「チームの得点が伸びていないのは、ガードに責任があります」
川崎ブレイブサンダースは10月23日の水曜ナイトゲームでサンロッカーズ渋谷と対戦した。試合序盤からレイアップを決め切れずにターンオーバーを重ねるなど、オフェンスでリズムに乗れず、SR渋谷のフィジカルな激しいディフェンスに最後まで苦しんだ結果、今シーズン最少得点の54-69で敗れた。
今シーズンの川崎はネノの愛称で知られるロネン・ギンズブルグ新ヘッドコーチの下、しっかりとしたディフェンスから積極的にトランジションを仕掛け、攻撃回数を増やしていくアップテンポなバスケットボールを指向している。だが、このSR渋谷戦では完全にゲームテンポをコントロールされ、走る展開に全く持ち込めず、攻守ともに不発に終わった。しかし、プラス材料が少ない中、爪痕を残した1人が小針幸也で、前半だけで7得点と奮闘した。
「チームとしてのディフェンスなど、ネノHCから言われたことに対しての遂行力が低かったと思います」と小針は試合を総括。さらに川崎の特徴であるスピードに乗ったオフェンスを仕掛けることができなかった背景について言及した。「相手のディフェンスがフィジカルだったこともありますが、まずは良いディフェンスで終われなかったことが多かったです。そこがトランジションをうまく出せなかった原因だと思います」
そして、自身のプレーについても「チームの得点が伸びていないのは、ガードに責任があります」と強調。「プルアップシュート、3ポイントシュートは入りましたが、ガードとして点を取るというより、僕だったらスピードを生かして良い流れを作るべきでした。そこをうまくできなかったのは反省するところだったと思いました」
チームが黒星先行と苦しい状況にあり、当然のように現状に手応えを感じることは少ないだろう。ただ、小針個人でいえば、1年前と比べポジティブな意味で状況は大きく変わっている。神奈川県出身の小針は今オフ、長崎ヴェルカから今シーズン終了までの期限付き移籍で加入。長崎での小針はシーズン後半戦に入って先発17試合出場など大きくプレータイムを増やしていたが、前半戦は試合に出たり、出なかったりの状況が続いていた。それだけに、ここまで開幕からしっかりとローテーション入りし、安定した出場機会を得られていることは大きなステップアップだ。
「昨年のこの時点では、まず試合に出場することを頑張っていました。どうしたら試合に出られるのかを考えていて、出られないと落ち込んでいました。それが今は試合に出たことで得られる課題がたくさんあります。そこはポジティブ過ぎる部分です。去年と課題の中身が違っているのは、成長できている部分だと思います」
実業団からプロへ「決断が間違っていなかったと毎日思っています」
小針の持ち味は抜群の加速力を備えたスピードだ。「去年、残り30試合くらいから長崎でスターターとして出る場面が多くて、自分のスピードが通用するのは分かっていました」と本人も語るように、持ち味を生かしたドライブはB1でもしっかりと通用している。だが、それだけではいけないことも理解している。「ただ速いだけの選手はいくらでもいると思うので、どう緩急をつけるのか。どういう風にオフェンスのペースを上げたり、下げるのか。一番手のポイントガードに篠山(竜青)選手という良いお手本がいるので今、見て学んでいるところです」
また、今の小針は、ドライブでゴール下へと切れ込んだ後の判断力の向上を大きなテーマの1つとしている。「ネノさんから求められているのはスピードで中に切っていくこと。そしてディフェンスが自分に寄ってきたらキックアウトして、外にいる味方にシュートを打たせることです。でも、空いていると思って自分で行ってブロックされている場面が毎試合何回かあるので、そこを行くべきか、パスを出すところかを学んでいます」
実際、この試合でもドライブからレイアップに行ったが、SR渋谷のジョシュ・ホーキンソンにブロックされた場面があった。小針はこう振り返る。「あのシュートが入ったとしても、タフなショットでした。どれだけ確率の高いシュートを打てるのかが大切で、あの場面は結果論ですけど、ロスコ(アレン)選手にパスを出した方がよかったです。そういうところを学んでいきたいです」
ここまで7試合を終えた時点で平均17分出場し、5.9得点、1.9アシスト、フィールドゴール成功率53.1%を記録。小針が十分にB1でプレーできることはこのスタッツも示している。ただ、現在25歳の彼は大学卒業後、すぐにBリーグ入りするのではなく実業団の名門、JR東日本秋田での1年間のプレーを経て、プロバスケの世界に飛び込んだB1の選手として珍しい経歴の持ち主だ。実業団の安定した環境を捨てることは簡単な決断ではなかったが、今の彼は「(プロ挑戦の)決断が間違っていなかったと毎日思っています」と笑顔を見せる。そして、「JR秋田はすごく良いチームで毎日、プロと同じ環境で練習ができていました。秋田で実業団の日本一になってプロと練習試合をして『できるな』という感覚があり、タイミングよく長崎に行くことができました。他の実業団ではなく、秋田に行ったことが今に繋がっていると思います」と古巣への感謝も常に持ち続けている。
実業団からBリーグの世界へ、そして試合に出ることに苦労していた時を経て、地元のB1チームでローテーション入り。トントン拍子ではないかもしれないが、小針はここまで着実なステップアップを遂げ、さらなる飛躍の大きなチャンスを迎えている。そして川崎の巻き返しには、日本人ガードで一番の打開力を持った小針の成長が欠かせない。