クリス・ミドルトン

「必要があればペースを変える術を理解している」

現地3月17日、バックスがサンズを迎えたホームゲームでヤニス・アデトクンボはプレーしなかった。左のハムストリングを痛めている彼はプレーする予定でウォーミングアップに参加したが、そこで彼自身が欠場を決めた。ハムストリングのケガは癖になりやすい。バックスの指揮官ドック・リバースは「ケガというよりコンディションの管理だ。これで彼はまとまった休養になるから、休む決断をして良かったと思う」と語るが、サンズ戦は厳しくなることが予想された。

ところが試合が始まれば、第1クォーターに奪ったリードを第2クォーターに広げ、そのままサンズを寄せ付けずに140-129の完勝。31得点16アシストでオフェンスを引っ張ったデイミアン・リラードは「とにかく攻めの気持ちで臨みたかった。そしてチームメートのみんながシュートを決めてくれた。僕がいくら好調だったとしても、140得点ペースでシュートを決めることはできない」と語る。

そのリラードをクリス・ミドルトンはこう称えた。「デイミアンがサンズのディフェンスを切り裂いた。ダブルチームを受けてパスをさばくだけじゃなく、そのタイミングもパスを出す先の判断も素晴らしかった。アグレッシブに攻めつつ、行くべきではないタイミングも理解してスムーズにプレーを作り出す素晴らしい仕事をしたよ」

ケビン・デュラントを守って好守にエネルギーを発揮したジェイ・クラウダー、5本の3ポイントシュートを決めたマリーク・ビーズリー、シックスマンとしていつも以上のプレータイムを得て31得点10リバウンドのボビー・ポーティスなど多くの選手の活躍が勝利に繋がったが、ミドルトンの働きも特筆すべきものがあった。昨シーズンはケガで33試合にしか出場できなかった彼は、今シーズンもケガに苦しんでおり、足首に重度の捻挫を負って1カ月半の欠場となった。16試合に復帰したミドルトンはプレータイムに制限があったために26分間しかプレーしなかったが、それでも22得点7アシストを記録している。

「足首の痛みはほとんどなくなっていたけど、ディフェンスで相手のプレーに反応しなきゃいけない時にどこまで動けるかは実戦でやってみないと分からなかった。そこが僕にとって乗り越えるべき壁だった」とミドルトンは言う。彼はブラッドリー・ビール、グレイソン・アレン、時にはデュラントもマークして、見事な働きを見せた。

アデトクンボがいれば、ミドルトンは自然とサポート役に回る。彼が本当の能力を見せるのはアデトクンボ不在の試合だろう。ケガ明けでもそれは変わらなかった。クイックリリースの3ポイントシュートを決め、相手が間合いを詰めればスルリと抜け出し、ダブルチームを受ければパスをさばく。もともと身体能力で勝負するタイプではないし、もう32歳のベテランとなり、ドライブに行く際にもスピードはない。それでも自分と相手の間合いを理解し、小さなスペースを見つけて最適なプレーを実行する。そのスマートさは他の選手にはなかなかない彼の持ち味だ。

「プレースピードを無理に上げようとは思わない。速くしすぎたり、手数を増やしすぎたり、ハードにプレーしすぎたり、必要以上のことをやってしまうことが過去にはあったけど、今の僕は自分のペースでプレーし、必要があればペースを変える術を理解している」とミドルトンは言う。

彼が足首を痛めたのは現地2月6日で、バックスがヘッドコーチ交代に踏み切り、リバースの下で攻守が噛み合わずに負けが続いた時期を眺めているしかなかった。「キツい経験だったよ」と彼は言う。「フラストレーションという言葉は使いたくないんだけど、みんな自分の実力を発揮できておらず、欠けているピースがあると感じていた。僕は自分のことを、時にはプレーメーカーで時には点の取れる選手、ピースとピースを繋ぐプレーヤーだと自負している。だから復帰した時には、その役割をこなしたいとずっと思っていた」

ようやくコートに戻って来て、思い通りのプレーができ、チームは快勝を収めた。「すごく気分が良いよ」とミドルトンは晴れやかな笑顔を見せた。「リハビリは退屈だし、無駄な時を過ごしているように感じて精神的にもやたら疲れる。試合でプレーできるようになって良かったよ」