渡邊雄太

ワールドカップ5試合の平均出場時間は脅威の35.0分

バスケットボール男子日本代表は、ワールドカップの最終戦でカーボベルデ代表を80-71で下し、自力でのパリ五輪出場を確定させた。

日本の大黒柱である渡邊雄太は試合後、「いや、もう最高です。本当に大変な大会ではあったんですけど、みんなが頑張ってくれたおかげです。本当に助けられました」とチームメートへ感謝しつつ、喜びを爆発させた。世界で戦い、勝負の厳しさを誰よりも知る渡邊だが、最終クォーター残り7秒、勝利が揺るぎない状況の中、タイムアップのブザーが鳴る前にコート上で涙を流した。

ジョシュ・ホーキンソンとともに最後までコートに立ち続けた渡邊は5得点に留まったものの、40分のプレータイムで10リバウンド(チームハイ)、2ブロックを記録し、特に守備面で大きく日本を支えた。NBAのタフなシーズンを経験している渡邊だが、「本当にフラフラですよ」と、疲労感を隠さなかった。この大一番にフル出場したのだから当然だろう。多くの国がタイムシェアをしている中、渡邊のプレータイムは試合を重ねるごとに増えていき、5試合の平均出場時間は35.0分と驚異的な数字となった。渡邊は今回のフル出場の裏話をこのように明かした。

「コーチに今日は40分行くよって言われました。半分冗談、半分本気な感じで。それこそ、3試合目に次は38分、最後の試合は40分で行くみたいなことを冗談で言われたんですけど、本当にそうなりました」

疲労はピークに達していたが「何よりも勝ったことが大事で、目標は達成できたので。本当に安心しました」と、渡邊は安堵の表情を浮かべた。

公に代表引退の可能性を示唆し「正直とても不安でした」

渡邊は今回のワールドカップでパリ五輪の出場権を逃した場合、代表から引退すると発言した。それは自身を極限まで追い込み、覚悟を決めるためだった。

「今までもいろいろな場面で逃げ切れない状況というか、崖っぷちに追い込んだ時に力を発揮してきたので。今回ももしかしたら何か変えられるんじゃないかなと思い、公で言わせてもらいました。でも、言ってしまった手前、正直とても不安でした。本当に負けたら僕はやめるつもりでしたし、代表のユニフォームを着るのは最後になるんじゃないかなっていう思いを持って、この沖縄に乗り込んできました」

渡邊の強い覚悟はチームメートに確実に伝わった。歴史的勝利を挙げたフィンランド戦で勝利の立役者となった河村勇輝は「雄太さん、まだまだ引退させませんよ」との言葉を送った。渡邊は「計算してやったわけじゃない」と言ったが、自身を追い込んだその言葉は、確実にチームメートにも強い覚悟をもたらしていた。

結果的にチームが完全に一つになった日本は、今回のワールドカップで3勝を挙げ、見事にパリ五輪への切符を手にした。代表チームの心地の良い一体感を感じ、結果を出したことで「死ぬまで日本代表です」と、渡邊は宣言した。

渡邊雄太

「世界で結果を残せば、絶対にバスケ熱に火がつくと思っていました」

4年前、中国で開催されたワールドカップに出場した日本は渡邊に加え、現在はレイカーズに所属する八村塁も出場し、『史上最強』と言われていた。ドイツに勝利するなど、国際強化試合でも結果を残し、期待は高まっていったが、5戦全敗に終わった。特にニュージーランドとのワールドカップ順位決定戦は30点差の大敗を喫し、渡邊も低調なパフォーマンスに終始したことで「相手も遊んでましたし、日本代表として恥だと思います」と漏らした。

4年前に世界との差を痛感したからこそ現在の成長がある。渡邊は言う。「ニュージーランド戦をまだ覚えています。それこそ、史上最強の日本代表という感じで言われていた中でああいう不甲斐ない結果になりました。結果どうこうよりも、気持ちの面で全然準備ができていなかった。その時のメンバーも含めて、みんながしんどい思いをしていたからこそ、今回の最高の5試合だと思っているので、ものすごく誇らしい思いです」

男子日本代表はパリ五輪の出場を決定させた団体球技第1号となった。今回の結果により、日本内でバスケットボールの認知度は確実に高まっただろう。渡邊はこの状況をずっと求めてきたという。「世界で結果を残せば、絶対にバスケ熱に 火がつくと思っていました。特に日本は国際大会で勝てばその競技が本当に盛り上がって、サッカーもそうでしたり、野球もそうでした。僕らはまだ世界で1位になれるほどの強さはないですけど、今回初めて3勝できてパリ五輪も決めることができて。これが本当に第一歩だと思うし、こんなところで誰も満足していないと思うので、パリでまた勝ちます」

もし、五輪出場を逃していたのなら、日本は渡邊を失うリスクを抱えていた。しかし、最高の結果を残したことで、渡邊は生涯代表を続けていくことを誓った。文字通り、男子バスケ界の歴史が動いた日となった。