「憎しみ合うほど激しいライバル関係も必要」との持論を展開
NBAはいまやスポーツの枠を超えるほどの社会的地位を確立し、スター選手の一挙手一投足が社会に与える影響力は計り知れないほど大きくなっている。日々の研鑽の積み重ねによる高い技術と強靭な体格を誇る選手が繰り広げるハイレベルなプレーは、青少年のお手本としての側面もある。
しかし、時計の針を約20年前に戻すと、NBAというリーグの印象は全く違うものだった。
1980年代後半から90年代前半にかけてリーグを席巻した『バッドボーイズ』ことピストンズが当時のNBAの象徴だった。ジョー・デュマース、デニス・ロッドマンらを中心とした当時のピストンズは、1989年から2連覇を達成。何よりも印象的だったのは、現代では即座に退場処分を受けても不思議ではないほどの、激しく荒っぽいプレーが容認されていたことだ。
喧嘩まがいの危険なファウルが、『勝負に必要だから』という根性論に支持され、当たり前のように行われていた。社会的影響力が大きくなった今のNBAでは、子供たちへの悪影響が懸念され、当時のピストンズのようなチームは到底受け入れられない。リーグもチームも、実際にコート上で戦う選手たちも、しっかりとマナーを守ってプレーしている。
しかし、『バッドボーイズ』の舵取りを担ったレジェンドのアイザイア・トーマスは、今の流れを一部とは言え否定する。トーマスは『CNN』に対し「すべてのスポーツにライバル関係は必要不可欠だ」と言う。「お互いを憎しみ合うような関係、競い合う強い気持ちが、ベストパフォーマンスを引き出してくれる」
2強時代を打ち崩すには『バッドボーイズ』の精神が必要?
今のNBAでは、闘志は見せても『闘争心』と表現されるようなメンタリティは見られない。激しく戦っても試合が終われば肩を抱き、互いの健闘を称えながらロッカールームに引き上げていく。その現状に対してトーマスは、「ハグを交わしたり、友情関係を育むのは構わない。だが、それと同時に相手を叩き潰す気構えがないといけない」と、強い闘争心の必要性を主張する。
「選手なら、キャリアのどこかのタイミングで相手を憎いと思うものだ。もしウォリアーズとキャブスがまたファイナルに進出したらどうだ? 他のチームの選手たちは彼らを憎む気持ちを持たなければならない」
トーマスが挙げたウォリアーズでは、ドレイモンド・グリーンが事あるごとにキャブズに対する敵対心をむき出しにしている。ただ、それも『バッドボーイズ』時代に比べれば穏やかなものだ。そもそも今のNBAでは、競技を逸脱するような悪質なファウルは決して認められない。グリーンの振る舞いも今のNBAでは『ギリギリ』なのだ。
しかし、ファン同士がいがみ合うほどの激しいライバル関係が試合を盛り上げる大きな要因の一つであることは、バスケットボール以外にも、野球、サッカーなどでも証明されているだけに、トーマスの主張も理解できる。
ウォリアーズとキャブズ2強時代を他の28チームが指をくわえて眺めているようでは、リーグは盛り上がらない。今シーズンは西カンファレンスでロケッツが台頭。東はいまだにキャバリアーズが一歩抜きん出ているものの、ラプターズやセルティックスも虎視眈々とチャンスをうかがっている。ただ、『2強』を引きずり下ろすような苛烈なライバル意識、敵意があるかと言えば、そういうわけではない。
トーマスの発言は時代錯誤なのかもしれない。そして実際にコート上で行き過ぎた闘争心がトラブルを引き起こすのは御免だが、今の2強時代を打ち崩すようなチームが出て来なければ、シーズン後半戦が盛り上がらないのも確かだ。