ベン・シモンズ

「高いレベルで活躍できるポイントガードに戻りたい」

ベン・シモンズは椎間板ヘルニアによるフィジカルの問題と、シュートへのイップスというメンタルの問題を抱え、ここ2シーズンはまともにプレーしていない。ネッツとしては、彼にどれぐらいの期待を寄せるかは難しい判断だった。チームの中心に据えて、昨シーズンのようにケガで十分なパフォーマンスを見せられないのだとしたら、開幕前の大事な準備期間が無駄になってしまう。ただしケビン・デュラントもカイリー・アービングもいなくなった今、彼らが頼りにできるタレントには限りがあるのも事実だ。

ヘッドコーチのジャック・ボーンはオフを通じてシモンズのワークアウトを視察し、その復活に賭けることを決めた。「ベンと私は多くのコミュニケーションを取ってきた。私は彼がどれだけ練習に打ち込んでいるかを見て、今どんなコンディションにあるかを理解している」と指揮官は言う。

1年前、ネッツは優勝候補の一つだったが、実際は空中分解寸前だった。ジェームズ・ハーデンはチームの先行きを悲観して去り、アービングはフラストレーションで爆発寸前。この状況に対してデュラントはリーダーシップを発揮できなかった。開幕早々にヘッドコーチ解任劇が起きた時点で、チームは終わった。

今のネッツは優勝こそ期待されていない。それでもスペンサー・ディンウィディーは率直に「優勝が狙える位置にいるわけじゃないけど、僕が最初にいた頃よりも強い。その中間といったところ」とチームを分析する。それなりにタレントは抱負で、若返って伸びしろがあるだけに、舵取り次第では一気に成長して上を目指すこともできる。ミカル・ブリッジズは言う。「昨シーズンは6位でプレーオフに進んだ。今シーズンもプレーオフに進出したいし、それができない理由はないと思う」

フロントも今のチームが持つ将来性を評価しているからこそ、再建への動きを取らなかった。ブリッジズには1巡目指名権でのトレードが複数打診されていたが、ショーン・マークスGMは全く取り合わなかったという。

そのネッツでキーマンとなろうとしているシモンズは、ようやく心身両面での健康を取り戻した。「今は健康で自分の仕事に取り組めている。もう5対5の練習をしているよ」とシモンズは明るい表情で語る。

「メンタル面は瞑想を取り入れてからかなり良くなったと感じている。それに身体的に健康であれば、それが精神面の向上の助けにもなる。毎日練習場に来て自分のベストを出そうとすること自体が、僕にとって当たり前のことじゃなかった。だから今は感謝しているよ」

シモンズが精神的な平穏を取り戻す意味で大事だったのは、ヘッドコーチとの信頼関係の確立だ。セブンティシクサーズではドック・リバースが彼に厳しく当たり、プレーオフで敗れた責任を彼個人に押し付けるような形を取られたことで関係が破綻した。シモンズはシクサーズでの練習参加を拒否。罰金を払ってもチームに戻ることを拒み、ネッツへとトレードされた。ネッツでも昨シーズンのボーンとの関係は必ずしも良好ではなかった。

「コーチがちゃんと僕のことを見ていない時に、本当の信頼関係を築くのは難しい。昨シーズンはそれができなかった。僕は試合に出られないし、コーチにも余裕がなかった」とシモンズは言う。

「でもこの夏は健康を取り戻すために時間をかけたし、彼はその過程を見るために3度もマイアミに来てくれた。僕は自分自身を取り戻し、NBAの高いレベルで活躍できるポイントガードに戻りたい。そう思ってトレーニングをしていた。それを彼は理解してくれたんだ。そういう意味でも感謝したい。仕事に打ち込む時に、周りの人の理解があるのはとても大事だから」

シモンズがオールスター級のパフォーマンスを取り戻すのだとすれば、ネッツはあなどれないチームとなる。期待されていないところからスタートを切り、どこまで進めるのか。1年前とはまた違った楽しみがあるシーズンとなりそうだ。