「ジャックに退場した責任を感じて欲しくなかったので、なんとしても勝ちたかった」
琉球ゴールデンキングスは4月7日、ホームで千葉ジェッツと対戦。最後までもつれる激闘の中、ここ一番における球際の強さ、決定力でわずかに上回ることで83-79と競り勝った。これで琉球は前日に続く勝利で、価値ある同一カード連勝を達成している。
試合の立ち上がりから、琉球は激しいプレッシャーをかけ千葉Jのドライブを阻止して流れを引き寄せる。そして、内と外のボールの出し入れが活発なオフェンスでズレを作りだすと、効果的に外角シュートを決めて主導権を握る。第2クォーター早々には、松脇圭志の連続3ポイントシュート成功で、リードを15点にまで広げる。
だが、ここから琉球は、千葉Jのジョン・ムーニー不在で優位に立つインサイドへの攻めを強調しすぎることで流れが悪くなる。一方、千葉Jは富樫、原修太、ゼイビア・クックスの中心選手たちがさすがのシュート力を見せ、琉球のリードは7点にまで縮まってハーフタイムを迎える。
後半に入ると、千葉Jは富樫がギアを上げ、第3クォーター早々にいきなりの連続得点を挙げる。ここから試合は僅差でずっと推移する接戦に。第4クォーター中盤になると千葉Jのアイラ・ブラウンがファウルアウトし、琉球のジャック・クーリーも2回目のアンスポーツマンライクファウルで退場に。ともにファウルトラブルに直面する中、冷静に戦い続けることで一進一退の攻防が続く。琉球はより手薄になった千葉Jのインサイドをドライブで積極的に突くことでわずかに先行し、残り6秒で2点をリードした。ここでアレン・ダーラムがフリースローを獲得するが2本連続で失敗してしまう。だが、今村佳太がボックスアウトを徹底していなかった千葉Jの隙を突いてオフェンスリバウンドを奪取。これで得たフリースローを2本連続で成功させて勝負を決め、チャンピオンシップのような大盛り上がりの熱戦を制した。
琉球にとって最も苦しい時間帯は、第3クォーター終盤からの千葉Jの流れを止められず、最終クォーターの序盤に57-62とビハインドを背負った場面。ここでチームを救ったのが岸本隆一で、レイアップと3ポイントシュートの連続得点で同点に引き戻した。さらに1点リードで迎えた残り1分13秒に長距離砲を決めるなど、第4クォーターで9得点と持ち前の勝負強さで、勝利の立役者となった。
試合全体で18得点3アシストを記録した岸本は、「チームのため、応援してくれる方のため、関わる人のためにまず勝てて良かったです」と試合を総括する。そして「個人的にはジャック(クーリー)に退場したことへの責任を感じてほしくなかったので、なんとしても勝ちたかったです」と退場したクーリーのためにもつかみたかった白星だったと強調した。
「僕らはジャックのチームだと思っていて、彼がいてこそ自分たちは(リーグ上位の)この勝率でずっといられる。彼に救われてきたチームなので、自分たちが力を出して勝ちに結び付けられたのは良かったです」
「積み重ねがすべてです。一つひとつに全力で取り組んでいくこと以外に道はない」
琉球のオフェンスは、ここぞの場面を常に任せる絶対的なエースがいるというより、試合毎に調子が良い、アドバンテージが取れるところで攻めていくスタイルだ。今回であればダーラム、今村らのドライブが最後は効果的だった。そしてチームファーストが大前提としてある中でも、この試合の岸本は勝負どころで自分が積極的に行くことを意識していた。そこには今後のポストシーズンを見据えた思いがあったと明かす。
「今日は、特に第4クォーターに入ってから自分から強く行ってやろうと思っていて、久しぶりの感覚でした。ここで強気に行かなかったら、もっと苦しい時期を乗り越えられない感じがしていました。昨日は第4クォーターでちょっと消極的だと思っていて、今日は無我夢中でやらせてもらいました」
そして、クラッチシューターとして自分にマークを引き付けることで、味方のためのスペースを生み出すことも意識しているという。「富樫選手を見ると、彼がボールを持っていること自体が脅威になっています。少なからず今日の試合では、自分がそういう役割を担っていかないといけないと思っていました」
あらためて証明された岸本の勝負強さには、千葉Jのジョン・パトリックヘッドコーチも脱帽していた。「岸本選手のクラッチスリーがありました。彼がクラッチタイムで決めたことが、琉球の勝因だと思います。第4クォーター、彼にスペースを与えてはいけないです」
ちなみにパトリックヘッドコーチは、近畿大への留学時代の繋がりによって「沖縄はセカンドホームで、30年前から講習会で来ています」と沖縄バスケットボール界との関係が長い。中でも岸本の北中城高校時代の恩師とは懇意で、岸本も高校時代にクリニックで教わったことがある。そういう背景もあって、2人は試合後に談笑していた。
岸本によると、クリニックの思い出は「当時、学生で派手なプレーとかをやりたいところで基礎的な練習が多くでしんどいなと……(笑)。ずっとフットワークをやっていた記憶があります」ときつかった印象しかない模様だ。そして「昨日は高校の恩師も試合を見にきていて、ジョンパトさんと時間がたったねという話しもしました。こういう形で戦えるのは不思議な縁だなと思います」と続けた。
難敵相手の価値ある同一カード連勝で、琉球は西地区優勝にまた一歩近づいた。連覇がかかるポストシーズンへ向け、「積み重ねがすべてです。一つひとつに全力で取り組んでいくこと以外に道はない」と岸本は意気込む。岸本のクラッチシューターとしての脅威が増すことは、琉球全体の攻撃力アップに繋がる。