありました。ただ、これまで先輩、同級生が先に選ばれてきた時は、『やっぱり自分は無理かな』と思ったことはありました。そこからあきらめずにやってきて今回、選ばれたことで僕としては報われた感じはあります」

所属チームで思うようなプレーができず苦しんだ時にも、津屋はなぜ代表をあきらめなかったのか。心の底で消えなかった想いの源泉を津屋は明かした。「やっぱり同世代、身近なところで言うと西田(優大)、吉井(裕鷹)など、同じ学年で活躍している選手は多いです。同級生が日本を背負ってプレーしているのを見ると、どうしても自分も代表でやりたい気持ちが捨てきれなかったのが一番です」

また、難聴の津屋は、聴覚障害者を対象とするデフバスケットボールの日本代表選手としても活躍している。ハンデを抱えながらでもトップレベルで奮闘することで、同じような境遇にある人たちに元気を与えたいと語る。「僕のことを皆さんに知ってもらえるのは良い機会だと思っています。難聴とか関係なく、トップでやれるところを見てほしいですし、僕の姿を見ていろいろなことに挑戦したいと思ってもらえる人が増えてくれたらいいと思います」

ハンデをまったく言い訳にしない津屋の姿は、すでに多くの人に勇気を与えてきた。ホーバスヘッドコーチも「僕もインスパイアされています」と感銘を受け、その上で「彼のバスケットはすごくフィットすると思います。本当に真面目でシュートもよく入っていて面白い選手です」と評している。

果たして津屋は激しいサバイバルレースを勝ち残り、12名のメンバー入りを勝ち取れるのか。学生時代から縁の下の力持ちとしてチームを支えてきたハードワーカーが、代表デビューを果たし大きなスポットライトを浴びるまであと一歩のところに来ている。