10アシストを記録も「先輩たちが決めてくれたおかげ」
大阪エヴェッサは水曜ナイトゲームのライジングゼファーフクオカ戦に勝利し、今シーズンの勝利数を21へと伸ばしてB1残留を確定させた。ただ、試合に勝った後も選手たちの表情に喜びは見られなかった。B1ライセンスが交付されなかった福岡の現状を目の当たりにして、喜ぶ気分にはなれなかったのが一つ。試合前には福岡を代表して山下泰弘と小林大祐が、「ゲームの準備が不十分で、これは大阪さんに失礼」とロッカールームに謝罪に来たという。異様な雰囲気に包まれたアリーナで大坂の選手たちもやりづらい試合となった。
そしてもう一つ、もともとの目標は残留ではなかった、ということがある。チャンピオンシップ進出はノルマであり、そこからどこまで勝ち上がれるかが問われたはずのシーズンだが、チームの調子は上がらずに勝率5割が遠い日々が続き、最終的には残留争いに巻き込まれた。『成功のシーズン』とはとても言えない出来で、2016年からGMを務めてきた清水良規が実質的な解任となっている。
外国籍選手を含むベテラン選手にケガが多発して主軸としての働きを全うできず、若手も起用法が定まらずに浮き沈みを繰り返すことになったシーズンの終盤になって、目立った活躍を見せているのが長野誠史だ。東海大学九州から大阪に加入した長野は、なかなかプレータイムが伸びず苦しいルーキーイヤーを過ごしたが、シーズン終盤になって成長の証を示している。
「最初の方は身体がガチガチで余裕もなく、結構ミスも多かったです」とシーズン序盤を振り返るが、ここ6試合連続でスタメン起用され、うち4試合で2桁得点を記録。福岡戦ではキャリア初の2桁アシスト、得点とアシストでのダブル・ダブルを記録した。それでも長野は「先輩たちが決めてくれたおかげです。そのおかげで僕にアシストが付くので、まず先輩たちに感謝しないと思います」とはにかむ。
指揮官も称賛「ワークアウトが試合で生きている」
身も蓋もない言い方をすれば、長野にプレータイムが回ってきたのは合田怜のケガを始めチーム事情によるところが大きい。だが、何度もあるものではないチャンスを、長野は今回モノにしている。「回数を重ねていることもあると思いますが、先輩たちに『もっと思い切り良く行け』とか、いろいろアドバイスしてもらったことが大きいと思います。アシストも狙ったわけではなく、ディフェンスの動きを見てノーマークの選手にパスを出した結果、決めてもらいました」
どうやっても先輩を立てて、自分の手柄にはしたくないようだが、穂坂健祐ヘッドコーチも長野の頑張りを認めている。「僕がやろうとするピック&ロール、ボールスクリーンをたくさん使って、そこでクリエイトして他を生かすプレーをずっと学んでいます。これまで彼自身が大村(将基)コーチと取り組んでいるワークアウトが試合で生きていて、それで結果的にコーチ陣の信頼を得ました。ピックの使い方、スピードのコントロール、パスの精度が良い。正直、すごくうまいです」と、穂坂ヘッドコーチは称賛を惜しまない。
日本代表でも指導するスキルディベロップメントコーチとの二人三脚。「プロに入って一番大きく変わったのがそこで、大学の時には見えなかったところ、教えてもらわなかったことを将基さんに教えてもらっています」と、ワークアウトが自身のレベルアップに繋がっていることを長野も認める。
スキルを学ぶことはできても、試合で結果を出すのはまた別かと思いきや、長野に言わせればそれもまた大村コーチに感謝するべきところ。「試合のことをイメージして、相手がやってくるプレーを将基さんが見てワークアウトでアジャストしてくれます。それを試合でもしっかりやることで、ズレを作って空いている選手にパスを出すところが見えてきます」
謙虚な23歳は「信頼されるプレーヤーになりたい」
試合後のケアをしながら取材に対応する長野に、ロッカールームを出て行く先輩たちが次々と声をかけていく。最年長の木下博之が最年少の長野にちょっかいを出す。チームはまとまっており、長野がかわいがられているのがよく分かる。「ホント、先輩たちに感謝です」と長野は言う。
ただ、若手とはいえプロ選手であり、いつまでもルーキー気分ではいられない。スタメンで出て結果を残し始めた今、次のステップとしてチームを勝たせることに意識が向いている。
「シーズンを通して第1クォーターと第3クォーターの出だしがとても悪くて、そこで結構やられたという印象が強いです。そこを修正できれば勝ち星はもっと増えると思います。自分はチームメートやコーチに信頼されるプレーヤーになりたいし、チームを引っ張る選手になりたいです。先輩たちは思い切りやってこい、後ろには自分らがいるぞ、って言ってくれるので、そういう意味では引っ張っていけていると思います。これからもっと成長できるよう頑張りたいです」
年上の選手たちがちょっかいを出してくるのもリスペクトの一環であり、その成長ぶりを頼もしく思っているからこその行為だろう。穂坂ヘッドコーチも長野の活躍をこう喜んでいる。「日本人選手の成長はBリーグの発展に重要で、こういう選手が出てきたことはチームとしてもすごくプラスです」
当の長野は「環境としては最高なので、1年目で入ることができて良かった」と笑みを見せる。成長を求める意欲とスキル、環境が噛み合い、まさに今が伸び盛りといった感じ。1試合1試合が貴重な経験となっているからこそ、チャンピオンシップの舞台にも立ちたかったところだが、それは来シーズンの課題。レギュラーシーズンの残る4試合で長野はどこまで伸びるだろうか。
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