テリー・ロジアー

「新しい環境に来て楽ができるなんて期待していないよ」

ヒートは38勝31敗で東カンファレンス7位、ペイサーズとセブンティシクサーズとともにプレーオフのストレートインとなる6位を争っている。ただ、ヒートの場合は他と違い、レギュラーシーズンの結果にかかわらずプレーオフになれば全く別のチームになる雰囲気がある。昨シーズンは8位からプレーイン・トーナメントを経てバックス、ニックス、セルティックスを撃破してNBAファイナルへと駒を進めた。そんな昨シーズンと同様に、ケガ人続出に悩まされて順位は上がらないものの、ポストシーズンに向けた準備は着々と整っている印象がある。

現地3月20日に行われたキャバリアーズを107-104で制した試合でも、その雰囲気は感じられた。大黒柱のバム・アデバヨを始めタイラー・ヒーローにケビン・ラブ、ダンカン・ロビンソンと主力の多くを欠きながら、右足のケガから3試合ぶりに復帰したジミー・バトラーが30得点、テリー・ロジアーが24得点を挙げてキャブズに競り勝った。

1月下旬のトレードでホーネッツからヒートに加わったロジアーは、自由にプレーできていたホーネッツ時代とは違ってチャンスが回って来なくなりリズムをつかめず、3ポイントシュート成功率も平均得点も大きく落とした。さらに2月には右膝を捻挫して2週間の戦線離脱を余儀なくされている。

それでもキャリア9年目の30歳である彼はベテランらしく落ち着きを保ち、ケガからの復帰後は試合を重ねるごとにチームにフィットしている。ヒートで彼に求められるのはここ一番での勝負強さ。それを存分に発揮したのがキャブズ戦だった。

残り1分半に決めた4点プレーはイサーク・オコロのシュートチェックをステップバックでかわして決めたもの。これでヒートは追い付き、その後に勝ち越しの3ポイントシュートも決めた。これは同じくオコロの守備をはがすべく、ステップバックに続いてサイドステップでズレを作って決めたものだ。「ステップバックはずっと練習してきたし、サイドステップは去年の夏に練習してモノにしたんだ。どちらも僕のお気に入りのシュートだよ」とロジアーは言う。

さらに終了間際のファウルゲームでのフリースロー2本成功も含めれば、ラスト1分半で9得点。ヒートの指揮官エリック・スポールストラは「彼はキャリアを通じて素晴らしいクラッチパフォーマンスを見せてきた。我々は何もないところからビッグプレーを生み出す選手を必要としており、彼は最後の2つのポゼッションでまさにその仕事をしてくれた」とロジアーの勝負強さを称えた。

ホーネッツでは彼がファーストオプションだったが、ヒートではバトラーにアデバヨ、ヒーローにロビンソンと得点できる選手が多い。そこへのアジャストにロジアーは少々苦戦したが、「全然問題はないよ」と話す。「僕は仲間の実力を信じて託しているし、それと同時にスポ(スポールストラ)は僕に思い切って3ポイントシュートを打てと言ってくれる。この状況は僕自身が長らく待ち望んでいたもの。新しい環境に来て楽ができるなんて期待していないよ。移籍して様々な苦労があるけど、長い目で見ればそれは僕にとってプラスになる。今は日々感謝してバスケに取り組んでいるんだ」

ルーキーイヤーから4シーズンを過ごしたセルティックスでロジアーに付けられたニックネームは『スケアリー・テリー』。スポールストラの言葉を借りれば「何もないところからビッグプレーを生み出す」、恐ろしい能力から付けられたものだ。ホーネッツでの4シーズン半では、彼が活躍したところでチームは勝てず、真の脅威とはならなかったが、ヒートの一員として迎えるプレーオフで『スケアリー・テリー』は復活し、東のライバルチームを震え上がらせるに違いない。