3つの大事な要素「ハイエナジー」「安定感」「プレイハード」
2月3日、日本バスケットボール協会(JBA)は女子代表の新ヘッドコーチに就任したコーリー・ゲインズの就任会見を行った。
2022年より男子日本代表のアソシエイトコーチを務めているゲインズのヘッドコーチ就任は、東野智弥技術委員長を含めた女子強化検討部会による選考によって一本化され、理事会で承認されるというプロセスを経て決定した。三屋裕子会長は「これからの4年間を託すということでお願いしました」と語り、任期は少なくとも2028年ロサンゼルス五輪までと見られる。
現役時代にNBAでプレー経験のあるゲインズは、男子日本代表のアソシエイトヘッドコーチ以前には、複数のNBAチームでアシスタントコーチを務めてきた。また、WNBAフェニックス・マーキュリーのヘッドコーチに加え、2016年にはリオ五輪に臨む女子代表のアドバイザリーコーチを務めるなど女子のコーチ経験も持ち、1998年には男子社会人リーグ(JBL)所属のジャパンエナジーでプレーするなど、日本バスケットボール界とも深い繋がりを持っている。
女子日本代表は東京五輪で史上初の銀メダル獲得という歴史に残る快挙を達成。しかし、当時は唯一無二だった5アウトから3ポイントシュートを積極的に放つスモールバスケットボールは、東京五輪後、多くのチームが採用する一般的な戦術となった。これにより優位性を失ったチームは恩塚亨前ヘッドコーチのもと、新たなスタイルで金メダル獲得を目指したが、パリ五輪ではグループリーグ敗退と世界の厚い壁に跳ね返された。
ゲインズは、次の目標を掲げて女子代表の復権を目指していくと話した。「リスペクトを勝ち取る。トム・ホーバス(男子日本代表ヘッドコーチ)とも話しましたが、リスペクトされるチームは、何かを成し遂げる可能性があるチームだと思います。そして、日本女子代表のスタンダードを取り戻す。東京オリンピックと同じ位置にまで戻したいです。そのためには時間はかかりますが、JBAと一体となれば必ずできます」
そして、自身の目指すバスケットボールを遂行するため、選手たちに求める大切な要素として「ハイエナジー」「安定感」「プレイハード」を挙げる。また、ゲインズ体制で最初の主要大会となる7月からの『FIBA女子アジアカップ2025』に向けては、新戦力を試すことも示唆している。
「ここ数日、女子ユニバ日本代表チームの合宿を見て、若く可能性のある選手を見つけることができました。これからもいろいろな選手を見ていきたいです。アジアカップでは結果を求めることだけでなく、選手の育成も大切。若い選手たちも使っていきたいです」
「オーガナイズ(組織化)されたカオスを引き起こしたいです」
ゲインズのもと、新たなサイクルに入った女子代表だが、指揮官と三屋会長の発言を見る限り、基本コンセプトは恩塚体制から大きな変化はないと感じる。
まず、ゲインズは日本がやるべき戦いとして「オーガナイズ(組織化)されたカオスを引き起こしたい」と語った。「難しいことですが、ミスなく、ハイペースでプレーする。こうすることで、相手を自分たちのペースで気持ちよくプレーさせません」。この言葉通りであるならば、40分間走り勝つスタイルを掲げ、アップテンポな展開の中でカオスを制することを重要視した恩塚前ヘッドコーチの目指すスタイルと基本は同じだ。
また、恩塚コーチといえば、選手がワクワクした気持ちでプレーすることを大切にしていることで知られているが、三屋会長は「コーリーと話していてとても印象的だったのが、心から楽しんでバスケをするチームを作りたい。合宿に来ることが、ワクワクして楽しいというチームを目指したいと言ってくれていることです」と語った。
一方、大きな変化となるのが目標設定だ。女子代表は東京五輪、パリ五輪と、ともに金メダル獲得を掲げていたが、今回は具体的なゴールを設定しないという。その理由を三屋会長はこう明かす。「最初から『金メダル』と言うと、変な足枷になってしまいます。伸び伸びとした天真爛漫なチーム編成で、自分たちで『ここに行きたい』と目標を作る。結果として金メダルとなればいいです」
今回の就任会見に出席しなかった東野技術委員長が、パリ五輪後、女子代表の戦いぶりについて辛口評価を下したことは記憶に新しいが、恩塚体制が重視した『カオス』『ワクワク』という2大要素は、ゲインズ体制になっても引き続き女子代表の肝となるようだ。もちろんコンセプトは同じでも、それを実現させるための方法は千差万別。ゲインズらしい、どんな色を持ったチームが生まれるのか楽しみにしたい。
ゲインズへの期待が根底にあるとはいえ、最後に1つ言及せざるを得ないところがある。三屋会長は協会のトップではあるが、バスケットボールの競技に精通したスペシャリストではない。代表選考において大きな決定権を持つグループから代表者が出席し、ゲインズを新ヘッドコーチに選んだ詳細な理由をファンに向けて説明すべきではないだろうか。特にJBAはプロクラブのような営利企業ではなく、公共性を求められる公益財団法人。それゆえに求められる透明性と説明責任があるはずだ。