「周りに合わせすぎようとして、バランサーになっていた反省はあります」

今回のアジア競技大会は、来年2月のパリ五輪最終予選(OQT)に向けた貴重な実戦機会であるため、女子バスケットボール日本代表はフル代表で臨む。東京五輪の銀メダルメンバーであり、恩塚亨ヘッドコーチ体制になってからも代表の常連である東藤なな子は順当に選ばれている。

東藤は東京五輪に最年少で選出されると、フィジカルの強さを生かしたディフェンスと切れ味鋭いドライブを武器にローテーション入りを果たし、銀メダル獲得に貢献した。だからこそ、恩塚体制となり世代交代が進んだ代表にあって、主力としてさらなるステップアップが期待されていた。しかし、ここまでは代表の新しいスタイルにうまくフィットできずに苦しんだ。その結果、約3カ月前に行われたアジアカップにおいて、オーストラリアとのグループリーグ最終戦は7分、決勝の中国戦はわずか1分の出場時間と消化不良に終わっていた。

このまま構想外になってしまうかと思われた東藤だが、これまでの反省による戦術の修正によって息を吹き返してきそうだ。ここまでの女子代表は、攻撃の起点としてポイントガードからの崩しに大きく依存する傾向が強かった。しかし、アジア競技大会ではポイントガードだけでなく、2番や3番ポジションの選手もハンドラーとして崩しに積極的に関わっていくスタイルへの移行を目指している。

この変化を東藤は次のように感じている。「恩塚さんは停滞しないバスケットを目標としています。練習の回数を重ねるごとに、ディフェンスの隙を全員で狙いに行く感覚をつかめていると思います」

所属するトヨタ紡織サンシャインラビッツでの東藤は、緩急をうまく使ったアタックと巧みなステップで相手ディフェンスを次々と切り崩している。だが、代表では「周りに合わせすぎようとして、バランサーになっていた反省はあります」と語るように得意なプレーを出せずにいた。

「『トライ・アンド・エラーを経てどんどん成長して欲しい』と言われています」

しかし、代表活動を積み重ねていくことでの慣れや攻撃の入り口をポイントガードから増やしていく新たな試みによって、東藤が本来のプレーを発揮しやすい環境が整ってきている。また、指揮官からも東藤らしいアタックをどんどん仕掛けてほしいと言われているという。

「停滞しないバスケットの中で、自分の役割としてピックを使う場面など、今までの役割とは違う部分も多くなると思います。その中で恩塚さんには、『たくさん挑戦してトライ・アンド・エラーを経てどんどん成長して欲しい』と言われています。チャンスを見つけて相手の一つひとつの隙を逃さずに狙っていきたいです」

アジア競技大会の目標は、アジアカップ決勝で敗れた中国へのリベンジを果たしての優勝だ。そのためには200cm以上のセンターがいる中国の高さに対し、百戦錬磨の髙田真希が個で対抗できるとはいえ、彼女の負担をいかに軽減し、いかにチームで守れるかが大切となる。コンタクトの強さには自信を見せる東藤もこのように意気込む。

「全員でハードに守って難しいシュートを打たせるディフェンスをして、ボックスアウトからリバウンドを取る。全員が高い強度でコンタクトをするのが必要になっていきます。個人としては、ペイントの中に入られたらさすがに厳しいですが、コンタクトをしてペイントに簡単に入らせないところでは戦えます。相手がボールをもらう前までを頑張りたいです」

昨年の女子ワールドカップに今年のアジアカップと、日本代表は強豪相手になるとどうしてもボールムーブがなくなり、外からの単調なシュートを打っては外れる時間帯が目立った。それ故にアジア競技大会では、『停滞しないオフェンス』の確立が至上命令となる。そのためには、「ボールを持っていろいろな選択肢の中でプレーできるのが自分の強みだと思っています。海外の高さのある相手となると、また課題も増えてくるので挑戦して学んでいきたいです」と、語る東藤にWリーグで見せる本来のオフェンス力を発揮してもらいたい。