大阪薫英女学院は今夏のインターハイで、安藤香織ヘッドコーチになってから最低成績となる2回戦敗退に終わった。リーダー不在のチームは思うように伸びずに苦しんだが、少しずつ薫英のスタイルを身に着け、ようやく形になってきた。「しんどかったし結果も出ていない」という1年の最後に、苦労した分だけ芯の強いチームとなった薫英は、ウインターカップで自分たちのバスケをやり通すチャレンジに挑む。
「置かれた立場で日本一になるために一生懸命にやる」
──まずは去年のウインターカップを振り返りたいと思います。準々決勝で東海大学付属福岡に逆転で敗れてのベスト8でした。そこからどんな1年を過ごしてきましたか?
双子(木本桃子と桜子)や島袋椛がいた去年の3年生が本当に素晴らしかったんですね。勉強や日常生活はちゃんとやって当たり前、その上でバスケで勝つためにどれだけやれるか。それでいて何でも楽しめる学年で、学校行事も楽しむし、U18日清食品トップリーグの遠征に行くにしても「うわ、飛行機!」、「どんだけ見とんねん!」みたいな感じだし、食事もキャーキャー言いながら楽しく食べるわけですよ。
私もバスケだけ教えていれば良かったので楽しかったんですね。バスケを教えるのは、システムがあって選手たちが自分で選択してプレーする感じだから、怒るというより「もっとこうしたら良いじゃん?」みたいな感じです。そうやって1年間楽しくやって、最後は東海大福岡に負けたのですが、やるべきことはやった試合でした。
相手に留学生という確実に点を取れるところがあって、小さく守られて外を決めなければいけない。そこで負けてしまったのは悔しかったんですけど、なんか清々しいというか。あの時は「もっと頑張っておけば」という気持ちがなかったんですね。だから、新チームも「そういうチームになろう」というところからスタートしました。
──ただ、チーム作りはそんなに簡単にはいきませんよね。
そうですね。今の3年生も2年生も素晴らしい上級生にくっついて来ただけの子らなので、何もない状態からのスタートでした。「積極的に、主体的に」をテーマにしたのですが、まず当たり前のことができない。あこがれていた先輩がやっていたことをなぞるのですが、チーム力も違うし、毎日の努力も違うから、失敗ばかりでした。新人近畿までは前の3年生がまだいてくれて、練習で「あれやん! これやん!」と指摘してくれたのですが、その新人近畿の時が卒業式で、そこからはまあ地獄の、です(笑)。
──先輩たちが卒業して、その偉大さにあらためて気付いて愕然とするわけですね。
そこで先輩たちと同じようにできないことに気付いて苦しんで。でも誰かがやらなきゃいけなくて、それは3年生だと私はいつも言うんです。3年生はカッコ良くないといかん。後輩のパスは死んでも取れ、絶対に守ってやれ。その上で後輩に負けるな、負けることもあるかもしれないけど、簡単に負けたらいかん、って。今の現状、3年生はそんなに試合に出てバリバリ活躍するわけではないですが、置かれた立場で日本一になるために一生懸命にやる、そのカッコいい3年生の姿を見せてほしくて、それができないことで怒られ続けて。
そこで薫英の伝統の4番を背負うリーダーを最初は高橋心愛に託したのですが、高橋も試合にたくさん出ているわけではなく、同級生に積極的に言うこともできずにかなり苦しんだと思います。そこで4月から幡出麗実に白羽の矢を立てました。
「本当に変わらないとウインターカップに行けないよ」
──2年生の選手にリーダーを任せたわけですね。どんな選手ですか?
