ブランドン・イングラム

契約延長はまとまらず、トレードも決まらないまま

ブランドン・イングラムは居場所を失いつつある。ザイオン・ウイリアムソンと並ぶエース格だったはずが、契約が残り1年となった今オフに延長交渉は進まず、イングラムが望む4年2億800万ドル(約320億円)のマックス契約、あるいはそれに近い契約を得る可能性は潰えた。

昨シーズンのザイオンが健康を保ってキャリアハイの70試合に出場し、デジャンテ・マレーの補強にも成功して、ペリカンズは優勝を争うチームへと飛躍するチャンスを迎えている。

本来であればここにイングラムも必要なはずだが、ザイオンとマレーに残り4年、CJ・マッカラムには残り2年の契約を抱えており、トロイ・マーフィー三世との契約延長も控えている状況で、ペリカンズはサラリーのバランスを無視できない。

プレーインの初戦でザイオンが離脱した後、チームをプレーオフへと導いたのはイングラムだった。そのプレーオフではサンダーに手も足も出ずスウィープ負けを喫したが、チームの地力も勢いも違うのだからイングラムを戦犯にするのは酷だろう。ただ、ペリカンズに必要なのは変化で、それはマレーの獲得だけではなくイングラムの放出もセットだと考えられている。

契約延長交渉がまとまらない以上、来年オフに何も見返りもなくフリーエージェントで出て行かれるよりはトレードをしたい。トレードをするならシーズン中ではなく今オフの間にやっておきたいところだが、それも成立しない。これは他のチームもイングラムを評価せず、特に彼が望むマックス契約には不釣り合いだと見ているからだ。

そんな状況で、ペリカンズの選手たちが自主的に集まる1週間のミニキャンプが行われたが、そこにイングラムは姿を見せなかった。ザイオンはジョーダンのイベントで中国に行ったためわずかな参加となったが、それでも顔を出した。欠席したのは加入が決まったばかりのダニエル・タイスとイングラムのみ。例年、ミニキャンプを主導してきたイングラムの不在は少なからずインパクトがあった。

イングラムが今の状況にストレスを感じているのは間違いない。それでも、おそらくは契約延長もトレードもないまま、彼は契約最終年をペリカンズでプレーし、そこで自分の価値を示してフリーエージェント市場に打って出る。

難しいのはイングラムが価値を示したところで、ペリカンズに彼の将来があるとは思えないことだ。マッカラムはベテランだが、マレーとイングラムは27歳でザイオンは24歳、他の主力も若く、このチームにあと数年継続性を持たせれば(ザイオンの健康が前提だが)大きな成果を残す可能性がある。ただ、そのためには何年かは選手年俸がファーストエプロンを超え、セカンドエプロンの手前にギリギリ収めるような舵取りと、ラグジュアリータックスを支払う財務的な負担が必要となる。

しかしペリカンズは贅沢税を一度も払ったことのないNBAでも数少ないチームの一つ。イングラムがそれを知らないはずもなく、そうなるとペリカンズのために犠牲を払う気持ちにはなれないのだろう。

そしてこれはペリカンズのフロントの問題でもある。選手は基本的に『NBAのビジネス』を理解するが、感情面のコントロールは簡単ではなく、そこにフロントは寄り添うべきだ。モチベーションはあくまでイングラム自身が高めていくものだが、今の状況ではそれは望めない。