「もっと日本人選手たちがやりたいことをやっていいのかな」

島根スサノオマジックの安藤誓哉は昨シーズン、自己ベストとなる平均20.4得点を記録とリーグ随一の支配力を備えたエリートガードとして活躍。しかし、チームは32勝28敗でチャンピオンシップ出場を逃した。そんな中、今オフに入ってチームは安藤との2大エースだったペリン・ビュフォードが退団と、大きな変革期を迎えている。

この取材を行う前日、島根は天皇杯2次ラウンドで宇都宮ブレックスに敗れた。「天皇杯は僕のキャリアとしても全然勝てていなくて、負けたことはもちろん悔しいです」と語る安藤だが、同時に手応えも得た。「今シーズン、最後に勝つための長い道のりのスタートとして見ると、今回の天皇杯での3試合は良い戦いができたと思います」

この3試合での学びを安藤は、具体的にはこう見ている。「いろいろなラインナップがある中、どういう時はしっかり守れてフィジカルに行けるなど、伸ばしていきたい部分を見つけることができました。また、どういう時にボールの回し方が悪くなって流れが止まってしまうのかも見えた。本当にたくさん学ぶことができました」

大黒柱であるビュフォードの移籍は大きな衝撃を与えたが、エースとして安藤自身の立ち位置に変化はない。そして「僕は自分のやるべきことをプレーしている感覚です。ただ、やっぱり見え方は変わると思います」と表現した。

『見え方が変わる』と言ったのはコティ・クラーク、ジェームズ・マイケル・マカドゥ、ニック・ケイという新戦力が加わることで、日本人選手も含め、よりチーム全員がボールに絡むオフェンスが展開できると感じているからだ。「コティ、ニック(ケイ)、マック(ジェームズ・マイケル・マカドゥ)と、あまり分けたくはないですけど、外国籍や帰化枠の選手たちはみんなボールを預けることができます。そして周りの動きにアジャストしてくれるハイレベルな選手たちなので、もっと日本人選手たちがやりたいことをやっていいのかなと。試合毎にホットな選手が最後に行けばいいですし、最後の場面を任せられる選手たちが揃っています」

オプションが増え、より多彩なチームプレーができることは、安藤にもポシティブな影響をもたらす。「臨機応変であり、言い方を変えればより自由に、もっと自分の感覚を出していける。そういう風にプレーしたいですし、その方が相手も守りづらいのかと思います」

安藤誓哉

「どんなに調子が悪くても、悪いなりにその時のベストを尽くすしかない」

安藤が島根に加入した2021-22シーズンに島根はチャンピオンシップ・セミファイナル進出と大きな躍進を遂げた。しかし、翌年はクォーターファイナル敗退、さらに昨季は故障者などいろいろな要因があるにせよCS進出を逃し、右肩下がりになっている。安藤、ビュフォードの2大エース体制は破壊力抜群だが、良くも悪くも過去3年の島根は基本スタイルが変わらずにいた。継続による熟成も期待できたが、それが停滞となっていたことは結果が示している。安藤も「正直、結果よりも停滞感がありました。停滞だったらまだいい方かなと思いますし、それがしっかり順位に現れてしまいました」と語った。

この消化不良な思いがあっても、彼は島根への残留を決断した。そこにあるのは、島根への愛着であり忠誠心だ。「島根に来た時の皆さんが歓迎してくれた気持ちがすごくうれしかった。すごく良いエネルギーを持って呼んでもらえましたし、僕もそういう気持ちを持って来ました。この素晴らしい場所で引き続き自分の力を最大限に発揮したいと思いました」

安藤の加入後、島根はリーグ上位のチームへとステップアップを遂げた。島根のファンは彼をチームの顔として絶大な信頼、愛を注いでいる。「たまたま僕が来た時、ニックだったり、ポール(ヘナレヘッドコーチ)も加入して、チームが盛り上がっていきました。盛り上がった理由の1つが、僕なんかであればうれしいです」と謙遜する安藤だが、その期待に応えるため今シーズンも文字通り、すべてを捧げてコートに立ち続ける。

「ファンの皆さんのためにプレーするって口では簡単に言えますが、自分のやるべきは本当に信念を持って集中して良いプレー、エネルギッシュなプレーをすること。それが結果として、ファンの皆さんのためにプレーすることだと思います」

そして、安藤にとって譲れない信念とは、次のことを指す。「どんなに調子が悪くても、悪いなりにその時のベストを尽くすしかない。それができれば、試合後に後悔はないと思います。そこは常に自分に問いかけて、いつもベストを尽くしたと言えるようにしたいです。そのために日々の行動を大事にしていきたい。正直、そこは誰にも見られることがない自分との戦いですけど、しっかりとやり続けていきたいです」

今の島根は、さまざま選択肢の中で最適解を模索している試行錯誤の段階だ。それでも安藤は、「なんか良いチームになるかなと思います」と言う。この彼の感覚が正しいことを証明する戦いが、2日後には幕を開ける。