東藤なな子

「ディフェンスがアジャストしてきたらラッキー」

バスケットボール女子日本代表はニュージーランドとの国際強化試合2連戦を125-57、92-50でともに快勝した。東藤なな子は第1戦で5本の3ポイントシュートを成功させると、第2戦でも1本の3ポイントシュートに加え、2本のスティールを記録するなど、存在感を示した。

内定メンバー全員が五輪経験者だが、東京五輪での東藤はA代表入りが初めてで、さらに最年少だった。そのため、「困った時は先輩がいるし、自分のできることをひたすらという感じでした」と言うように、自分のことだけで精一杯だった。あれから3年が経ち、現在の東藤は激しい代表争いを勝ち抜いたことで、新たな感覚で代表活動に臨んでいるという。

「選考中は結果を出さなきゃいけないというプレッシャーの中でやっていて、オリンピックのメンバー入りという目標に対してやっていた部分がありました。今は金メダルを取りに行く一員として、ゲーム中に足りないモノや恩塚(亨)ヘッドコーチが言ったことをコートに出て表現しようと思ってプレーしています」

そして、この『金メダルを取りに行く一員』としての覚悟が積極性に繋がった。以前の東藤は最大の武器である切れ味鋭いドライブと、スタンダードとして求められる3ポイントシュートのバランスで最適解を見出せず、シュートを躊躇する部分もあった。だが、第1戦では少しでも自身が打てるタイミングがあれば積極的にシュートを放ち、16分半のプレータイムで9本もの3ポイントシュートを試投した。

東藤もこの試投数の急激な増加について「気持ちの部分はすごく大きいです」と言う。「(選考レースは)過酷な状況で、しんどい時期だったので、そこを乗り越えたのは自信になりましたし、安心もあると思います」

第2戦の3ポイントシュートは3本中1本の成功と試投数はそこまで多くなかったが、それは自身のシュートを警戒するディフェンスを冷静に観察した上での結果で、一つの成長とも取れる。東藤は言う。

「シュートが打てるチャンスを見つけて、迷わずに打っていきたいですが、逆にディフェンスがアジャストしてきたらラッキーだなって思います。この試合でもアジャストしてきたタイミングがあって、それで自分の強み(ドライブ)が出せると思えました。そういう経験は今までなかったです。3ポイントが選択肢として増え、3ポイントが無理でも自分の強みが出せるという、良い心の状態かなと思います」

東藤なな子

「出ている5人全員が同じ台本の上で自然にできている」

第2戦はオフボールでの動きも目を見張るものがあった。一瞬の隙を突いて相手の視界から消え、スペースに飛び込む。結果的にパスは来なかったが、この動きがハーフコートオフェンスの流動性を生む。東藤もオフボールムーブに関しては大事な役割の一つだととらえている。

「オンボールでの停滞が多い時はオフボールで崩していこうと思っていて、今日はそれができたました。合わせていく中でもう少しパスが回ってきたらいいなと思いますが、自分が動くことで他の人がノーマークになることもあるので、オフボールムーブはこれからも大事にしていきたいです」

そして、こうしたオフボールムーブを含め、連携の高まりを実感している。「この人はこのタイミングで1対1に行きたいだろうなとか、ここでスクリーンをかけてくれる、ここでスクリーンをもらいたいだろうみたいなのは、やっていく中で無意識にできていると思います。出ている5人全員が同じ台本の上で自然にできているというのは、恩塚さんの戦術の理解をより深めたこともあると思います」

恩塚ヘッドコーチは第1戦を終えた後の会見で「彼女はボールプレッシャーのところやギャップディフェンスも本当に素晴らしいです。危ないところを探してくれるし、そういうところでチームを助けてくれている」と評価した。

内定メンバーを勝ち取った安心感が東藤に積極性をもたらし、その積極性が自身を新たな境地へと向かわせた。パリ五輪まであとわずかという状況で、東藤の進化が止まらない。