牧隼利

「周りに頼るような中途半端な気持ちでは自分のステップアップにならない」

福岡大学附属大濠高校から筑波大学へ進み、プロキャリアでは琉球ゴールデンキングスで優勝も経験した。バスケのエリート街道を歩んできた牧隼利が新天地に選んだのは、藤田弘輝ヘッドコーチを新たに招聘し復権を目指す大阪エヴェッサ。移籍の経緯や新シーズンに向けての展望を聞いた。

――プロキャリア初の移籍となりました。どのようにオフは過ごされていましたか?

初めての移籍で、しかも地理的に沖縄からだったので大変でした。引越しでオフが終わってしまったなぁという感じです(笑)。

――今回、大阪エヴェッサ移籍の決め手は何でしたか?

クラブと藤田ヘッドコーチに声をかけていただいた時に、目指すバスケットに対してシンプルにワクワクしたのが決め手になりました。藤田ヘッドコーチからは「牧にはこういった役割を担ってほしい」と言われ、自分のイメージと近かったです。あとは大阪のメンバーは、これまで直接的な関わりがあったり、元々の知り合いだった選手が1人もいなかったので、逆に面白そうだと思ったのもあります。

――具体的にはどんなバスケを目指すという話でしたか?

藤田ヘッドコーチとは琉球で一緒にやらせてもらっていたのですが、その時のバスケットがベースになった上で、アーリーオフェンスを展開していくというものでした。その中で日本人が起点となってズレを作ってバスケットをしていくのは、僕がすごくやりたいバスケットのイメージと合致していたので、とてもワクワクしました。

――琉球ではハンドラーの役割が年々増えていましたが、それを大阪でも生かせる感じですか?

琉球はインサイドに圧倒的なストロングポイントがあったり、僕以外の日本人選手のところでも勝負できました。そんな中でも徐々にハンドラーを担わせてもらったのはすごく自分にとって大きな経験でしたが、大阪ではもっと自分がクリエイトしたり、もっと流れを作れるようなイメージが持てました。今シーズン、新たに加入する外国籍選手とアジア特別枠の選手もすごくスピーディーですし、1人が崩していくというより、全員で流れるようなバスケットをして崩していくというのがすごく面白そうでした。自分もその役割を担いたいと思いました。

――牧選手は身体能力を武器にするというより、ピックでズレを作っていくタイプで、大阪のシステムに合いそうですね。

そこが僕の強みですが、逆に身体能力や1on1で得点する能力がないという弱みもあるので、そこを理解した上で藤田ヘッドコーチの新しいバスケットにもアジャストしていけたらと思います。藤田ヘッドコーチと琉球でやらせてもらっていた時は、自分の実力不足もあり、ハンドラーとは違った役割でしたので、その時よりも成長した姿を見せられたらいいなという気持ちがあります。

――藤田ヘッドコーチとの共闘を楽しみにしているのがよく分かりました。久しぶりに一緒のチームになり、あらためてどんな印象ですか?

変わらずに「熱いな」と感じました。最初に会った時はプロ1年目だったので、本当に一生懸命頑張ることぐらいしかできなかったです。そこから自分がやってきたバスケットを考えても、藤田ヘッドコーチが描いているバスケット像やバスケット感が素敵で、面白そうだなと思わせてくれるヘッドコーチです。しっかり原理原則を持った中でも、選手としての幅というか余白を持たせてくれて信じてくれるような印象があります。

――移籍したことで、今まで以上にキャプテンシーを持っていこうという感覚はありますか?

大阪に来たいと思ったもう一つの決め手でもありますが、元々いる合田怜選手や木下誠選手、橋本拓哉選手と一緒にやれたら面白いなというイメージが湧いたこともあります。それぞれの強さというかリーダーシップを来てみて感じますし、そこは「自分が自分が」というよりは上手く溶け込みながらやっていけたらと思います。でも周りに頼るような中途半端な気持ちでは僕のステップアップにもならないので、しっかりと覚悟を持って大阪に来ました。

――チームに合流して1カ月以上経ちますが、チームの雰囲気や大阪での生活はどうでしょうか?

