トーリアン・プリンス

ベテラン最低保証額しか出せないバックスに最適な補強

レブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスを中心とするレイカーズでは、今オフにディアンジェロ・ラッセルがプレーヤーオプションを行使して残留を決め、主力の大半が昨シーズンから引き続きチームに残る。それでも主力で唯一、トーリアン・プリンスが移籍を決めた。行き先はバックスだ。

昨年オフ、フリーエージェントとなったプリンスは1年450万ドル(約6億8000万円)の契約でレイカーズにやって来た。彼がNBAで最初の3シーズンを過ごしたホークスではダービン・ハムがアシスタントコーチを務めており、その関係がレイカーズで生きた。プリンスはキャリアを通してパワーフォワードとしてプレーしてきたが、198cm99kgと体格はそれほど大きくなく、ハードワークと粘り強さが持ち味。指揮官ハムは彼を主にスモールフォワードで起用し、先発49試合出場と重用した。

平均27分の出場で8.9得点、2.9リバウンドは物足りない数字だが、スタッツに残らない攻守のハードワークでレイカーズを支えていた。レイカーズでプレーする重圧も、スモールフォワードへのコンバートも、八村塁とどちらが先発するか分からない不確実さも、決して簡単ではなかったはずだが堅実にこなしている。

30歳というキャリアの充実期、レイカーズにとって決して不要な戦力ではなかったはずだが、彼はバックスを選んだ。その決め手はコーチングスタッフだろう。レイカーズを解任されたハムはドック・リバース率いるバックスでのアシスタントコーチとなった。

多彩な能力を持つプリンスだが、コーチが信用してくれなければ『器用貧乏』となる。ホークスで3年を過ごした後、彼は2年2500万ドル(約38億円)の契約でネッツに移籍したが、ケニー・アトキンソンには重用されたものの指揮官がスティーブ・ナッシュに代わると出番を失い、キャバリアーズ、ティンバーウルブズと移籍を繰り返すも、なかなか自分の能力を信じてもらえなかった。

バックスはベテラン最低保証額の298万ドル(約4億5000万円)しか提示できなかったが、プリンスはそれを受け入れ、同じくベテラン最低保証額の契約を結んだデロン・ライトとともにバックスの新戦力となる。

バックスでのプリンスは、スモールフォワードとして先発することもできるし、パワーフォワードのヤニス・アデトクンボのバックアップも務められる。相手のエースをマークし、ペリメーターのジャンプシュートを防ぐのが彼の役割になるだろう。プリンスはウイングスパンを生かして広いエリアをカバーできる一方で、スピードで勝負してくる相手は苦手だが、そこはアデトクンボとブルックのリムプロテクションで止められる。攻めに転じれば打つ機会はそれほど多くなくても3ポイントシュート成功率は昨シーズンが39.6%、過去3シーズンでも38.6%と安定している。

昨シーズンにこの役割を務めたのはマリーク・ビーズリーで、得点力はあってもディフェンスとハードワークを押し出すタイプではなかった。77試合に先発し、3ポイントシュート成功率41.3%に11.3得点とスタッツは残したものの、チームにフィットしていなかった印象が残る。そのビーズリーとは対照的に、プリンスはスタッツでは目立たなくてもバックスを攻守に支えられる存在となるはずだ。

デロン・ライトも粘り強く攻守を支えるタイプの選手。ベテラン最低保証額しかオファーできないバックスにとっては、ほぼ理想的な補強となった。