ジェームズ・ハーデン

ロケッツ時代のような『ハーデンの王国』が突然の復活

クリッパーズは開幕前夜にカワイ・レナードの戦線離脱を発表した。以前より抱えている右膝の炎症によるもので「数週間で復帰」とされているが、こういったケガがずっと長引くのがこれまでカワイに起きてきたことで、実質は『無期限の戦線離脱』と考えるべきだろう。ポール・ジョージが退団して、エースのカワイ・レナードの負担が今まで以上に重くなるシーズンに、そのカワイがいなくなるのでは、クリッパーズに期待はできない。

そう思われて迎えた開幕から3試合、サンズとの開幕戦はオーバータイムの末に敗れたものの、敵地でのナゲッツ戦とウォリアーズ戦では接戦を制して連勝した。強豪相手に上々のパフォーマンスを見せ続け、2試合で勝ち切ったことは、チームの士気を高めるのに十分だ。カワイの復帰はいまだ見えないが、ここからは新アリーナのインテュイット・ドームでの5連戦で、このままチームが浮上する雰囲気にある。

ナゲッツ戦では、勝負どころの第4クォーターにニコラ・ヨキッチとジャマール・マレーがイージーなミスを繰り返したのとは対照的に、ノーマン・パウエルが9本中8本のシュートを決めて22得点を稼ぎ出し、クラッチタイムの勝負強さに定評のあるチームに逆転勝ちを収めた。ウォリアーズ戦では1点リードの残り3分半から12-3のランで競り勝った。イビチャ・ズバッツは23得点18リバウンドと攻守に素晴らしい活躍を見せた。「まだ3試合だけど、安定感のあるプレーができていると思う」とズバッツは言う。「できる限りこの調子を続けて、チームメートから見て頼りになる存在でありたい」

そしてジェームズ・ハーデンは、カワイもジョージもいないクリッパーズを牽引するという役割を見事にこなしている。まだ3試合だけだが、平均39分のプレーで26.0得点、12.0アシスト、9.0リバウンドはオールスター返り咲きに値する素晴らしいスタッツだ。司令塔として攻撃を組み立て、ペイントエリアを攻めることでズレを作り出してパスをさばいたり、自分でフィニッシュまで持っていったり。攻撃の全権を託されて思いのままにプレーすることで、リーグ屈指のオフェンスの才能がフル回転で発揮されている。

「自分の得意なプレーで勝負できるのは楽しい。ホームでのサンズ戦は勝たなきゃいけない試合だったし、勝てる試合でもあったから負けたのは悔しいけど、もう取り返すことはできない。気持ちを切り替えて、自分が本来やるべきゲームメークであったりリーダーシップを発揮する方に集中しようとしたんだ。そのすべては僕が得意とするところだよ」とハーデンは言う。

振り返れば、ロケッツは『ハーデンの王国』だった。そのチームがサイクルを終えた後、ハーデンはキャリア初の優勝を実現するためにネッツでケビン・デュラントとカイリー・アービングと組み、セブンティシクサーズではジョエル・エンビードと組んだが、誰かと組むことでハーデンは持ち味を出し切れず、チームも機能しなかった。

クリッパーズでの2年目、ジョージの退団とカワイの離脱で彼と組むスター選手が不在となり、『ハーデンの王国』が突如として復活した。ズバッツにパウエル、デリック・ジョーンズJr.にテレンス・マン、ベンチにはニコラス・バトゥームにクリス・ダン、ケビン・ポーターJr.と『王国』を支えるサポートキャストは質も量も豊富だ。このチームで自分のオフェンス能力を思う存分に発揮できることは、ハーデンにとって喜び以外の何物でもない。

35歳になったハーデンは、全盛期に味わっていた『プレーする喜び』を取り戻している。「30得点する試合もあれば、15点の試合もあるだろうけど、このチームを率いて必要なことをやるだけだ」とハーデンは語る。「結局のところ、僕が目指すのは試合に勝つことだけ。だからこの仲間たちと一緒に勝利を求めて戦うことにただただ幸せを感じている。まだたったの3試合だけど、このやり方は好きだよ」