ジェームズ・ハーデン

自主的に年俸を下げた昨年に引き続き「安く見られた」ことに怒り?

ジェームズ・ハーデンは契約最終年のプレーヤーオプションを行使した。ただ、これはセブンティシクサーズへの残留ではなく、何らかの見返りを残すとともに一緒にトレード先を探すことを意味する。

移籍先として挙がるのはクリッパーズとニックス。しかし、トレード決定の報はなかなか出ない。移籍というものは、決まる時には一夜にしてすべてが決まるものだが、そうはなっていない。

『The Philadelohia Inquirer』は、現在の状況を招いた表に出ない要素をこう予想している。まずロケッツがバンブリート獲得に動いたことでハーデン復帰の可能性が消滅した。この時点でシクサーズは、ハーデンには残留の選択肢しかないことを見越して、足元を見た新契約を提示。ハーデンの要求である3年1億5000万ドル(約200億円)に対し、単年4000万ドルあるいは2年8000万ドルだったと推測している。

ハーデンは昨シーズンにも一度、年俸の減額を受け入れている。昨シーズンにはジョエル・エンビードとリーグ最強のツーメンゲームを見せたことも踏まえれば、このオファーを「リスペクトを欠いている」と感じるも無理はない。こうして腹を立てた彼は、プレーヤーオプションの行使を選択して移籍先を探し始めた。

実際、シクサーズのオファーはハーデンへのリスペクトを欠いたものだったのかもしれない。しかし、ダリル・モーリー球団社長は、ロケッツ時代から友情の続くハーデンが相手であっても、時には冷徹な決断を下すべき立場にある。サラリーキャップの制限が今後より厳しくなる状況で、コンディションに不安のある、特にプレーオフになると調子を落とすハーデンの要求を100%満たすオファーは出せない。

クリッパーズとニックスも、ハーデンを魅力的な戦力と見ているにしても、シクサーズが納得できるようなトレードの条件は提示しづらい。両チームとも、もともとハーデンを取るプランはなかったはずで、主力選手や多数のロールプレーヤーを放出すれば、チームプランはご破算でゼロからのやり直しを強いられる。両チームの姿勢は「シクサーズとハーデンの関係が決裂して、良い条件で獲得できるなら検討する」であって、どんな代償を払ってでもハーデンを取りに行くような姿勢ではないのだろう。

こうなるとハーデンには分が悪い。ケガが多くなっているのは事実であり、シクサーズだけがリスペクトを欠くのならともかく、どのチームも同じ評価を下すとなると、それがハーデンの価値となる。

もっとも、ハーデンに需要がないわけではない。ハーデンを最も必要としているのは、ハーデン込みのチームプランで動いているシクサーズだ。ハーデンとの関係を修復できずに彼が出て行ってしまえば、東カンファレンスのトップチームからシクサーズは一歩後退することになる。

ただし先々のことを考えれば、シクサーズはタイリース・マクシーにポイントガードを任せるべきだとの意見も多い。3年目のシーズンを終えた22歳のマクシーに、経験が問われるプレーメークを託すには少々不安もあるが、ハーデンがいる限りマクシーはガードの2番手に甘んじる。近い将来にオールスターとなり、いずれシクサーズを引っ張ることが確実なマクシーの成長を引き出すには役割と責任を増やすべきで、そのためならハーデンを放出しても構わない。この意見への支持がメディアやファンに多いこと自体、ハーデンが「リスペクトが足りない」と感じる理由なのかもしれない。

最終的にはどこかのタイミングでハーデンが怒りを解き、シクサーズに戻ることになりそうだが、その場合もプレーヤーオプションを選択した以上は撤回できず、彼は新契約を結ぶことのないまま3500万ドル(約47億円)の年俸でプレーする。2年間に渡って年俸を削ることで彼の生涯収入はかなり損なわれるが、それはシクサーズにとっては優勝への後押しとなる。雨降って地固まる、といくかどうか、シクサーズの今後に注目したい。