文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

A東京の「負けるに値しないパフォーマンス」

アルバルク東京がホームに栃木ブレックスを迎えた。29勝7敗で並ぶ東地区の『頂上決戦』は、ラスト0.6秒にライアン・ロシターが劇的な3ポイントシュートを沈め、栃木が逆転で勝利を収めた。

だが会見に現れた両監督の発言は、どちらが勝者でどちらが敗者か分からなくなるような錯覚をおこさせるようなものだった。

「今シーズンで一番素晴らしい試合だったと思います」。そう語ったのは、逆転負けを喫したA東京の伊藤拓摩ヘッドコーチだ。「選手たちはすごく集中していましたし、疲れてる中でしっかりゲームプランをこなしたと思います。前回の富山戦から外国籍選手がいないということでプレータイムが伸びて、そこでレイアップが落ちたりと痛いところはありましたが、今シーズン一番チームらしい試合ができました」

一方、劇的な勝利を収めた栃木のヘッドコーチ、トーマス・ウィスマンはこう語る。「彼らはこの試合負けるに値しないパフォーマンスをしました。自分たちが1勝を得てうれしいですが、気分的には彼らから1勝を奪い取ったというか、盗んだような気持ちです」と、まるで自分たちが敗者のような言い分だった。

接戦の末のラスト17秒、菊池のフリースローがカギに

A東京は外国籍選手がディアンテ・ギャレットのみと高さに不安が残る布陣。しかも、相手はリーグナンバー1のリバウンド力を誇る栃木とあって、高さの不利は否めなかった。

それでも、「外国籍選手がいないから勝てないのではなくて、勝ちに行くという姿勢が練習中に見れた」と伊藤コーチが語ったように、前半のリバウンド数は栃木を相手に19-20と互角に持ち込んだ。高さの不利をなくしたA東京は、田中大貴の個人技やザック・バランスキーの連続3ポイントシュートなどで41-39と前半をリードして終えた。

それでも後半に入ると、徐々に栃木の高さに押し込まれ始める。第3クォーターだけで9-17とリバウンドで圧倒され、田臥勇太の3連続ミドルシュートなどでついに逆転を許した。だがA東京も踏み留まり、その後は一進一退の攻防が続き佳境を迎える。

最終クォーター残り45秒、田中大貴がスクリーンピックからのドライビングレイアップを決めて74-72とリードを奪い、直後のディフェンスでリバウンドを拾った田中がフリースローを獲得。落ち着いてこのフリースローを2本とも沈め、残り37秒で76-72とリードを広げた。

しかし、次のポゼッションでオフェンスリバウンドを2度奪われた末、古川孝敏にシュートをねじ込まれ76-74に。それでも菊地祥平が田臥にファウルを受け、フリースローを獲得した。1本でも決めれば負けがなくなる状況だったが、菊地がこれを2本とも失敗。76-74で残り17秒、栃木にポゼッションが移る。

残り1秒で田臥のパスを受けたライアン・ロシターが3ポイントシュートを決め、77-76と土壇場で栃木が逆転。劇的な勝利を収めた。

繰り返した練習が「フラッシュバック」した逆転弾

結果だけを見ればロシターの3ポイントシュートに尽きるが、ここには両者の思惑が隠されていた。

ターニングポイントとなった菊地のフリースローの場面、「フリースローの確率が一番低い選手にファウルをすることで、そこから勝機を見いだせた」と、ウィスマンは確率論に基づいて最善の策を打っていたことを明かす。

そして、ロシターの3ポイントシュートの場面、「ロシター選手は今シーズン3ポイントシュートを10本も決めてないのかな? 今日も入っておらず、あそこは空けました」と確率論を重視した作戦だったと伊藤ヘッドコーチは説明する。結果的に裏目に出たが、作戦自体への悔いはない。「彼があそこで決めるというのもバスケットなので」と、伊藤ヘッドコーチは清々しい表情で会見を締めた。

そのロシターは、逆転シュートを「コールされたプレーとは違うプレーだった」と説明する。

「僕と田臥選手は一緒にパートナーを組んでシューティングをしています。毎回時間を決めてシューティングをしてる時に、最後のシュートの時は田臥選手がパスを出して自分がシュートを決めるというのを練習からやってます。試合の中で田臥選手がボールを持っているのを見た瞬間に、それがフラッシュバックみたいに蘇ってきて、その練習と同じようにしっかり決めることができました」

それぞれが最善の策を出し合い、その作戦を練習が凌駕する。そしてこの日は栃木が勝利を収めた。この敗戦でA東京は栃木との通算成績で1勝2敗と負け越したが、リベンジのチャンスはすぐにやって来る。今週末の試合を挟み、来週の3月5日と6日に同じカードが組まれている。東地区の『2強』の戦いからこれからも目が離せない。