1年生からずっとBチームなんですけど、Bチームに甘んじることなく頑張ってきた選手です。Aチームに上がれないとBチームに慣れてしまいがちですが、幡出は1年生の頃からずっと「絶対Aに上がりたい、上がりたい上がりたい!」というエナジーが出ている子です。身体が小さくて食べても食べても体重が増えない細い選手なのですが、その子が練習から一番エナジーを出す。そうやって練習で手を抜かない、試合で声が出せるのが幡出であり、もう一人が三輪美良々でした。幡出は近畿ブロック大会では5分、インターハイ出場を決めた大阪の決勝リーグでも3分とか4分しか出ていない選手で、力がある選手ではないです。でも、こういうスタイルじゃなければ勝つことはできないと私は思っています。
──夏のインターハイではベスト32で聖和学園に敗れました。
私が薫英に来てからベスト16にはずっと入っていたので、2回戦負けは初めてでした。でも、良い時も悪い時もあって、そこをどう乗り越えるかだと選手たちにはずっと言っています。インターハイで負けた時も怒るわけじゃなく、チームミーティングをやって「ここから本当に変わらないとウインターカップに行けないよ」と。
──今年は大阪からウインターカップが1枠しかありませんでした。
その話から始まって、みんなそれぞれの立場で日本一を目指してどれだけやれるか。そこで3年生の力がないとやっぱりダメだと高橋をリーダーの立場に戻しました。そこで幡出がケガで出れない時に、1年生の松本璃音が出てきて3ポイントシュートをバンバン決めて、国体でも大活躍して。それを間近で見ていた幡出が「やっぱり3ポイントシュートの確率をもっと上げないと、ポジションがなくなる」と言い出して。そこから練習が終わって体育館から音がすると思ったら幡出とか2年生がずっとシュートを打ってて。トップリーグも今回のウインターカップ予選でも、ゾーンを張られて苦しいところで幡出の3ポイントシュートで勝ってきています。
幡出がいっぱい失敗しながら成長するのとともにチームも成長してきた感じです。最初はぐちゃぐちゃでしたし、本当は最初からみんな率先してやってくれるのが理想でしたが、結果としてチームになってきています。三輪も今年は病気があって思うようにプレーできず、チームも苦しい中でインサイドで身体を張ってトップリーグで桜花学園に勝ったり。3年生もベンチから出ても嫌な空気は一切出さずにチームのためにやってくれるし、1年生は3年生がバックアップで控えている分、思い切ってやれています。負けた経験はいっぱいありましたが、三輪も帰って来て、ようやくウインターカップに向けて、という感じです。
──様々な苦労がありましたが、それでもウインターカップでの目標は日本一ですよね?
シードもないし、ウチに取材に来て大丈夫ですか、という感じですけど(笑)、そりゃあ目指すのは日本一ですよね。チャンスはあると思います。
今年、大阪人間科学大がリーグ戦で全勝優勝したんですよ。2位の武庫川女子大との試合は、前日にウインターカップ出場を決めた薫英の選手と全員で応援に行って、延長で勝ったんです。留学生のウェイドゼイ・フェイボー・オニニェに20点以上、20リバウンド以上を取られて、どうやっても負けゲームの展開で第4クォーター開始時点で15点負けていたところから、前からプレスを掛けて、島袋、熊谷(のどか)、双子と3ポイントシュートを次々と決めて大逆転。これが留学生のいるチームに勝つバスケだぞ、というのを見せてくれました。
「周りから応援されるチームになってきている」
──それは具体的にはどんなバスケですか?
強力なディフェンスと、迷わずに打つ3ポイントシュート、あとは魂!(笑) 大阪人間科学大の1年、つまり去年の薫英の3年生たちは、ベンチでも自分たちでいっぱいしゃべって解決しようとするんです。そんな理想の姿をベンチの真後ろから見せてもらって、みんな今は「これを自分たちができれば」と思っていると思います。
──では、ウインターカップではそんな姿を見せてくれることに注目ですね。
そうですね。これは上から目線と受け止めてほしくないんですけど、最近ちょっと一目置かれている感じがするんですよ。留学生がいないチームでファンダメンタルを大事にしながら、雰囲気良く楽しみながらガッツ溢れるスタイルでバスケをやっていることに。そう言ってもらえることで「周りから応援されるチームになってきている」と感じます。
そしてウチは「中から応援されるチーム」でもあって、保護者で応援に来てくれる人もすごく多いです。試合に出ていない3年生の親もいっぱい来てくれて、勝つと涙を流して喜んでくれます。国体にも多くの保護者が来てくれました。もしかすると「ウチの子をもっと使え」と思ってるかもしれませんが、それを表に出すことなく応援してくれています。ユニフォームも着ていない3年生の保護者が応援に来てくれるのが、私は本当にうれしいです。
──それってすごいことですね。
正直、3年生は試合にあまり出ていません。それでも日本一を目指す以上は勝ちに近いメンバーが選ばれることを理解して、スカウティングとかオフィシャルを本当によくやってくれています。スカウティングは例年に比べてすごく細かいです。3年生が相手チームの一人ひとりまで分析して出してくれます。ちょっとずつですが、カッコいい3年生になってきているんですよ。試合に使われないのに(大阪人間科学大に上がって)あと4年間先生のところでやりたい、と言う子もいます。勝つためにやっているのはもちろんですが、それ以上に『人として』を大事にしていることを選手たちが理解してくれるのが本当にうれしいです。
しんどかったし結果も出ていないけど、楽しいことはいっぱいあります。春にはお花見をして夏はプールに行ってスイカ割りもしたし、この間はハロウィンでお菓子パーティーです。練習の時間はもちろん頑張る、学校生活もしっかりやる。そこは去年からの流れですね。
今年のウインターカップはチャレンジが絶対的なテーマです。1回戦からベンチ入りしている15名はもちろん、応援席も保護者もそれこそ三位一体となって日本一を目指して頑張るので、その姿を見ていただければと思います。力がなくてもこんなバスケができる、というのを見せたいので、あと1カ月しっかり準備して表現します。