「絶対コーチでなければという思いはない、チームがプラスな方向に行くことに貢献したいだけ」

昨シーズン終了をもって佐藤賢次は、5年間に渡って務めていた川崎ブレイブサンダースのヘッドコーチ職を退任。去就に注目が集まる中、新天地に選んだのはドイツブンデスリーガ1部、MHP RIESEN Ludwigsburgのアシスタントコーチだった。何故ドイツなのか、そして引き続き川崎に在籍したまま渡独する理由を聞いた。

――あらためて川崎のヘッドコーチを務めた5年間を振り返ると、今はどういう気持ちですか。細かいことを言ったらきりがないでしょうが、後悔はあるのか、やり切ったのかどういう思いですか。

当たり前ですけど、ああすればよかった、こうすればよかった、なんであの時あれをしなかったのかという反省はあります。ただ、全体として後悔はない、やり切ったと思います。その中で、自分が成長できる伸び代はまだまだあるという感じです。

――ヘッドコーチの5年間はずっと(昨シーズン終了後に引退した)ニック・ファジーカスを中心としたチームでした。もう少し脱ニックの戦術を取れば、といった後悔もなかったですか。

そうですね。ニックを中心にずっとチームを勝たせながら、若手も育てていくというチャレンジを続けていました。それをずっと考えていましたが、バランスを取るのが難しかったです。おそらく、思い切りがあればパチンと何か大きなことをやれたと思います。でも、勝利と育成、どちらでも結果を出すためのバランスを見つけようと頑張っていましたが、それではダメだったんだと思います。ただ、自分の選択に後悔はないです。

1番、思い切ってやれたのは1年目だったと思います。その後コロナ禍となり、いろいろなところに気を遣って『守り』に入ってしまいました。振り返った時、コロナもあって人と人とのコミュニケーションに1回壁ができた時、思い切った選択が取りづらくなったと感じました。そこでリスクを考え過ぎてしまったのかもしれないです。

――そもそも佐藤さんは、これからずっとコーチをやり続けたいのか。それともそこにこだわりがないのか、どちらでしょう。

形にこだわりはないです。コーチが自分の能力を最大限発揮できる場所なのであればやりますが、絶対コーチでなければいけない、という思いはないです。若い世代を育てたい、川崎からオリンピック選手を出したいみたいな思いはあります。そのために自分が現場で必要なら働きたいです。ただ、自分よりもっと優秀で現場に合っている人がいるならば、その人が働きやすい環境作りに関わりたい。チームがプラスな方向に行くことに貢献したいだけです。

「ここからどれだけ苦労しようが、どんと来い!!というメンタルです」

――今回のドイツ行きは1つの大きな区切りをつけた上での新しいステップなのか、それとも今までの22年間の延長なのか、どのように捉えていますか。

22年間の延長線上を歩む中で、一度これまでのモノをぶち壊していく感覚です。一度、作ったものを壊さないと、これまで築き上げてきたものの良さも見えなくなる。そういう考えはあります。

――これまでの佐藤さんのキャリアを見ると、まだ現役への思いがありながらもチーム事情を優先して引退し、すぐにアシスタントコーチになりました。また、ヘッドコーチ就任の時は、北(卓也現GM)さんが退任して佐藤さんしか後任はいないだろうという状況でした今回は自身で切り開いていくという感覚はありますか。

自分で考えて決めたからこそ、ワクワクが大きいです。人のせいにはできないですし、ここからどれだけ苦労しようがどんと来い!!というメンタルです。今まではこれをやって欲しい、と言われることの方が多かったです。今回は何をやりたいのか、自分探しを経ての決断で、ありがたいことにクラブにそれを受けいれてもらえました。

――44歳で人生初の海外生活となります。

緊張や不安より、楽しみな気持ちが上です。50歳、60歳になってからの初めての海外生活は心配になるかもしれないですが、まだ44、45歳ならこういう決断ができます。それに1つ年下にはまだ現役で、地元の新潟を再建しようとする人(五十嵐圭)、ブレックスの顔であり続ける人(田臥勇太)もいます。僕もチャレンジしていきたいですし、この機会を逃したら次はないという気持ちはあるので思いっきり楽しんでいきたいです。

――最後に川崎ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

ファミリーの皆さん、本当に長い間、佐藤賢次という人間を応援してくださりありがとうございました。特にヘッドコーチになってから良い時も悪い時も皆さんに支えられてやってこられたと心から思っています。今回、こういう形で一旦、チームを離れて海外に挑戦します。これまで選手が移籍すると必ず、どこに行ってもファミリーの一員であることは変わらないと言い続けてきました。僕のことも引き続き応援してもらえるとうれしいです。いろいろな経験をしてパワーアップして戻ってきたいと思っているので、楽しみにしていてください。

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