サイズの不利を全く感じさせない守備「フィジカル勝負で負ける気はしなかったです」

バスケットボール女子日本代表はパリ五輪最終予選（OQT）の激闘を勝ち抜き、パリ五輪の出場権をつかみ取った。そしてハンガリー会場でのOQTで、日本代表だけでなく参加した4チームの中で最も高値安定のパフォーマンスを見せたのが山本麻衣だった。

山本はカナダ戦での21得点を筆頭に3試合すべてで15得点以上をマーク。3試合平均で17.0得点、3ポイントシュートは3試合すべてで3本を決め、成功率は驚異の64.3％を記録。加えて3.7アシスト、3.7リバウンドの大暴れで、文句なしのハンガリー会場MVPに選出された。

今回のOQT、山本はオフェンス面において、高確率の3ポイントシュートだけでなく、効果的なドライブで相手ディフェンスを切り崩すなど攻撃の起点としても見事なプレーを見せた。カナダ戦では、相手が3ポイントシュートを徹底的に抑えにきたことで生まれたスペースを的確に突き、自らフィッシュすることをより重視していた。

山本はこう振り返る。「いつもだったらドライブからのキックアウトでシュートを打てるところがありますが、（カナダは）ドライブした選手に寄ってこなかったです。それでピックに絡んで自分からシュートを打つ回数を増やすことはずっと意識してやりました」

また、ディフェンス面でも軽快なフットワークで前から激しいプレッシャーをかけ続けた。特筆すべきはフィジカルの強さで、163cmの山本は自分より10cm、15cmと大きい相手にも全く当たり負けしなかった。「フィジカルには自信があるほうです。今までやってきたトレーニングなど、自分の力を信じていました。だからフィジカル勝負で負ける気はしなかったです」

このように自信を持っている武器で、山本は文字通り、マークした相手の心身両方のスタミナを削り取っていった。実際、カナダのガード陣は「相手が前から当たれなくなっていたので、スタミナ切れになっているのは感じていました」と山本が語るように、終盤になると完全にガス欠となっていた。

会場のブーイングに「『煽れ煽れ、もっと言え』って思っていました（笑）」

ちなみにカナダ戦でのハンガリーの観客はカナダに大声援を送っていた。それはここでカナダが日本に勝つと、ハンガリーがこの後に行われるスペイン戦に敗れても、パリ五輪出場が決定するからだ。そのためカナダに不利な判定には、大きなブーイングが起こっていた。

開催国ではないチーム同士の対決で、こういう事態が起こるのはOQTならでの異様な状況だが、山本に全く動揺はなかった。「ハンガリーのファンがみんなカナダの応援をしていましたけど、『煽れ煽れ、もっと言え』って思っていました。海外ってこんなにブーイングをするんだと逆に楽しかったです」

このようにパリ五輪がかかる重要な一戦でも山本にはプレッシャーを楽しむ余裕があった。そこには3×3代表で東京五輪の最終予選を戦い、出場権を勝ち取った経験が生きていた。「3×3のOQTを経験していた分、これがOQTだなという気持ちでした。オリンピックは簡単に行けるものではないので、そこは覚悟を持ち、でも緊張はせず、いつも通り試合に臨むことができました」

今大会の山本は3試合すべてで30分以上のプレータイムと、日本で一番コートに立ち続け、名実ともに中心選手として日本をパリ五輪へと導いた。これまでワールドカップ、アジアカップと悔し涙を流し続けたからこそ、「やっとこうやって結果が出せたのはすごくうれしいです」と笑顔を見せる。だが同時に、今回の歓喜はあくまで通過点に過ぎないと強調する。「でもここからが本当の勝負です。恩さん（恩塚亨ヘッドコーチ）が言っている意思疎通に関しても、ずっとやってきたことで、できてきていると思います。これからもみんなと切磋琢磨して日本のバスケを盛り上げていきたいです」

今大会の山本は卓越したスキルに加え、メンタルやフィジカルでも世界レベルのタフさを持っていることを証明した。パリ五輪では、今回のMVP以上のスポットライトを浴びる活躍で、日本を高みへと導いてほしい。