辻直人

構成=丸山素行 写真=鈴木栄一、FIBA.com

辻の苦悩「自分の存在価値ってどうなのかな」

バスケットボール日本代表はアジア予選のイラン戦、カタール戦に連勝し、ワールドカップ出場を勝ち取った。

カタール戦は結果的にダブルスコアの大勝となったが、試合序盤はシュートが入らず、決して楽な展開ではなかった。その重い展開を打破したのが辻直人だった。

途中出場の辻は、コートに入るや否や3ポイントシュートを成功させると、第2クォーターだけで3本の3ポイントシュートを沈めた。最終的に6本中4本と高確率で3ポイントシュートを成功させ、チームの勝利に大きく貢献した。

イラン戦でも、3分に満たないプレータイムの中で3ポイントシュートを沈めている。ワンチャンスをモノにしたその成功体験が、カタール戦の活躍に繋がったと辻は言う。「イラン戦で、自分の得意な1プレーで結果を残せたことが本当に自信になりました。それがあってカタール戦に入れたので、あの結果に繋がったと思います。本当に良かったです」

この大事な2試合で結果を残した辻だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。これまでのラインナップを見る限り、指揮官のフリオ・ラマスは一芸に秀でたシューターよりも、オールラウンダーを重宝する傾向にある。辻もそれを理解しており、「自分の存在価値ってどうなのかなって思ったことは正直ありました」と、自分の役割を見失っていた時期があったという。

それでも、今回の結果は代表定着という意味でも、日本にシューターが必要だと提起する上でも、価値のあるパフォーマンスとなった。辻も「今は『やってやったぞ』と見返せたかな」と、表情をほころばせる。

辻直人

「あきらめずにやってきたことが報われた2試合」

辻は洛南高、青山学院大で日本一を経験し、川崎ブレイブサンダースでも早い段階で優勝を経験している。世代別の日本代表にも選出され続け、言わばエリート街道をひた走ってきたと言っていい。だが、ここ約2年間はケガが多く、結果が出ない日々を過ごした。「本当の挫折じゃないですけど、長い目で見た時にこの2年間は挫折だったのかなって思います」と辻も言う。

だが、こうした苦しい期間を耐え忍んだからこそ、今回のようなパフォーマンスに繋がった。「あきらめずにやってきたことが報われたと本当に思えた2試合でした」と辻は振り返る。

そして、辻はメンタル面の成長を実感している。「ケガも経験して、代表の落選も経験して、代表に選ばれたけどコートに1秒も立てずっていうのも経験しました。いろいろな濃い経験をしたと思うので、それを乗り乗り越えて、結果を出せたというのは精神面ですごく成長したなって思いますね」

「代表が最大のモチベーション」と、辻は強い思いを抱いている。それでも今後もサバイバルは続く。「代表はこういう結果でひとまず満足はするんですけど、今度はリーグで結果を出さないといけないです。これからBリーグで真価が問われると思うので」と、辻は週末から再開するリーグでの活躍を誓った。

辻は代表チームの関係性を問われ、「いとこのようなもの」と発言し、笑いを誘った。決して考えていたわけではなく「突発的に出た」と明かし、その真意を語った。「よくファミリーとか言うじゃないですか。でも家族はちょっと言い過ぎかなと。そんなにしょっちゅう会わないし、正月とかお盆になったら集まるじゃないですか。まあ大事な関係ということで(笑)」

リーグでは、長い時間を共有し、ともに世界と戦った仲間たちとの対戦が待ち受ける。そんな「いとこたち」と切磋琢磨する、辻の今後に注目したい。