取材=鈴木栄一 構成=鈴木健一郎 写真=本永創太

吉田との『同時起用』でプレータイムを一気に伸ばす

『オールジャパン2017』を制したJX-ENEOSサンフラワーズの渡嘉敷来夢は、自分たちが成長している以上、他のチームに負けることはないと言い切った。エースの言葉どおり、JX-ENEOSは常勝チームであるにもかかわらず、個人としてもチームとしても常に進化し続け、ライバルの追随を許さない。

今シーズンはリオ五輪で自信をつけた宮澤夕貴がシューターとして覚醒。相乗効果でインサイドの強みも増し、チームに大きなレベルアップをもたらした。そして今回のオールジャパンでは、キャプテンの吉田亜沙美とルーキーの藤岡麻菜美の2ガードという新布陣が採用され、優勝の原動力となった。

2ガードとは言っても、リスタートの際にボールを運ぶのは藤岡。リオ五輪でアシストランキング1位になった日本代表レギュラーの吉田が、戦術的オプションの一つとはいえ2番ポジション(シューティングガード)に回り、藤岡がポイントガードの大役を担った。大学ナンバーワンの司令塔だった藤岡だが、ルーキーイヤーからこれだけの活躍ができるのは驚きだ。

指揮官のトム・ホーバスは、若いからという理由で誰にでもプレータイムを与えているわけではない。決勝では渡嘉敷、宮澤、間宮佑圭は35分以上の出場と、ほぼプレータイムを独占している。藤岡は実力でプレータイムを勝ち取ったと見るべきだろう。

この2ガード、レギュラーシーズンでは一度も試したことのない正真正銘の新布陣。「1次リーグが終わってからの2週間、オールジャパンまでの準備期間はずっとそのメンバーでやっていて。リュウさん(吉田のコートネーム)を2番で、自分が指示して生かすのがすごく楽しかったです」と藤岡は言う。

吉田も藤岡の堂々たるゲームメークを優勝会見の席で褒めた。「藤岡が出た時にドライブからのキックだったり、中での合わせのパスが生きてきた。藤岡が出て流れを作ったところから点が離れました。彼女の動きがJX-ENEOSのバスケットの流れを作ってくれたと思います」

吉田との2ガードにも気負いなし「めっちゃ楽しかった」

吉田の控えとしてプレーするだけでも重圧だろうに、2ガードで同じコートに立ち、なおかつ自分がプレーを組み立てて吉田を使う側になる。このプレッシャーはよほど大きかったのだろうと想像したのだが、藤岡は「めっちゃ楽しかったです」と『通常営業』だ。「リュウさんからはウィングにパスを落としてほしいタイミングを言われたりとか、ガードとして意識していることを教えてくれるので、新しい発見があって楽しかったです」

優勝を決めた後の取材で、吉田は藤岡とのプレーについて詳しく語ってくれた。「同時に出る時は藤岡が1番で私が2番をやっています。藤岡のバスケットの考え方は私とだいたい同じで、どこでパスを出したいのか、今どういうプレーをしたいのか分かっていると思います。早めに受けてあげる時と任せっぱなしの時がありますが、パスも飛んでくるし、やりたいことが分かっていて私も動きやすいので、やっててすごく楽しいです」

「まあ1番がいいんですけど」と本音をチラリと見せながらも、吉田の称賛は止まらない。「ああやって藤岡とバスケットをできるのは新鮮な感じで楽しいです。藤岡はここから成長していける選手で、オリンピックの時には主として日本の司令塔になっていける存在だと思うので。私も彼女の成長は楽しみにしています」

どのチームメートに聞いても称賛の声ばかり。優勝を決めた直後のコメントだということを差し引いても、よほど認められているのが分かる。当の藤岡自身は、大学を卒業してJX-ENEOSに飛び込み、初めてのタイトルのチャンスをしっかりモノにしたことを素直に喜んでいた。

「私は常勝軍団に入ったことがなかったし、インカレ優勝以外、大きい大会での優勝も初めてなので。いつもはテレビであの舞台を見ていてすごいと思う、全然違う世界だったんですけど、今年はあのお立ち台に立てました。あの瞬間はめっちゃ鳥肌が立ちました」

試合を重ねるごとに高まる自信「自分が成長できた大会」

ルーキーで、なおかつポイントガードという経験が求められるポジションで、入団からここまで苦労がなかったわけではない。だが、最もポジション争いの厳しい『常勝軍団』に加わり、着実に評価を高めている。藤岡は言う。「1次リーグではJXのバスケットボールの中に自分がフィットしていなくて、ヘッドコーチが求めるゲームメークができないことも分かっていました。なかなかプレータイムがもらえない時もありましたけど、今は中に入れなきゃいけないタイミングだったり、JXのバスケットを少しずつ理解しながらも、自分らしさがJXのバスケットの中に溶け込めていけてるんじゃないかという手応えを感じています」

コート上では堂々としているが、「普段はビビっている」という藤岡も、良いプレーを積み重ねるごとに手応えを得ており、さらに今回のオールジャパン優勝への貢献は大きな自信になった。「すごい人たちばかりなので、最初はもうドリブルをつく練習でさえ一人だけビビってる感じでしたが(笑)、今大会は自分が成長できた大会だと思います」

「今大会でリュウさんのつなぎ役という部分では一つチームの役に立てたと思います。ポイントガードとしてもっと信頼を得られるように決定力もパスもディフェンスも向上させていきたいです。JXはチームディフェンスの守り方がすごく厳しく決まっていて、まだ理解できていない部分もあるので、そういうところをしっかり深めていきたいです」

Wリーグは1月21日から再開。前半戦は22戦全勝と圧倒的な強さを見せたJX-ENEOSだが、ここから先の2次ラウンドは上位チームとの対戦ばかり。どのチームもこれまで以上に『打倒JX-ENEOS』に燃えており、気の抜けない戦いが続く。それでも圧倒的に層の厚いチームにあって藤岡や宮澤が急成長しているJX-ENEOSは盤石に見えるが、個人としてチームとしてどう成長していくのかが楽しみだ。