「新たに加わる選手に失礼な態度は取りたくない」
バックスとウィザーズの間で、クリス・ミドルトンとカイル・クーズマを中心とするトレードが合意に至った。
バックス:カイル・クーズマ、パトリック・ボールドウィンJr.、今年の2巡目指名権
ウィザーズ:クリス・ミドルトン、AJ・ジョンソン、2028年の1巡目指名交換権
バックスは2013年から12シーズンを過ごし、2021年のNBA優勝に貢献した功労者であるミドルトンをこのタイミングで放出した。33歳は今のNBAではまだ『耐用年数の範囲内』だが、膝、足首、手首、ハムストリングとケガと手術を繰り返しており、過去2シーズンで99試合にしか出場できなかった。
今シーズンはさらに稼働が落ち、ここまで23試合にしか出場していない。開幕から1カ月半後にプレーし始めたものの、膝に痛みが出ないかを毎試合確認しながらのプレーで、ベンチスタートに回っていた。12月のNBAカップ優勝にもほとんど貢献できず。その状況でもバックスのフロントは常にミドルトンを尊重してきたが、トレードの機会は逃さなかった。
クーズマはウィザーズでの4シーズン目の途中で移籍することになった。大ベテランのミドルトンに対しクーズマは若手のような印象もあるが、年齢は4歳しか変わらない。2017年にレイカーズでデビューしたクーズマは『ヤングコア』の一員として成長して、2019-20シーズンにはシックスマンとして優勝に貢献。2021年にウィザーズにトレードされていた。
ウィザーズでは若手から中心選手と立場を変えてチームを引っ張ってきたが、再建が遅々として進まない中で、今年30歳になる彼は再建のタイムラインに合わなくなった。1月末には若手をサポートする役割から一転して自分がエースとしてプレーしてサンズ相手に30得点を記録。この時、彼は初めて「もっとアグレッシブに、ボールを要求して自己主張し、自分らしくプレーした」と語った。これは若手のサポートに回ってスタッツを落としている自分が、本当はまだ十分にやれるというアピールであると同時に、ウィザーズの再建にはもう付き合っていけない、という宣言だった。
バックスは優勝した2021年以降、チームの高齢化による衰えと向き合ってきた。その筆頭とも言うべきミドルトンと決別し、その全盛期の安定感には及ばないもののタレント性のあるクーズマを獲得。今回の決断に際してはクーズマの調査は徹底的に行ったという。また、絶対的なエースであるヤニス・アデトクンボの同意も取り付けた。
現地2月5日に行われるホーネッツ戦の遠征にミドルトンは参加しておらず、トレードが発表される前の段階でアデトクンボは『相棒』への率直な気持ちを語っている。「クリスがトレードされるのだとしたら寂しい。僕らは12年間、勝つのも負けるのも一緒に経験してきた。彼との兄弟のような絆は、このチームで培ってきた中で最も大切なのだ。引退後も彼との付き合いは続くと思う。それはNBAのビジネスより大事なものだけど、ビジネスも理解しなきゃならない。それに、新たに僕のチームに加わる選手に失礼な態度は取りたくない。心を開いて良きチームメートでありたいと思う」
順応への課題はいくつかあるが、アデトクンボとデイミアン・リラードにクーズマが加わった『ビッグ3』が誕生する。今シーズンのバックスは開幕当初の悲惨な出来から修正を重ねてNBAカップ優勝を果たした。同じような課題を乗り越えてクーズマをチームの攻守にフィットさせられるかに注目が集まる。
一方でウィザーズは引き続き再建を進めることになる。クーズマが再建に協力できない意向を表明した時点で放出すべき選手となった。ミドルトンは2026年まで3400万ドル(約51億円)の契約を残すが、クーズマより1年早く契約満了を迎えるためにウィザーズとしては今後の動きが取りやすいと言える。さらにミドルトンの契約を引き取る代わりに1巡目指名権を得て、昨年のドラフトで1巡目23位指名された20歳のAJ・ジョンソンも獲得できた。ジョンソンはここまでバックスではインパクトを残せていないが、新天地ウィザーズでチャンスを得ればその素晴らしいアスリート能力を生かせるはずだ。