ウインターカップ開幕を10日後に控えた福岡第一を訪れると、井手口孝コーチは開口一番「全くダメですね(笑)」と自信なさげ。何年も取材をしてきているが「守れません、走れませんの福岡第一」という言葉はチームの『異常事態』を感じさせる。それでも最後の大会を前に大所帯の部員全員で練習することで一体感を高め、チームが持つポテンシャルを引き出してウインターカップに臨もうとしている。
「2番以内を何とか死守しようが実際の気持ちでした」
──いよいよ一年最後のウインターカップを迎えますが、チームの状態はいかがですか。
全くダメですね(笑)。
──11月4日の福岡県予選の大濠戦、これまで見てきた中でも井手口コーチに一番元気がなかったように見えました。
やっぱりね、疲れるんですよ。直前に八田滉仁がケガをして、全くチームが作れないまま迎えた県大会でした。だからチームができないまま試合をやっただけ。じたばたしようにも打つ手がない感じでした。これまでは弱くても噛み付くだけの準備をして試合に臨んでいたわけで、今回は「準備ができませんでした」という感じでした。
それと福岡県から2校ウインターカップに出場できて、どちらが勝ってもシードで。むしろ福岡舞鶴との準々決勝とか決勝リーグの八女学院には負けられない、「2番以内を何とか死守しよう」というのが実際の気持ちでした。
──今のチームには何が足りないと思われますか。
U18日清食品トップリーグの美濃加茂戦、大濠戦、開志国際戦なんかも、全部勝てそうな試合ではあったのですが勝ち切れない。ボールを奪って3対2の速攻になったところでボールが相手に行っている、信じられないようなミス、つまらないミスが勝負どころで出てしまう。そういう勝負弱さが払拭できません。
──例年、福岡第一はそういう勝負どころでの強さを武器にしてきました。今年は何が違うのでしょうか。
昨日の練習でも初歩的なことで選手に怒ったりしたのですが、「これぐらいやっていれば何とかなる」とか「先生の言うことを聞いていれば何とかなる」みたいな、体育館に来て動いていればそれで上手くなるみたいな錯覚がありますね。それは我々の追い込みも足りないし、彼ら自身の追い込みと言うか、練習の精度を上げる取り組みも足りません。
とはいえ、あんな感じでやってきてインターハイでは3位なんですよ。「全国で3番」は悪くない成績なんですよね。そこでトップリーグで開志国際に、大濠に、美濃加茂に負けた時に「相手も強いから負ける可能性はあるよね」みたいな感じの受け止め方をしてしまう。だからウインターカップに向けてこうやって取材に来てもらうのも、なんか申し訳ない気持ちで(笑)。
──とはいえウインターカップが始まれば福岡第一らしいバスケで躍進するんじゃないかとの期待もあります。ここからどうなるのが福岡第一にとっては理想の形ですか?
サー・シェッハがウインターカップにギリギリ間に合うかもしれないとなって、本人が「やる」と言い出しています。特にディフェンスの部分で、シー・ムサやサンバも悪くはないけど細かいところで分からないところがいっぱいあるので、去年の経験があるシェッハが戻ると良くなると思います。それが若干の明るい材料です。
──あとはチームの連動性を例年のレベルまで引き上げたいですね。
ケガが多くて練習の回数が少なかったこと、特に八田にケガが多かったことが影響していますね。でも今は八田もコンディションは悪くありません。
「守れません、走れませんの福岡第一になっている」
──先ほど話に出た「これぐらいやっていれば何とかなる」みたいなメンタリティは、チームビルディングが上手くいかないことで出てきたものでしょうか。
去年まで武藤海斗先生が私と生徒の間に入ってくれていました。選手と年齢が近いので、怒ることも一緒にバカなことを言うこともできて、非常に良い感じだったのですが、そこが埋まっていません。しかも今年はマネージャーがいない。途中で3年生の子がマネージャーをやると言ってくれたので2学期から入ったのですが、去年や一昨年のような先生やマネージャーのいろんなサポートがなくなって、そこで「自分たちでやらなきゃいけない」というところにまだたどり着けていない。それで昨日も3年生を怒ったんですけどね。
新チームが始まる時に、「今年は武藤先生がいないし、マネージャーもいないから、みんなで分担しなきゃいけない」と言ったはずだよ、と。それがいまだにできていないのがチームの現状です。加えてバスケ的にはケガが多くて、下級生がたくさん試合に出ているので、なかなかチームとして練れていないですね。その結果、「堅守速攻」とは言うけど、守れません、走れませんの福岡第一になっていると正直思います。
──なるほど。難しいところですね……。
でもみんなバスケは好きなんですよ。3年生のほとんどの子は不平不満を言うことなく練習をやっているし、この先もバスケを続けていこうと考えています。ただ、我々が乗せてあげないと乗れない、指示してあげないと動かないところがあります。今は部員が96人いて、練習をやっているのが90人ぐらい。ここ最近は分けないで一緒に練習することで一体感を高めようとしています。高校生だから難しいですが、最後のウインターカップに気持ち良く臨めるように。
──最近のバスケ人気の盛り上がりはすごくて、ウインターカップも28日と29日のチケットが早々に完売となりました。この盛り上がりをどう見ていますか。
バスケは新聞にも全く載らないようなマイナースポーツだったので、扱ってもらうだけでもありがたいですよね。だからテレビの取材も新聞の取材も絶対に断らないようにしているんですよ。私はバスケを教える以外のことはだらしない人だから(笑)、ウチの子供たちがしっかりしたことをやってくれていれば、バスケ界に貢献できると思っています。
──そのバスケ人気を引っ張っているのがOBの河村勇輝選手です。
河村に全部持っていかれちゃいましたね(笑)。まあでもすごいことですよ。河村はその辺を歩いているような人で、八村塁くんのように見るからに「バスケの人だな」って感じでもない。それが今あそこでやれているのは本当にすごいと思います。本当はパリに行くはずだったのですが、インターハイと重なって行けなかったので、アメリカ出張に行かないと(笑)。
──では最後に、ウインターカップに向けての意気込みを、あらためてお願いします。
やっぱり勝ちたい気持ちはね、誰よりも選手たちが一番、特に3年生は持っているので、何とか最終日まで残れるように頑張りたいです。相当頑張らないといけないですね(笑)。