佐々宜央

「今年のチームは本当に気持ちが強いです。また、よくしゃべっています」

宇都宮ブレックスは1月21日、アウェーで琉球ゴールデンキングスと対戦した。この日の宇都宮は11月中旬から戦線離脱中のギャビン・エドワーズに加え、前日の試合で負傷したアイザック・フォトゥが欠場とビッグマンが駒不足に。それでも竹内公輔の奮闘によってリバウンド争いを制したことで、74-68と激闘を制し、前日に敗れたリベンジを果たした。

宇都宮は立ち上がり、攻守ともにアグレッシブさで琉球を大きく上回ることで18-4のビッグランに成功する。しかし、ここから冷静さを取り戻し、プレーの精度を高めた琉球の反撃を食らい、40-37と詰められて前半を終える。

後半はともに譲らない一進一退の展開となるが、第4クォーター途中に琉球の松脇圭志、ヴィック・ローに連続で3ポイントシュートを決められ、残り4分半で61-68と劣勢に立たされる。だが、ここで宇都宮は、守備の強度をもう1段階上げることで琉球のオフェンスを停滞させタフショット、ターンオーバーを誘発して流れを変える。そして、残り49秒にDJ・ニュービルが3ポイントシュートを沈めてついに逆転。最終的に残り4分半を無失点に抑える、宇都宮らしさ全開の堅守で逆転勝利を飾った。

宇都宮の佐々宜央ヘッドコーチは次のように試合を振り返る。「ローテーションが大分偏ってしまった自分の采配の部分は反省するところです。後半にボールが止まって1対1をする苦しいオフェンスが増えましたが、最後はやりたいオフェンスができました。そしてリバウンドです。インサイドの外国籍選手が1人いない中、琉球さんを相手に(竹内)公輔のオフェンスリバウンド8は尋常じゃないと思いました」

また、指揮官は逆境に立たされても集中力が落ちず、勝利への強い気持ちを持ち続けた精神面の逞しさも大きな勝因と続ける。「第4クォーターで7点差のビハインドになった時も選手たちの目を見ると全くあきらめていなかったですし、今年のチームは本当に気持ちが強いです。また、よくしゃべっています。あの場面でも『こういうことをやっていいか』と選手たちから意見が出てきます。これこそが、本来のあるべき姿だと思うので、ゲームプランはありますが、彼らの意見通りにやらせます。こういう意志を持っている選手たちがいることが苦しいゲームを勝てている要因です」

佐々ヘッドコーチにとって琉球は、初めてヘッドコーチを務め2年半に渡ってチームを率いた古巣となる。また、琉球の桶谷大ヘッドコーチは、公私ともに仲が良いコーチ仲間だ。昨シーズンの宇都宮は琉球とのアウェーでの開幕節で、2試合ともに2桁以上の点差で敗れている。今でも愛着のある沖縄の地での今回の勝利に「勝負事なのでうれしいです」と語ると同時に、なによりも沖縄のバスケファンに最後まで手に汗を握る好ゲームを提供できたことへの充実感を強調する。

「それ以上に、こうやって沖縄に戻ってきてバスケットができることに感謝しています。去年は大敗してしまって、見ているファンの方も面白くなかったと思います。昨日は負けて、今日は勝ちましたが、クロスゲームが一番の醍醐味だと思います。それを沖縄でできたのがうれしいです」

佐々宜央

「よりチームとして戦っていくための組織作りをすごく意識しています」

この勝利で宇都宮は24勝7敗としている。一昨年のリーグ制覇から一転し、チャンピオンシップ出場を逃した昨シーズンからの見事なV字回復で、ポストシーズン進出は確実な状況だ。エドワーズが長期離脱している今、昨シーズンからの戦力の上積みはニュービルのみだ。もちろんニュービルはリーグ屈指のスコアラーでありクラッチシューターで、彼の存在は大きい。とはいえ、たった1人ですべてが変わるほど勝負の世界は簡単ではない。チーム全体のステップアップがあるからこその復活であり、そこには佐々ヘッドコーチ自身の成長も含まれる。

本人も昨シーズンと今シーズンにおける采配やチームマネジメントの手法に変化はあると認める。それはアシスタントコーチとして参加している、日本代表の活動が大きく影響していると明かす。「幸運なことにワールドカップを経験させてもらえました。そしてトム・ホーバスの下でチーム作りを経験したことが非常に勉強になっていて、有効に使えているところはあります。戦略、戦術の部分だけでなく、よりチームとして戦っていくための組織作りをすごく意識しています。いろいろありますが、単純に言うと、一人ひとりの役割をはっきりさせている。リーダーシップの重要性、信じる力をチームに伝えていっています」

特に対話の部分をより重視するようになったと佐々ヘッドコーチは言う。「チーム作りのためにどういうコミュニケーションを取るのか。前はチームミーティングが多かったですが、バスケットボールは1チームで14名くらいですし、個別に話すことを意識しています。それによって、それぞれにどの部分で、どういうリーダーシップを発揮してほしいのか明確になってくる。コミュニケーションが一番大きいです」

このようにアプローチの方法は変えたが、一方で佐々ヘッドコーチがチーム作りの哲学において大事にしている部分は変わらない。同級生で、付き合いが誰よりも長い竹内が「僕が感じている部分ですけど、彼は背伸びをしない。自分のスタンスを持っていて、一本の芯がブレないコーチだと思います」と語るように、根幹となる部分が同じだからこそ、選手たちも変化を受け入れることができる。

自身のコーチングについて「去年とは全く違うなという自覚はあります」と語るが、そこに満足感は全くない。「あまり見られないですけど(笑)、まだ30代で若いですし、もっと成長していかないといけないです。自分はまだまだで、桶さんや大野(篤史)さんなど、日本人のもっと素晴らしいコーチはいます。彼らに追いつけるように、若いコーチとしてこれからも成長していきたいです」

コートサイドから感情むき出しで指示を送り、味方のナイスプレーに雄叫びをあげてチームを鼓舞する熱さは琉球でヘッドコーチ人生をスタートさせた時から全く変わらない。そして昔から戦略や戦術に関する博識ぶりは一目置かれる存在だった指揮官は、様々な経験を積むことで、よりチームを俯瞰的に見るマネジメント力を確実に向上させている。

今回の2連戦は、宇都宮が昨シーズンと違うこと、そして佐々の指揮官としてのステップアップを改めて証明する舞台となった。