「いつも見てきた代表選手がシュートを打てと言ってくれるのが自信になります」
7月5日、バスケットボール男子日本代表は韓国代表との強化試合に84-85で敗れた。アジアの強国とはいえ、若手中心で準備不足の相手に敗れたのは八村塁、渡邊雄太の2枚看板が不在にしても大きな反省となる。だが、その中で数少ない明るい材料となったのが、20歳のジェイコブス晶の活躍だ。4番で出場したジェイコブスは、持ち味のオフェンス面で存在感を発揮。前半は4本全て失敗に終わった3ポイントシュートを、後半に限れば5本中3本成功と見事な活躍で追い上げの原動力となった。
現在のジェイコブスは、12名のメンバー入りへ当落線上にいる。その中でこの試合は23分19秒の出場と、主力メンバー以外では最も多くのプレータイムを与えられ、9得点7リバウンドを記録と大きなアピールに成功した。
北海道で行われたオーストラリア代表との強化試合2連戦で、ジェイコブスは2試合目に出場。9分20秒の出場で4リバウンドを挙げたが、3ポイントシュート2本を放ちともに失敗と、武器のオフェンス面で完全に沈黙してしまった。だからこそ、北海道遠征を終えた後でも選考レースに生き残れたことには驚きがあったと、今回の試合前に行われた公開練習で率直な気持ちを明かしていた。「正直、終わったと思っていました。シュートを求められていたのにミスをして、ブロックされました。僕の役目は試合で1本か2本しか打てない中ででも決めることですが、そのチャンスで外したのはコーチも見ています」
だが、トム・ホーバスヘッドコーチは「晶はシュートが入らなかったけど、悪くなかった」とオーストラリア戦でのジェイコブスについて語ったように、今回チャンスを与えた。ゴール下のドライブでも得点を積み重ねていけるジェイコブスだが、今の代表においては「インサイドに行ける場面もありますが、3ポイントシュートを打てるのなら、打ってほしいとトムさんから言われています」と、何よりも長距離砲を求められている。この試合ではその期待にしっかりと応えた。
ジェイコブスは前半、シュートが入らなくとも積極性だけは失わないことを意識したと振り返る。「前半、(シュートを)決められなかったですが、ずっと言っているように自分の役目は知っています。打つのをやめてしまうと余計、悪いアピールになってしまいます」
また、「自分の力は信じていますが、周りのチームメートも信じてくれている。いつも見てきた代表選手がボールを回してくれて、シュートを打てといってくれるのが自信になります」と、仲間の支えもあって、外れても狙い続ける強いメンタルを維持できていると続けた。
「打たないと決まらないので、打ち続けられているのは良いことです」
そして先日、イベントで来日していたかつてのNBA名シューター、レイ・アレンが代表を表敬訪問した際に授けられたアドバイスが、シューティングタッチを取り戻す一つのきっかけになったと明かした。「レイ・アレンが来て、『スポットでのシューティング練習をやらない。試合中は走りながら、シュートを打つもの』と言われました。それもあって、コンディショニングを高めながらシューティングを行う練習も取り入れています」
この日のジェイコブスのパフォーマンスにはホーバスヘッドコーチも「今日、前半はシュートを決められず、ディフェンスがちょっと足りなかったです。でも後半は、自信を持って気分良くプレーしていたと思いました。」と評価した。
今回、3本のシュート成功は大きなアピールとなったが、それと同じくらい9本の試投数も大きな意味を持つ。ジェイコブスは「打たないと決まらないので、打ち続けられているのは良いことです」と手応えを語る。そして、現状に満足することなく「前の試合よりも良かったですが、まだ足りないです。一つステップアップできたので、次の段階に行きたいと思います」と上を見続けている。
まだ20歳のジェイコブスには若さ故の脆さ、不安定さがあるのは否めないが、このマイナス面を補って余りある伸び代を持っている。指揮官も「練習中から良くなってきた」と合宿中にも進歩をしていると語る。伸び盛りのダイヤの原石が、このまま勢いに乗ってパリ五輪への切符をつかむのか。7日の試合でのプレーがより楽しみになってきた。