文=大島和人 写真=B.LEAGUE

チルドレスの加入を機に、意外にもチームは『停滞』

BリーグではNBA経験プレーヤーの途中加入が相次いでいる。ただ、どんな実力者でもチームへ適応するまでには時間がかかる。

ジョシュ・チルドレスが三遠ネオフェニックスのコートに初めて登場したのは昨年11月23日の富山グラウジーズ戦。そこからちょうど3カ月が経過した。彼は2004年のNBAドラフトでホークスから全体6位の指名を受け、NBAで通算391試合というキャリアを持つ大物。203cmというサイズで跳躍力、スピードといったアスリート性が高く、インサイドへのドライブにすごみを持つ『スラッシャー』タイプだ。

三遠は12月に6連敗を喫するなど、彼の加入後に勝てない時期がしばらくあった。鈴木達也が「相手の順位などを見ても一概には言えない」と釘を刺すように、この時期に強豪相手のカードが続いたことは事実だ。とはいえ実力者の取り込みに苦しみ、開幕から快進撃を見せていたチームが停滞してしまったことも間違いない。

しかし、そんなチーム状況は徐々に好転しつつある。

22日の横浜ビー・コルセアーズ戦で、チルドレスは17得点17リバウンド5アシストの活躍を見せた。彼がすごみを見せたのはまずリバウンド。強さ以上に鋭さでボールをかっさらうのが持ち味で、跳躍力に加えて落下点に入る鋭さ、腕の『伸び』といった要素が際立った。チルドレスは22日の試合で2つのスティールも決めている。見ているとリバウンドも含めて縮んでいた腕がいきなりヒュッと伸びてくるようなイメージ。彼はリバウンド、守備でも『サプライズ』を見せられる選手だ。

ただ、三遠が横浜を相手に85-73で勝利して浮上した理由は、チルドレスの個人技ではなく、彼と周囲の連携が深まっているからだ。

藤田弘輝ヘッドコーチはこう説明する。「フローオフェンスと、個人を生かすプレーのバランスは難しい。まずチルドレスがフローオフェンスに馴染むというのをテーマにやってきて、ようやく形になってきています」

「信頼関係ができ、すごく良いオフェンスになっている」

チルドレスの加入によって、三遠ならではの流れるような攻撃、ボールの動きは一時的に損なわれていた。三遠は田渡修人を筆頭に、外角のシューター陣が充実している。ボールを滑らかに動かしてオープンな形を作ることで、そういった選手は生きる。しかし田渡はチルドレスの加入後に限ると、3ポイントシュートの成功率が20%前後まで落ちていた。田渡自身は「自分に迷ってしまった部分があって、メンタル的な部分」と成功率低下の原因を自分に置いていたが、単純にシュートの試投数も減っていた。

ただ、それも改善されつつある。横浜戦での田渡は3ポイントシュートを9本放って4本を成功させている。他のガード陣も同様で、流れるような攻めからオープンでシュートを放つ回数が増えてきた。

チルドレスはこう語る。「自分が得点するだけでなくシューターのためにクリエイトしてほしい、シューターをしっかり生かすプレーをしてほしいということは、チームへ参加する時に藤田ヘッドコーチから言われていた。それが上手く回るようになってきた」

田渡もこう言う。「彼がインサイドへ入ったところにヘルプに行くと、僕に出してくれる。そこの信頼関係ができていた。今はすごく良いオフェンスになっているし、連携もうまく取れている」

単にチルドレスがシューター陣を一方的に助けているということではない。田渡はこうも述べる。「僕がコーナーにいることで、僕のマーカーはヘルプに行きにくい」

田渡や鈴木達也、岡田慎吾の3ポイントシュートが入るようになれば、相手は当然そちらの警戒も強めねばならない。そうなると今度はインサイドがルーズになり、チルドレスの守備を切り裂くドライブ、カットインが生きる。お互いが信頼関係を持ち、相手の対応を見て2つの強みをスムーズに使い分けられるようになれば、そこに相乗効果も生まれてくる。

その部分については鈴木も「ジョシュが来てから結構時間が経って、コミュニケーションも取れている。やりたいこともお互いに分かってきた」と口にした。

藤田ヘッドコーチにチルドレスとチームの連携について問うたら、こういう答えが返ってきた。「どんなすごい選手でも、チームのシステム、カルチャーにアジャストするのは時間がかかる。どんどん良くなっていると思いますし、ウチのディフェンスのシステムを理解してきてくれている」

チルドレスはアメリカのカリフォルニア州にあるスタンフォード大の卒業生。元NBAプレーヤーであるだけでなく、世界的な名門校を出た高学歴選手でもある。田渡が「彼はすごく頭がいいので。チームの戦術をほぼ理解できている状態です」と説明するように、そんなクレバーさはバスケ、三遠のチームにも還元されている。

チルドレスというBリーグ屈指の『個』が三遠に馴染み、チームは良い化学変化を取り戻しつつある。そんなことを感じた横浜戦と、試合後のコメントだった。