勝因を聞かれた吉井裕鷹「もう世界の比江島でしょう。本当に勝負強いと思います」
FIBAワールドカップ2023、男子日本代表はベネズエラ代表との順位決定戦に86-77で勝利。これで大会通算2勝2敗とした日本は、次のカーボベルデ戦に勝つと、他チームの結果に関係なくアジア1位でパリ五輪出場が決まる。
日本は試合序盤からベネズエラの激しいディフェンスにリズムを崩され、オフェンスが停滞してしまう。オープンシュートを決め切れなかった相手にも助けられ、前半は5点のビハインドで折り返すが、第3クォーターに入るとベネズエラの長距離砲が決まり始め、突き放されていった。
第4クォーター残り8分で53-68。この絶体絶命の危機を救ったのが比江島慎だった。比江島は残り7分半からの3分間で、3本の3ポイントシュートを含む怒涛の11得点を記録し、日本は一気に2点差まで肉薄。完全に日本のペースになると、残り1分55秒には馬場雄大のスティールから比江島がレイアップを沈めて遂に逆転。さらに残り47秒にはリードを5点に広げる、勝利の決定打となる3ポイントシュートを沈めた。
比江島は第4クォーターだけで17得点の大暴れを見せ、試合全体では3ポイントシュート7本中6本成功の23得点をマーク。勝因を聞かれた吉井裕鷹の言葉は、この試合を見たバスケファン全ての気持ちを代弁するものだった。「もう世界の比江島でしょう。ほぼ100%の確率で決め切って、リスペクトしています。本当に勝負強いと思います」
比江島は「本当に苦しい展開でしたけど、勝ちきれてすごくうれしいです」と安堵の表情を見せる。そして「シュートタッチは良かったので、打ち切れさえすれば入る感覚がありました」と、『比江島タイム』発動の第4クォーターをこう振り返る。「ベネズエラは昨日も試合をしていたので、途中で絶対に足が止まる、自分たちに流れが来ることを信じていました。もちろん計画通りではないですが、それでも慌てることはなかったです。しっかり自分のパフォーマンスが出せて良かったです」
「今までの悔しい経験が自分のパワーになっています」
パリ五輪への切符をつかむには何としても勝たなければいけない一戦だった。ただでさえ重圧がかかる中、比江島は第4クォーターで2桁のリードを許す大ピンチに逆転への切り札として投入された。さらに言えば、ファウルトラブルに陥り、すでに4つのファウルを犯していた。完全に追い込まれた状況だったが、比江島に焦りはなかった。
ワールドカップや五輪最終予選で味わってきた悔しさ。それが彼を冷静でいさせた。比江島は言う。「今までの悔しい経験が自分のパワーになっています。そして今日の試合に生きたと思います。惜しいところまで行って勝ち切れない経験を何回もしてきたからこそ、慌てることはなかったです。これまでのいろいろな経験が欲しくて、トム(ホーバス)さんも代表に選んでくれたと思います。それを今日は証明できました」
そしてホーバスヘッドコーチは、比江島を次のように称える「彼はベテランでいろいろと経験があります。第4クォーターで10点差以上リードを許していたので、点が取れるマコ(比江島)を使うしかなかった。あそこで試合のリズムが変わらなかったらヤバかったです。本当に熱くなってくれて良かったです」
こう比江島への感謝を強調するホーバスだが、一方でこの活躍をスタンダードにしてほしいと発破をかけている。「(昨シーズンのBリーグ)日本人の中で一番3ポイントシュートの成功率が高く、43%です。だからもっと打った方がいい。まぁ、今日はゲームチェンジャーになってくれました。いつも今日くらいやってほしい、これが普通になってほしいです(笑)」
吉井の言葉の通り、今日のパフォーマンスは『世界の比江島』と呼ぶに相応しいモノだった。あともう1試合、今回のようなプレーを見せ、パリ五輪へと導いてほしい。