滋賀レイクスはシーズン序盤に外国籍選手の負傷離脱や退団が重なり、ここまで4勝30敗とリーグ最下位に沈んでいる。クラブは11月中旬に、昨シーズンから指揮を執るルイス・ギルヘッドコーチとの契約解除を発表し、1月下旬にはヘッドコーチ代行を務めた保田尭之との契約も解除した。そして、チームの再建を託されたのは33歳の若きスペイン人コーチ、ダビー・ゴメス。『B1残留』へと目標を下方修正したチームの救世主となれるか、ゴメス新ヘッドコーチに話を聞いた。
「ジャーナリストとして活動していた時期もありました」
――まずはこれまでの経歴について教えてください。
スペインのユースチームでプレーした後、コーチに転身しました。選手時代にはスペインで3度優勝し、U15のナショナルチームではリッキー・ルビオ(キャバリアーズ)と一緒にプレーしたこともあります。
――それはすごい経歴ですね。なぜそのまま選手の道に進まなかったのでしょうか?
理由は2つあって、1つはフィジカルです。ヨーロッパはレベルが高いのでサイズなどの問題がありました。もう1つは、指導を受けたどのコーチからも「君はコーチになるべき人材だ」と言われたことです。彼らに直接聞いたわけではないので確かなことは言えませんが、私のコミュニケーションやリーダーシップの取り方にコーチの素質を感じたのかもしれません。
ちなみに、前々ヘッドコーチのルイス(・ギル)は、ナショナルチーム時代のヘッドコーチで、私のコーチングキャリアを切り開いてくれた恩人です。ナショナル時代の彼の指導はとにかく厳しくて、死にそうでした(笑)。ただ、彼の誘いでベネズエラのクラブのアシスタントコーチを務めたことから私のコーチキャリアはスタートし、以後、ボリビア、デンマーク、ドイツ、スペインのチームでコーチを務めました。ドイツではスコット・エサトン(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)と一緒に仕事をしたこともあります。
また、ジャーナリストとして活動していた時期もありました。国際関係や経済などについて記事を投稿していて、特に2012年の『スペイン経済危機』の時はいろいろな記事を担当していました。ユースチームのコーチングをしている時も掛け持ちでやっていましたね。
――イヴァン・ブバ選手の早期離脱やジェイコブ・ワイリー選手の退団など様々な困難があり、現在はリーグ最下位に沈んでいます。ここからどのように立て直していきますか?
まず、難しい時期に指揮を執ってくれたルイス、保田尭之ヘッドコーチの存在がなかったら今の自分はいないので、チームを立て直そうとしてくれた彼ら2人に感謝したいです。
連敗続きでタフな状況をこのグループで戦っています。「自分たちに足りないものは、このグループで勝てると信じられるかどうか。もしそれを信じていない人が一人でもいれば、この先に進む前にこの部屋から出ていってくれ」と、みんなに伝えました。自分たちのマインドセットを変える、自分たちをどれだけ信じられるかというところからアプローチしています。練習で自分の役割を100%コミットできるかどうかが大事で、それが全員に浸透しできるようになってくれば、必然的に自分たちが求める結果がついてくると伝えました。
――ルイス元ヘッドコーチはアップテンポなディフェンスチームを目指してきましたが、スタイルはそれを踏襲しますか? それとも新たなスタイルを構築していきますか?
まず最初にギルとは仲が良いですが、一緒に仕事をしたのが今回の1シーズンのみなので、彼のバスケの全てを知っている訳ではないですが、彼が築き上げてきたハイペースのバスケはしていきたいです。最下位ではありますが、オフェンスのテンポはリーグでもトップレベルです。ただ、それに合わせてポゼッションがついてきていないので、そこがうまくついてくれば違った結果になると信じています。
フルコートで走ることもそうですが、僕が求めるハイペースというのはハーフコートでどれだけハイペースにプレーできるかどうかを大事にしています。それはスペインのスタイルでもあり、自分のスタイルなので、それをチームにも求めていきたいです。
「規律を持って仕切ることが僕の戦いであり、使命です」
――分かりやすい例を出すと平均失点と得点がともにリーグワースト5位圏内です。どこの改善から着手していきますか?
僕のバスケットボール観としてはオフェンスとディフェンスのどちらかというよりも、どれだけバランス良く自分たちのシステムに持っていくかを重視しています。そこが今すぐに変えられる、変えるべきポイントだと思っています。
先ほども言いましたが、過去14試合でトランジションには持って行けていますが、その中でターンオーバーが多かったりシュートを決め切れていません。トランジションに持っていく前のディフェンスをどこまでできるかやディフェンスリバウンドを確実に取ることも大切です。数字で見ると、ターンオーバーとリバウンドも下位にいるので、そこが変わってくるとより良い流れで自分たちのバスケができるようになると信じています。
――ハイペースを求めるならボールをプッシュするテーブス海選手が大事になりますし、リバウンドの観点からすると川真田紘也選手のステップアップも必要だと思います。特に期待する日本人選手は誰でしょうか?
本当に一人ひとりが重要になると思っています。もちろん、海や川真田は重要なピースです。海はリーグの中でもトップポイントガードの一人ですし、川真田も代表に呼ばれたり、日本の今後を背負う選手の一人です。湧川(颯斗)も将来性の高い選手でヨーロッパでも活躍できる可能性のある選手だと思っています。彼らを含めた全日本人選手の毎日の練習の取り組みが、ここからさらに重要になります。結果はついてきていないですが、『Progress(進歩)』していこうと言っているところは確実に成長しているので、それぞれがどれだけ信じて取り組んでいけるかになります。
チームに足りていないのは一体感で、どうしても個々で打開しようとしています。だからこそ、特定の誰かに期待するという答えはありません。僕は『Togetherness(連帯感、協調)』という言葉で伝えています。あとは『Respect(尊敬)』と『Trust(信頼)』。チーム内はもちろんですが、相手からも良い意味でリスペクトされるチームにならないといけません。僕らは特別に高さがあるわけでもないですし、スピードもフィジカルもトップではありません。フィジカルがないにもかかわらずファウルが多いのはアグレッシブな証拠でもあります。恐れられるという意味で、Respectされるようなチームを目指します。
――大変なタイミングでヘッドコーチを任されたわけですが、ご自身の感情はいかがでしょう?
もちろん、ヘッドコーチに選んでいただいてうれしいですし、誇りにも思います。でも自分よりもチームへのフォーカスが最優先です。気持ちを落ち着かせながら、真剣に厳しく取り組む。僕のやり方をチームに浸透させ、全員がしっかり着いてこれるように規律を持って仕切ることが僕の戦いであり使命です。
どんなに遠いアウェーゲームでもたくさんのブースターの方が駆けつけてくれています。今まではできませんでしたが、勝利という形で恩返しをしていきたいと思っています。