大阪という土地も大阪の方と絡む機会もこれまでなかったので新鮮です。みんな面白くて明るくて陽気だし、そんな雰囲気も楽しみながらやれています。あと大阪はめちゃくちゃ都会ですね(笑)。僕は大都市での生活が今までなかったので、街が生き生きしていることに楽しさを感じますし、スポーツが盛んというのも感じました。野球やサッカーやバレーボールもあったりする中で、バスケットで大阪を盛り上げられてたら、面白い未来があるんじゃないかと思いました。

牧隼利

「今は琉球戦を意識しないようにしています」

――環境は変わりますが、個人として考えている目標はありますか?

やはり勝利することが第一です。そんなに甘くないということも分かっていますし、やってみないと分からないという点もありますけど、チャンピオンシップに行く気持ちでもちろんいます。僕は本当にありがたいことに高校から大学、プロと常に優勝を狙う環境に居させてもらいましたが、今までそういうチームでやっていた気持ちを変えずに今年も同じ気合いで取り組んでいきます。

――新天地だからこそ、伸ばしていきたいところやチャレンジしたいことはありますか?

今まで以上にボールを持ちたいとか、得点を伸ばしたいとか、アシストを伸ばしたいとか個人的なことは正直一切ありません。藤田ヘッドコーチの思い描くアーリーバスケットで流れるようなオフェンスの起点となれるように、流れが速い展開の中でも作り出せるような選手になりたいと思っています。自分たちのコート上のラインナップもそうですし、相手のマッチアップに合わせたり、状況を考えて1から3番までプレーできることが自分の強みになると思います。

――ディフェンス面ではどうでしょうか?

例えば、僕と木下選手でガードを担うような時間帯はサイズが必然的にアップしてフィジカル的な優位性も持たせられる可能性があります。サイズがある上で、どれだけ前から激しく行けるかというのが鍵だと思いますし、強みにできます。

――11月には大阪ホームで琉球戦、1月には沖縄アリーナでの試合があります。古巣との対決は楽しみですか?

今は意識しないようにしていますが、試合前になれば多少なりとも力みは入るだろうなと思います(笑)。それはそれで楽しみながらできればと考えています。言葉に出すだけで意識してしまうことはわかっているので、先のことまで考えすぎずに今に集中するということを大事にしています。

――食事、体調管理や家計簿など日々の記録を細かくとっていると伺いました。

ただの自己満足です、本当に(笑)。それをやっているから偉いとか、すごいとかは全く考えていなくて。ただただ自分は小心者だっていうだけで細かいところを気にしてやっているというところなんですけど……。

――小心者というのは?

いろんな選手を見てきて、それぞれコンディションや調整の仕方、生活の仕方があるなと感じています。そんな中で僕はこれをしないと次に行けないとか、気持ち悪いみたいな感じで、気にし過ぎてしまうタイプだと思っています。その気にし過ぎな部分がこだわりとなって出ているというだけで、決してそれを見せびらかしたい訳でも、偉いと思っている訳でもないです。ただ、今は健康でありたいというのはあります。身体も心もあまり波を作りたくないというのがあって、それがあってのバスケットだとずっと思っているので、そういった生活の細かいところを気にするようにしています。

――セカンドキャリアに対する考えやオンラインサロンでファンとの接点を作るなど、コート以外での活動も積極的なイメージがあります。

プロアスリートとして見られる立場になった時に、そういう場はすごく大切だと思っています。バスケができるだけではなく人間的な魅力がある方が僕はかっこいいと思うので、そういう人間になりたいというだけですね。「選手である前に人として」というような教えを、親からも学生時代に言われてきたので意識しています。だから大阪に来て、また新たな文化や新たな仲間の感性に触れることができて、それも自分の人生にすごく良い刺激になっていると思います。

――最後に応援してくださっている方々へメッセージをお願いします。

新たな大阪のカルチャーを築いていくシーズンになると思います、まずは「大阪のバスケットってこうだよね」ということを体現できる選手になれればと。琉球やそれ以前から僕のことを応援してくれる方がいるというのを今回移籍を通じて余計に感じることができました。移籍したことで応援の声が減るのかなと思っていましたが、逆にたくさんのありがたい言葉をかけていただきましたので、しっかりと成長した姿を見せられるシーズンにしていきます。