吉田亜沙美

文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

町田が三好が、ベンチの吉田に脅威を感じる

JX-ENEOSサンフラワーズは昨日の皇后杯決勝でトヨタ自動車アンテロープスに86-65と完勝。好調のトヨタ自動車であっても寄せ付けない、『女王』の貫禄を見せ付ける勝利だった。

どのチームもJX-ENEOSが相手となれば、ジャイアントキリングのために十分な対策を練って向かって来る。それを跳ね返し続けたからこその『女王』なのだが、今大会のJX-ENEOSには試合が進むにつれて勢いを増す力強さがあった。その要因となったのが吉田亜沙美の存在だ。今シーズンから藤岡麻菜美に先発ポイントカードを託し、ベンチスタートに回った吉田は、タイトルの懸かった一発勝負の舞台で、彼女が本来持つ凄みを存分に見せた。

準決勝で当たった富士通レッドウェーブの町田瑠唯は「ちょっと崩れた時に吉田さんがいるのはデカい」と、トヨタ自動車の三好南穂は「吉田選手が入って向こうの動きが良くなり、こちらは逆に足が止まってしまいました」と語る。

先発ポイントガードの重責を担う藤岡はよく期待に応えているが、それでも吉田がコートに入ることでJX-ENEOSは芯が一本通ったようにピリッとする。それを示したのがこの皇后杯だった。日本の女子のポイントガードでは、やはり吉田がNo.1。それでいてスタートで出ないことを本人はどう感じているのだろうか。それについて吉田は「自分で選んだ道なので」と言う。

「今の役割は悪い流れの時に出て来て断ち切ってあげる、自分が出ることによって流れを変えて、本来のバスケット、ディフェンスからブレイクという形を作ることなので、そこは常に意識しながら、選手全員の心の支えになれればいいと思っています。ポイントガードとして、キャプテンとして『リュウさん出てきたな』と思ってもらえる感じになっていかないといけないです」

吉田亜沙美

「満足したらそれ以上は上達しない」

ベンチに回ったのは藤岡を育てるため。「そのために代わったので彼女には頑張ってほしいと思いますし、藤岡や宮崎早織のサポートをしていければと思います」と吉田は言う。先発で出ることで藤岡にはプレッシャーも掛かるだろうが、「ミスが起きるのは仕方ない。同じミスを繰り返すんじゃなくて、次はこうしてほしい、というのを彼女の中でしてほしい。少しずつ合ってきているし、今回の皇后杯も悪くなかったと思う」と、吉田は藤岡のポイントガードぶり、周囲との連携の構築を認めている。

先発ポイントガードとして試合開始からゲームを作っていくのと、シックスマンとして試合展開に応じて流れを変えるのでは、プレーする上で意識することも変わってくるはず。「プレータイムが限られるので、そこでパフォーマンスをどう持っていくかは自分次第だし、限られた時間で自分がどう流れを変えていくか。それは後から出て行く者の役割だし、監督には期待して出してもらっていると思うので、その期待には応えたい」

皇后杯でのプレー、コート上での突出した存在感を見る限り、シックスマンとしての新たな役割を十分に果たせていたように見えるが、吉田に満足はない。「まだまだです。まだまだできることはあると思うので。満足したらそれ以上は上達しないので、いろいろと追い求めて、挑戦しながらやっていきたいと思います」

昨年は日本代表に参加しなかったし、JX-ENEOSでもベンチに回ったが、吉田亜沙美はまだまだ健在。それどころか、役割を変えてさらに進化しようとしている。