マックス・ストゥルース

カイリー・アービングから主役の座を奪い取る大活躍

カイリー・アービングは素晴らしいNBAキャリアを築いているが、ファンとの関係は必ずしも良好ではない。彼は明らかにマスコミ嫌いで、しばしば彼が起こす奇行に大騒ぎするファンにも良い印象を抱いていない。一番の敵はセルティックスのファンで、チームが秘めた若い可能性をカイリーが引き出せないままチームを去ると、犬猿の仲となった。その前に在籍していたキャバリアーズでも似た雰囲気はあった。レブロン・ジェームズに続く2番手という立場を嫌がり、「リーダーシップを発揮したい」とトレードを要求。キャブズが初優勝からそのまま『王朝』を築くという夢は、彼の退団でぐらつき、レブロンの退団で完全に潰えた。

しかし、球団初の優勝をもたらしたインパクトは8年後の今も消えない。一方で退団に伴う感情のしこりは年々薄れていく。現地2月27日、クリーブランドでのキャブズvsマーベリックスを前に、キャブズファンの間ではカイリーの背負った背番号『2』を永久欠番にすべきかが議論され、ドノバン・ミッチェルは「カイリーの功績を称えるべきだ」とファンに呼びかけた。

そんな中、今シーズンは余計なトラブルを起こすことなくプレーに集中し、好調をキープしているカイリーは鋭いドライブ、アクロバティックなフィニッシュと若かりしキャブズ時代を彷彿とさせるパフォーマンスを見せた。マブスのエースはルカ・ドンチッチで、彼は2番手の立場を受け入れて魅惑のオフェンスを構築している。キャブズはよく渡り合ったが、第4クォーターに入ってカイリーがギアを上げ、残り4分でカイリーが決めたレイアップで110-100とマブスがリードを2桁に広げ、試合は決まったかに思われた。

だが、カイリーが主役を演じたはずの試合は、ここから一変する。主役の座を奪い取ったのはマックス・ストゥルースだ。67秒間で4本の3ポイントシュートを立て続けに決めて再び接戦に持ち込む。それでも残り23秒でカイリーが30得点目となるフローターを沈め、ドンチッチのアシストを受けたPJ・ワシントンがゴール下をしぶとくねじ込んで119-118と土壇場でマブスが逆転に成功する。

残り2.1秒でタイムアウトも残っていない。リードを守り切ることに専念したためミッチェルはベンチにいる。それでもストゥルースはあきらめていなかった。リスタートからすぐにボールを受け取ると一気にスプリントし、ハーフコートラインより手前で超ロングシュートを放つ。「良い感触だった。最後の5本はすべてリズムをつかんで良い感じで打てていた。打つたびに入ると確信していたんだ。最後の1本もね」とストゥルースは言う。シュートは大きな弧を描き、ブザーとともにリングに吸い込まれた。

観客は飛び上がって喜び、ストゥルースは歓喜を爆発させた直後にチームメートに揉みくちゃにされて見えなくなった。チームメートのジャレット・アレンは言う。「マックスはビッグショットを決め続けた。最後の1本が決まったのは奇跡かもしれない。でも、僕たちの思うようにはならない試合展開の中で彼があきらめなかったこそ起こった奇跡だ」

ストゥルースは最後のシュートについて「ドノバンがいなくて、残り時間もなくて、目の前にスペースがあった。ただ打つだけだった」と笑顔で語る。「それ以上のことは分からない。チームメートと勝利を祝っていて映像を見ていないんだ」

あり得ない形で主役の座を奪われたカイリーは「ツイてないよ」と苦笑混じりで話す。「ストゥルースがタフな状況でビッグショットを決めるのは初めてじゃない。ああいう状況に強い選手だからキャブズは獲得したんだ」