文=大島和人 写真=B.LEAGUE

変幻自在のプレーで三河のオフェンスを牽引する比江島

バスケットボールはチームスポーツとはいえ、ファン目線で見れば『個人』の戦いにどうしても目を向けたくなる。第18節の交流戦では西地区と東地区の首位対決、シーホース三河とアルバルク東京の対戦が組まれていた。どちらにも複数のエース格を擁しているが、比江島慎にとってディアンテ・ギャレットの対決は特別なモノだった。

開幕前の取材で比江島が「負けたくない存在」に挙げていたのがギャレットだ。Bリーグの外国籍選手では例外的なアウトサイドのプレイヤーで、ポジションが比江島と重なる。比江島は日本代表のエースだが、ギャレットは90試合のNBA出場歴を持つ大物。年齢も比江島が26歳、ギャレットが28歳と近い。第18節の交流戦は、そんな2人の初対決だった。

三河は初戦を69-81で落としたものの、第2戦を85-77で制した。比江島もそれぞれ20得点、21得点を挙げている。比江島は我の強いタイプではなく、日本代表はともかく三河では『クリエイト』での貢献が多い。小さなズレを突いて切れ込むドライブはアグレッシブだが、かといってボールを独占する、無理なチャレンジをするタイプではない。

しかしこの連戦ではスコアラーの金丸晃輔に迫る数字を残した。「エースは金丸さんに付きますし、ジェイアールのところもマークが厳しい。だから僕に対してはそこまでは厳しくなかった。そんなに無理して打たなくても、オープンで打てたのがこの点数につながりました」と比江島は自身の得点を振り返る。

29日に行われた第2戦、比江島は試合開始直後に大きく回り込む動きでパスを引き出しリバースレイアップを決めると、残り4分9秒には鋭い突破から桜木ジェイアールにプレゼントパス。残り32秒にも3ポイントシュートを決めるなど、第1クォーターから全開だった。

第2クォーター残り4分54秒には田中大貴との1on1を制してゴール下に切り込みA東京の守備を崩すと、橋本竜馬とパスを交換しつつ外に開いて圧巻の3ポイントシュート。その後も第4クォーターの残り3分17秒でギャビン・エドワーズのダンクを誘ったバウンドパスなど、得点以外でも多くの見せ場に絡んだ。

さて、ギャレットとの対戦はどうだったか? 比江島はこう振り返る。「本当に、単純に楽しかったです。NBAを経験している選手に自分がどれだけできるか試したかった。単純に上手いと感じましたし、何から何までセンスがある。でも、そんなにやられたという印象は、マークに付いていてもありません。全然勝てないという相手ではないし、十分やれる手応えは感じています」

鈴木ヘッドコーチは絶賛「比江島くんが勝ったんじゃないか」

比江島は自然体で、そして楽しそうにこのチャレンジに臨んでいた。大舞台で輝く彼の特性がA東京戦でも出ていた。

鈴木貴美一ヘッドコーチは「私自身も今日は楽しみにしていて、ギャレットには比江島を付かせてやった」と明かす。

比江島はボディバランスに優れており、重心移動や体勢の崩れた状態を戻す動きが抜群に良い。それは攻撃だけでなくディフェンスでも生かされる。速攻など守備が崩れた状態からギャレットに振り切られる場面はあったが、それ以外の場面は比江島がよく対応していた。

鈴木ヘッドコーチは本人以上の表現で、注目対決の手応えを語った。「ギャレット(196cm)は背も比江島くん(190cm)より高い。ジャンプ力とかスピードとか、身体能力は確かにギャレットの方が上だと思います。大学の時からダンクをやっていたりもして、すごい選手なのは分かっています。ただ勝負では全然負けていない。バスケットをクレバーにやるという部分では、比江島くんが勝ったんじゃないかと思います。ギャレットとの対決は見ていて楽しかった」

比江島にとって青山学院大時代の恩師でもある長谷川健志は日本代表ヘッドコーチから退任したが、比江島は引き続いて代表での活躍が期待されている。出場の可否は別にして、彼は29歳というアスリートとしてのピークで、2020年の東京オリンピックを迎えることになる。そこはギャレット以上の選手が集う場所だ。そんな未来を考えても、ギャレットとの対峙は実りあるモノになったはずだ。